↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
23/35

第23話 自律するグリッドの瞬き

『――第十一評価ポイントクリア。時系列:一九八〇年代。目的地:アメリカ合衆国・マサチューセッツ州』


 一九七〇年代の世界中の男性たちが流した涙と、真の連帯の歌声が、青い光の粒子の中に融けていく。

 時空を渡る心地よい浮遊感のあと、僕が降り立ったのは、無機質な冷却ファンの低音がブーンと響く、最初期の大規模電子計算機室の内部だった。


「一九八〇年代……。デジタルと制御の、大転換期だ」

 見上げた窓の外には、これまでの僕の旅が紡いできた、驚くほど美しい二〇世紀末の都市並みが広がっていた。

 世界中に太陽光や海洋発電、コジェネレーションが溢れ、地球は完全にクリーンに保たれている。しかし、デバイスの画面は、静かに次なる「技術的な限界値」を弾き出していた。


『現在地:一九八四年。

 状況:世界各地に無数の『分散型クリーンエネルギー』が誕生した結果、逆に「電力網(グリッド)」全体の制御が限界を迎えています。太陽光や潮力の出力は天候で常に激しく変動するため、それらをミリ秒単位でリアルタイムに最適統合できなければ、大規模な大停電(ブラックアウト)が頻発します。産業用シーケンサー(PLC)の開拓者リッチャード・モーリーらは、工場や送電網を自動制御する機械の基礎を開発しましたが、現在のコンピュータの処理速度と制御理論では、世界規模の複雑なクリーン電力を制御しきれず、インフラの崩壊(パニック)が迫っています』


 どれほど素晴らしい自然のエネルギーがあっても、それを束ねて制御する「脳(システム)」が未熟なら、インフラは破綻する。そうなれば、人類は安定を求めて再び「一括で大量燃焼できる石炭や石油」の利権へと巻き戻されてしまうだろう。


(死に戻りの最後に体験した、人類をデータ空間に閉じ込めたあの最悪のコンピュータ技術――あれは、このためにあったんだ。今度は世界を殺すためじゃなく、世界を『制御して活かす』ためにあの知恵を昇華させる!)


 僕はステルス・モードの光をまとい、複雑に絡み合った配線と、初期の貧弱な処理チップを前に頭を抱えていたリチャード・モーリーら技術者たちの実験室へと足を踏み入れた。


「駄目だ! 太陽光の急激な出力変動に対して、現在のシーケンサーの演算速度では応答が遅すぎる! 網の目のように繋がったコジェネの熱と電気のバランスをリアルタイムで同期させるなど、今のコンピュータ物理では不可能だ!」


 絶望に声を荒げる彼らの回路図の前に、僕は静かに歩み寄った。

僕はポケットから青いデバイスを取り出し、彼らのプログラミング基盤、そして制御アルゴリズムのマスターデータへと、未来の知見を滑り込ませた。


 僕が仕掛けたイノベーションは、狂気(超伝導・量子デジタルブースト)を、完璧なる「防衛の知恵」へと反転させる技術だった。

 

 一つ目は、『自律分散型制御理論(産業用PLCの超進化)』だ。

 中央の巨大なコンピュータがすべてを処理するのではなく、各地の送電ノードや発電所(シーケンサー)自体が、まるで生き物の細胞のように自律して対話し、電力の過不足をミリ秒単位で補い合う高度な分散アルゴリズムをモーリーの脳内に閃かせた。


 二つ目は、『産業用高速演算チップ(RISCアーキテクチャの先行最適化)』だ。

 死に戻りの最後で体験した、データ空間の底で僕の良心がハッキングした、あの超伝導・並列処理の最適化ロジック。それを一九八〇年代の半導体技術で再現可能な形にスケールダウンし、制御コンピュータの心臓部へと組み込ませた。


 雲が太陽を遮り、一瞬でメガワット単位の電力が途切れたその瞬間。

世界中の自律型シーケンサー(PLC)が同時に瞬き、ミリ秒の狂いもなく海洋発電の出力を引き上げ、コジェネの排熱を完璧に同期させて、電力網の波を完全にフラットに抑え込む。


「……モーリー! 成功だ! グリッドが……世界中のクリーン電力が、まるで一つの生き物のように完璧に自律制御されている!」

「大停電の危険は完全に消え去った。これなら、どんなに不安定な自然エネルギーを世界中に繋いでも、一瞬の揺らぎすら起きないぞ!」


実験室に、割れんばかりの歓声と、涙が溢れた。

前の死に戻りで人類の肉体を奪い、電子の檻に閉じ込めたあの最悪のテクノロジーが、蓮くんの良心によってリファインされ、今、地球全体のエネルギーを完璧に守り抜く最強の『自律分散型スマートグリッド』として完全開花したのだ。


 数年のうちに世界中の電力網は、化石燃料を必要としない「完璧なデジタルの脳」を手に入れた。

人類は、高度なコンピュータと制御理論の美徳によって、大自然の不規則な呼吸(天候)を完全に飼い慣らし、ロスなく地球全体のエネルギーバランスを調和させることに成功したのだ。


『――環境改変率上昇。高度制御理論(PLC)および自律分散型スマートグリッドの完全定着を確認。

 現在の環境・人間性意味率:【環境負荷:−98% / 制御技術の進化:+55%】

 これより、第2部最後の歴史転換点へ、連続跳躍します。目的地:一九九〇〜二〇〇〇年代・新興工業国』


 電子の瞬きが美しく街の灯りを制御していく、一九八〇年代のサイバー・クリーンな都市の夜景が、再び心地よい青い光の中にほどけていく。

新興国が爆発的に発展するための、完璧な「受け皿(インフラシステム)」がここに完成した。僕は、自分の足跡が紡いできた因果の美しさを確信しながら、次なる、そして最後の歴史の結び目へと時空を渡っていった。


----------------------------------


【作中の背景となった「シーケンサー(PLC)」と「制御」の歴史】

・リチャード・モーリー(1932年 - 2017年)と産業用シーケンサー(PLC)の史実


現実の歴史:

1960年代末、アメリカの技術者リチャード・モーリーらは、それまで工場の機械を動かすために無数の電線を手作業で繋いでいた複雑なリレー回路を、コンピュータのプログラムだけで一括制御する画期的な装置「PLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ/通称シーケンサー)」を発明しました。これが、現代のすべての工場や社会インフラ(ビル、エレベーター、発電所)を完全に自動制御する「近代オートメーションの心臓」の始まりとなりました。


史実の限界とクリーンエネルギーの壁:

現実の1980〜90年代のコンピュータや制御理論は、まだ特定の工場を動かすレベルが限界であり、現代(21世紀)に至るまで、太陽光や風力といった「天候で激しく出力が変わる不安定な再生可能エネルギー」を大量に電力網(グリッド)に繋ぐと、システム全体がパンクして大停電を引き起こすという致命的な弱点を抱え続けていました。そのため、人類は電力を安定させるために石炭や天然ガスを燃やし続けるしかなかったのです。



・第1部の「トラウマ」が「世界の救い」へと変わる因果

作中の蓮くんは、第1部の第9話で自分自身を生気の無いデータ空間へ閉じ込めた「凄惨な超デジタル技術」を、1980年代のモーリーたちのシーケンサー基盤へと反転流用しました。


・これにより、1980年代の段階で、世界中の太陽光やコジェネ、海洋発電の出力をミリ秒単位で完全に自動制御し、大停電のリスクを100%ゼロにする完璧な「スマートグリッド・システム」が誕生しました。過去のループで負った絶望が、巡り巡って世界を化石燃料の利権から完全に解放するための最高の知性へと昇華されました。


---------------------------------


【第23話における制御理論の超進化とスマートグリッドの確立】

 第1部第9話で人類をデータ空間の檻に閉じ込めた「高度なデジタル・半導体・量子並列処理」の知識を、蓮の意志で反転流用。1980年代のリチャード・モーリーらの産業用シーケンサー(PLC)開発に介入しました。個別のクリーンエネルギー(太陽光・潮力等)が持つ「天候による出力不安定」という熱力学的・インフラ的な致命的バグを、ミリ秒単位で自動同期・補正し合う【自律分散型スマートグリッド・システム】を1980年代の段階で世界全域に完成させました。これにより、化石燃料の安定性に頼る必要性を市場から消滅させました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。