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19話 氷瞳の女王、立つ 

オレは自らの体が裂けようと構わず、

暴風を叩きつけて竜巻を起こし、ジグムントごと空へと巻き上げた。


「ぐぬぅううう――!」


さすがのジグムントも、想定外だったらしい。

地上は奴の庭。だが、空はオレの土俵だ。


風圧が耳を裂き、森が豆粒のように遠ざかる。

みるみるうちに高度が上がった。


ここなら…避けられない。


オレは風の魔力を一点に集束させる。

弓を形作り、引き絞る。

メイビスを討った、あの“風の矢”だ。


「これで――終わりだッ!!!!」


全力で解き放つ。

矢は大気を切り裂き、ジグムントの胸を正確に捉えるはずだった。


――はず、だった。


「ぬんッ!」


老人の体がわずかにひねられ、閃光。

刀が風の矢を真っ二つに裂いた。


「な……バカなッ!」


驚愕が喉を焦がす。

仲間が援護射撃の魔法を放つが、

ジグムントは一切の隙を見せず、それらを切り払いながら一直線に地へ落下した。


まだだ。着地直後なら体勢が――


すぐさま次の一撃を放つ。

だが、それすら読まれていた。


老人は着地の瞬間、体をひねり二撃目も斬り捨て、

ジグザグに走りながら闇深い森へ消え去った。


森へ消えゆく背に、ジグムントはふと振り返った。

「――また会おう。王よ」

低く響く声が、大気を震わせた。



脅威が去り、張りつめていた肺がようやく息を吸った。


その刹那、仲間の一人が叫ぶ。


「ザムザ様! 見たんです……

魔王軍、地面の下から現れました。

 あれは……穴です!」


「穴……? そうか、地下か!」


脳裏に閃光が走る。

――ホーチミン・トンネル。

ベトナム軍が米軍を苦しめた、あの地下網。



なるほど……。



地を掘る魔族がいてもおかしくない。


おそらく一本ではない。複数のルートを持ち、

補給と奇襲を自在に繰り返す。

どうりで空から見ても痕跡がないはずだ。



だが、こちらから穴に踏み込めば空の優位を捨てることになる。

輸送路の遮断は……無理だ。



消耗戦。遅滞戦術しかない――。



胸に重石のような苦味が沈む。



徹底的な輸送路遮断に対する防御。


前線ではなく、自身の最高戦力を

輸送路に置き、隙あらば討ち取ろうとしてくる

周到さ。


その上で空中部隊を使い王都を奇襲してくる。


間違いなく強敵だ。


オレの技術は尽く封じられ、決定打を欠く。

それは、犠牲が増え続けることを意味していた。


だが、今は立ち止まれない。

一刻も早く――王都へ戻らなければ。


オレは歯を食いしばり、全身に風を纏った。




王都上空を、無数の影が覆った。


魔王軍飛行部隊――国の中枢を一撃で揺るがすはずの奇襲だった。


……はず、だった。


戒厳令下の王都は、驚くほど静かだ。


人影はまばらで、避難路はきっちり確保され、

自警団が手際よく巡回する。

訓練済みの民衆は慌てず、地下の避難所へ淡々と消えていった。


「これは……どういうことだ?」


四天王のひとり、竜人マクシミリアは眉を顰める。


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恐慌に陥った群衆を想定していたが、目に映るのは不気味なまでの整然さ。

胸に、罠に誘い込まれたかのような嫌な感覚が走った。


次の瞬間、城壁が咆哮した。


大砲、バリスタ、連射される魔道弾。


空を切る矢光が飛行魔族を次々と撃ち落としていく。


(な、何ということ……!

 部隊は創設されたばかり。まだ何もしていないのに!)


マクシミリアは若き竜人。

魔族でも屈指の個体戦闘力を誇り、常に先陣を切る特攻隊長――

それが彼女の役目だった。


国王ザムザの空挺戦術に対抗するため、

魔王が初めて編成した飛行部隊。


その初代隊長こそが自分。


その誇りが、いま胸を焦がす。


(親愛なる魔王様のために……

 そして、この翼を信じた部下たちのために!)


「王宮を狙う! 全隊、ついて来い!」


このままではジリ貧だ。


王宮を落とせば、敵の戦意を削げる――

そう判断し、鋭く翼を翻した。


だが、それは甘かった。


王宮は要塞と化していた。


飛行魔族の機動力は城壁内では半減。

矢と魔法の網が空を裂き、自由は奪われる。


そして――


石畳の中庭に、ひとりの女性が静かに現れた。

マクシミリアは息を呑む。

その顔に、確かな記憶がある。


金髪が夜風に揺れ、瞳は氷のように冷たい。

王妃、ユリシア・ヒレツ。


彼女は一歩、また一歩と進み出て、

月光を背に立った。



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