第121話 停戦合議・当日
朝になり、いよいよ停戦合議の当日になった。昨日、一昨日よりは遅く起きた。
昨夜遅くに部屋に戻り、マルタのベッドに潜り込んだ。何もなかったかのように…。
着替えてから宿の外に出ると、騎士団がバタバタしていた。
「ロアン、何バタバタしてる?」
「あ、マモルさん、おはようございます。昨夜は、いつの間にかいなくなってましたね。どこ行ったんですか?」
「内緒。で、何してんの?」
「一応、何かあった時のために準備をと、エイサムの団長から指示がありまして…」
「そんなことしたら、好戦的な連中を煽ることにならんか?」
「私もそう思ったんですけどね。ウチの団長も合意したんで…」
手招きして、少し脇に寄った。タバコを吸いながら、
「なんか裏があるかもな、エイサムの団長…。チョイと気を付けた方がいいかも…」
「ウチの団長と同じことを言いますね。怪しいからこそ、このことに乗ったようです。実は自分も同じ考えです。好意的に見えるんですが、時折『裏』を感じさせるんですよ。意図的なのかヘタなのかわかりませんが…」
頭の中で、ここに至るまでのいろんなことがグルグル回り始めた。領主の毒殺、犯人である踊り子の女、その女の自殺、好戦的とはいえ、長いことなかった部族間の衝突。この一連の出来事について、何故ミーシャはエイサムの騎士団に相談しなかったのか?近いとはいえ何故、隣のエクランド領まで助けを求めたのか?
領主の毒殺と犯人の自殺については、必ず裏で糸を引いている何者かがいる。これは確定だろう。部族間の衝突についても、誰が仕向けた可能性がある。残るのはミーシャたちの行動。
昨夜ミーシャたちは、ワシらと一緒に飲んだよな?そこに両騎士団の団長、副長もいた。ミーシャと女性騎士は会話していた。その会話の内容について、エイサムの団長も同意を示した。が、ミーシャは彼の方は見なかった。というか、近付こうともしなかった?何か不自然に感じたのはそれか?
「ロアン、やっぱりエイサムの団長、怪しいぞ?」
とワシの考えを伝えた。しばらく考えてから、
「マモルさんの話し、辻褄は合いますね。マモルさんの小隊って、エイサム騎士団の小隊の近くに配置、でしたよね…?」
「狙いはワシ、ナイトの抹殺か?」
そう。衝突を起こし、その混乱の中で『王国のナイト』を潰せば全体の士気が下がる。そこを狙ってエクランド騎士団を討つ。おそらく簡単に瓦解するとの考えだろう。舐められたもんだな。
この図式を、ロアンとともにエクランドの団長、アレックスに伝えた。即座に理解し、陣形の『向かう方向』と小隊そのものを変えるようにした。具体的には、
・ワシの小隊の両側にエイサムの小隊
・その外側にエクランドの小隊
で、共に「外の好戦的部族」に向かうことになっている。そのエクランドの小隊を、エイサム側の攻撃が行われた際に、『内側のエイサムの小隊」に向けることで、中央のワシの小隊に加勢する形だ。配置される小隊は、団長、副長それぞれが率いる小隊になる。
「しかし、この状況でワシを手にかけたら、謀反を起こしたことになるだろうに…。いや、考えただけでNGか…。しかし、何のために?そこがわからんな…」
「何にせよ、今はまだ気付いていないフリをしていましょう。捉えるのは、明確な行動を起こしてからでいい」
そんなタイミングで、ミーシャたちが来た。
「気付いたようね。間にあってよかったわ。マモルの小隊に、アタシたちも入れて。そうすれば、『王国のナイト』の守りはより強固になるわ」
この提案にはアレックスも納得したが、腑に落ちないことが…
「何で、このことを先に話さなかった?」
「自分たちの周りがこんな状況よ⁉︎ 誰を信じればいいの⁉︎ 疑心暗鬼でエクランドに行った。そこにエイサムの連中とつながってるヤツもいるかも知れない…。そんな中で言える?」
「そうだな、すまん。ミーシャを責めてるわけじゃない。ワシらが信用されていなかっただけだ」
情けない話しだ…。
「よし、とりあえずは『気付いていないフリをする』でいいな。で、万が一にも内乱になった場合は、今決めた通りの陣形配置にし、その動きも変える。その際に優先すべきは、ナイトの護衛とエイサム騎士団団長の捕縛だ」
ワシは一旦宿に戻り、今の取り決めをマルタに伝えた。2人で食堂に行き、朝食を摂った。
「昨夜仲良く飲んでたのに…。見かけじゃわからないわね」
「わからないことはまだあるよ。ナイトとはいえ、何故ワシにマトを絞ったか。いつからなのか?何が目的で動いているのか…。まぁ、探りは入れるけどね」
小声でそんな話しをしながらメシを食った。どこに聞き耳があるかもわからないからな。
メシを終えて、部屋から一応武器を用意して、外に出た。アーマーを身に付け、左の腰に『脇差』程度の長さの刀を2振りと、手にはいつものクロスボウ。右の腰に2つの矢筒。ガントレッド代わりのバングルを両腕に…。
「マモルさん、随分と軽装ですね。ナイトの甲冑はどうしました?まさか領主様から拝領して、質入れしたとか⁉︎」
ロアン、なんてことを…。
「バカ言うな。そもそもナイトの装束なんて頂いていないよ」
「えっ?用意されてたはずですよ?」
「呼ばれてないから、『ナイトを授ける』といわれて以降、領主館に行ってない」
など、集合までタバコを吸いながらダベっていた。
ロアンはアランのようなタイプだな。軽口も合わせられて、それでいて機転も効く。周りへの配慮もできる、等々。
団長から集合の合図があり、総員整列した。全員で領主館に向かい、外で護衛に就く者と、団長、副長とワシ(ナイト)とともに中に入り、内部の護衛にあたる者に分かれる。これらは事前に決められていた。
領主館に近付いたところで、各自の配置場所に散っていく。ワシらはそのまま歩を進め、領主館に入って行く。エクランドの領主館並みにデカい…。ここも贅沢だ。
領主館のスタッフに案内され、エクランドの控え室に入った。ここに至るまで、エイサム騎士団のメンバーとは会っていない。ワシの武器についての情報はないだろう。もっとも、領主館のスタッフが通じていれば漏れることだが。おそらく、その懸念はないと思われた、
『王国のナイトを亡き者に』
などという計画を、広められるはずもなく、ましてや、戦闘中の『事故』に見せかけるなら、尚更だろう。
周りの物音から、エイサム騎士団が入って来たようだった。団長と副長が出向き、ワシらはそのまま控え室にいた。やがて開かれるものは、平穏なエイサム領の新たな未来か、はたまた、戦火か…。今の時点で知る由もない…。




