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20話 最恐の王妃

中庭に月光が差し込む。

ユリシアは剣も鎧も持たず、凛とした眼差しで竜人を見上げた。


「……王妃ユリシア・ヒレツか」


息を荒げたマクシミリアが獣の瞳で睨む。

「王など不要。お前が女王となれ。ザムザより、この国を束ねられるはずだ」


焦りと懇願が混じる声。仲間を失い、敗北を悟った者の必死の提案だった。


ユリシアは静かにうなずき、淡い笑みを浮かべる。


「一理あるな……だが、なめられたものだ。なぜ私にそれを?

 ザムザでは都合が悪いか。私なら交渉の余地があると?」


その言葉に、竜人の瞳がわずかに揺れた。


「国王ザムザを選んだのはこの私だ。

 そして――その選択を、私は揺るがせない!」


凛とした声が月夜に響く。


(話が通じない……!)


マクシミリアは翼を大きくはためかせ、最後の突撃に賭けた。

国王も、この女も、ここで討たねばならない――。


だが、ユリシアの瞳が月光を帯びて輝く。


「……やれ」


気配を殺していた魔法兵たちが、一斉に術式を展開。

銀白の鎖が空気を裂き、竜人を瞬時に絡め取る。捕縛魔法――光の牢獄。


「っぐ……!」

巨躯を誇る竜人の翼が痙攣し、力を失って石畳に叩きつけられた。


ユリシアは一歩、また一歩と近づく。

その足取りは静かで、だが抗えぬ威圧があった。


「この国に刃を向けた罪は、ここで終わる」


氷のような声が、王都全体へ響き渡った。


▼


「魔王軍の幹部を捕まえた?」


王宮の中庭を、満月が白く照らしていた。

戻ったばかりのオレは、ユリシアの報告に思わず足を止める。


空中奇襲は失敗。

そして――魔王軍四天王の一人を捕縛。


「……本当か」


胸に熱が広がる。

自分では補給線を断てなかった。

だが、国全体で積み重ねてきた小さな努力が、確かな成果となった証だ。


『ふふふ♡ ユリシアは大戦果だね? 羨ましい?』


ピノの声が頭に響く。無視だ。

今はただ、仲間たちの働きが誇らしい。


ユリシアがこちらを見る。


「それで――貴様は?」


「補給線の切断は……無理だった」


「ほう、理由は?」


オレは、森で遭遇した地下トンネルの偽装、

ジグムントの待ち伏せを簡潔に語った。


「なるほど。地下網か。なら切断は不可能だな。

ジグムントが守っているのなら、なおさらだ」


「なあ王都への

地下からの奇襲は?」


ユリシアは片手をひらりと振る。


「心配無用。既に封じている。

過去にそれで滅んだ国があるからな」


……気づかないところで皆が動いてくれている。

頼もしさが胸にじわりと広がった。


「魔王は周到だ。隙がない」


オレは唇を噛む。


「予定どおり防御を固め、消耗戦で持久戦するしかない」


「つらそうだな」


「嫌でも犠牲が出る……人を捨て駒にするだけだ」


苦味が口の奥に染みる。

結局、自分はそんな決断しかできないのか――。


その時、ユリシアがゆるりと目を細めた。


「あるぞ。魔王軍を追い詰める秘策がな」


「……何だって?」


冷えた月光を映した瞳が、氷よりも深い光を放つ。

計算か、覚悟か――読み取れない。


背筋にひやりとしたものが走った。



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