サージュとオシャハットの剣術試合
サージュはイーシャを伴って家に戻った。
「あら、サージュ、おかえり。イーシャちゃん、いらっしゃい」
「ただいま」
「失礼します」
「今夕飯を作っているところよ」
「なら、俺たちも手伝うよ、な、イーシャ?」
「そうね。フォルトゥナさん、私も手伝います!」
フォルトゥナはほほえんで。
「それはありがたいわね」
三人はいっしょに料理を作った。
ちなみに料理はキムチ・チャーハンであった。
アルカ村では朝はパン、昼と夜はコメという食事を取る。
アルカ村の人々の仕事は主に農業で、主食の小麦とコメ、そして畑での農作物であった。
「おいしい! フォルトゥナさんの味付けは最高です!」
「確かにいい味を出しているな。俺にはとても再現できそうにないな」
「ところで、サージュ」
「何だい?」
「オシャハット村長があなたを探していたわよ?」
「オシャハット村長が?」
「ひさしぶりに、あなたと剣術の手合わせをしたいんですって」
「そうか……わかった。後で村長のところに行ってくる」
「お願いね」
「それと、母さん」
「何かしら?」
「俺たちはまた旅に出ることにしたよ」
「旅に?」
「今度は自分の生まれについて探る旅になると思う。俺は自分が何者か知りたいんだ。自分がどこから来たのかわからなかったのなら、どこへ行けばいいのかもわからない。俺は俺の出生の秘密を知りたい」
「いつかはあなたがそう思うと思っていたわ。そうね。私はあなたの無事を神に祈ることくらいしかできないけれど……気をつけて行ってらっしゃい。イーシャちゃんもいっしょに行くのよね?」
「はい、私もサージュと共に旅に出ます」
「二人はもう村人の枠に収まりきらないのね」
「そうだな。俺たちは村人としては生きてはいけない。俺たちが求めるのは冒険の旅だ。この世界を見て回りたい。世界のあらゆるものに触れたい。そういう思いが俺たちを突き動かしているんだ。ただ、それでもアルカ村は俺たちのふるさとだよ。大切に思ってる」
次の日サージュとイーシャはオシャハット村長のもとを訪れた。
「村長さん、いるかしら?」
「どうだろうな……とりあえず、ドアをノックしてみるか」
サージュはドアを三回ノックした。
「村長さーん! 俺だ! サージュだ!」
「サージュか! ちと待ってくれ!」
少したつとドアが開いた。
中から、白髪、白いあごひげの村長オシャハットが姿を現した。
「おお、サージュよ。おぬしはこの一年の冒険の旅でそうとう鍛えられたようじゃの。そこでどうじゃ? このわしと立ち合わんか?」
サージュとオシャハットの戦いは衆人の見守る中で行われた。
娯楽が少ない、アルカ村では剣術試合など恰好の見せ物である。
オシャハットは愛用の白い細身の剣を手にしていた。
一方、サージュはブロード・ソード「聖剣シャイネード」を手にする。
「サージュー! がんばってー!」
イーシャの声援が響く。
「サージュ兄ちゃん、行けー!」
「村長さん、期待してるぜ!」
「いい試合を見せてくれ!」
オシャハットはサージュにとっていつか越えなければならない存在であった。
いや、越えねばならない、「壁」であった。
「ほっほっほ。この衆人が取り巻く状況では無様に負けることはできんの、サージュよ」
「村長さん、今日こそ俺が勝たせてもらいますよ。いつまでも師匠に負け続けるわけにもいかないので……」
「ほっほっほ、言うようになったの。では、行くぞ!」
オシャハットは剣を水平に構えると、サージュに斬りかかってきた。
オシャハットの剣が横なぎに振るわれる。
サージュは聖剣でそれを受け止める。
オシャハットの斬りには老体であるにもかかわらず、パワーもスピードもあった。
それにサージュは白い細身の剣が良質な一品であると見切った。
「……いい剣を使っていますね。それが村長専用の武器ですか?」
「ほっほっほ、おぬしが使っている剣には劣るがのう」
オシャハットは上段に構えて剣を振り下ろした。
サージュはとっさに危険を察知し、後ろではなく、横に回避した。
オシャハットの刃が降り下ろされる。
「!? 今のは!?」
「ほっほっほ! このわしの技、風刃斬じゃ! まだまだ行くぞ! 風刀刃!」
オシャハットは風の刃を飛ばしてきた。
サージュは水を剣にまとわせた。
「水煌剣!」
きらめく水の刃がオシャハットの風刀刃を斬り裂く。
サージュは左手に水を集めて槍を形成した。
「水泡槍!」
水の槍をサージュはオシャハットに投げつけた。
オシャハットは風の槍を形成した。
「風翔槍!」
オシャハットは風の槍を水の槍にぶつけて迎撃した。
サージュは一気に間合いをつめた。
「水波斬!」
鋭い水の斬撃をオシャハットに叩き込む。
「うおおおおおおお!?」
オシャハットは水波斬を受け止めきれずにしりもちをついてしまった。
サージュが剣をオシャハットに突き付ける。
「俺の勝ち、ですね」
「いたたたた……腰を痛めてしもうた……」
「きゃー-! サージュ―!」
イーシャが声を張り上げた。
観衆たちはサージュの勝利に声で応じた。
「しかし、強うなったのう、サージュよ。全盛期のわしでも勝てるかどうか……」
「村長が基礎を鍛えてくれたからですよ」
こうして村長との剣術試合はサージュの勝ちに終わった。