赤竜サラマンダー
風の竜王ワイバードの死はたちまちほかの竜王たちの知るところとなった。
「なんだと!?」
「風の竜ワイバードが……」
「死んだ!?」
「これは!?」
「はっ、そんな!?」
リエンテはこの知らせを宿の自室で受け取った。
リエンテはベッドから立ち上がり、急いで窓を開けた。
風がリエンテに吹きかかった。
「風の竜ワイバードが……殺された……」
「ぬう! 人間にしてやられたのか!」
「おのれ、人間どもめ! このままで済むと思うな!」
「竜王を倒せるほどの人間がいるのか……」
「美竜王よ、あなたが恐れていたことが現実となってしまったな」
「白竜……」
リエンテは白竜とテレパシーで会話した。
「ついに人間と竜が対立した。竜王の犠牲だ。過激な者は何をしでかすかわからんぞ」
「どうしてこのようなことが起きたのでしょう……わたくしのしてきたことはすべて無意味だったのでしょうか……」
リエンテは呆然自失した。
その日サージュとイーシャは町に出て、買い物をしていた。フィオレンティアにはずいぶん長く滞在した。
そろそろフィオレンティアを出発しようと、サージュは考えていた。
必要な買い物を済ませると、サージュたちは宿に戻ることにした。
「ん? あれは……」
「? どうしたの、サージュ?」
サージュは赤い竜が空を飛んでくるのを見た。
「あれ、竜だ」
「ほんとね」
サージュとイーシャは大通りから、空を飛ぶ竜を見ていた。
「!? あの竜、こっちに近づいてくるぞ!?」
赤い竜はフィオレンティアの上空を通過した。
「ちょっと、いったい何!?」
竜が飛ぶことによって衝撃がフィオレンティアの建物に走った。
赤い竜は四肢を持ち、二足歩行できるようだった。
赤い竜は翼をしまい、フィオレンティアの広場に着陸すると、炎の息で市街地を焼き払った。
炎は近くの建物のまで燃え広がった。
「あの竜を止める!」
「あ、サージュ、待って!」
赤い竜はそのあいだも町を破壊し、炎で炎上させた。
そこにサージュとイーシャが到着した。
竜の出現にフィオレンティアの市民はパニックに陥った。
サージュは水の刃を剣から放った。
水の刃は赤い竜に直撃した。
赤い竜はサージュとイーシャに目を止めた。
「これ以上、町の破壊はさせないぞ!」
「私たちが相手よ!」
イーシャは氷の魔法を唱えた。
氷の刃が赤い竜に迫る。
赤い竜は右腕を大きく振るい、氷の刃を砕いた。
赤い竜はサージュに向けて炎の息を吹き付けた。
サージュは水の刃で炎の息を斬り裂いた。
赤い竜は右手でサージュを薙ぎ払った。
サージュはジャンプしてそれをかわした。
赤い竜は左手をサージュに叩きつけた。
サージュは後ろに跳びのいた。
赤い竜は炎の息でサージュに攻撃した。
「くっ、熱い!」
サージュは水の剣で炎の息を防いだ。
「水よ!」
イーシャは水の球を赤い竜に放った。
水の球は赤い竜に当たった。
赤い竜は衝撃でよろめいた。
すかさず、サージュはジャンプして赤い竜に斬りつけた。
赤い竜はサージュたちの何倍もの大きな体をしていた。
「なんて大きな体なの」
赤い竜は炎の爪でサージュを攻撃した。
サージュはその余波で吹き飛ばされた。
サージュはすぐさま立ち上がった。
「双方、戦いをやめなさい!」
「リエンテ」
「リエンテさん……」
その場にリエンテが現れた。
リエンテは毅然とした態度で、停戦を呼び掛けた。
「赤竜サラマンダー(Salamander)、あなたももう戦いはやめてください」
赤竜は目を細めた。
「リエンテ、こいつに話が通じるのか?」
「赤竜!」
「美竜王よ、風の竜ワイバードは人間に殺されたのだぞ!? それはあなたも知っておろう!」
「ええ、知っています!」
「これは報復だ! 人間どもに竜の強さ、恐ろしさを思い知らせてやるのだ!」
赤竜は大きな声で言い放った。
「下級の竜ではない! 竜王の死だ! この程度ではぬるすぎる!」
「赤竜、それでも人間に報復するのは間違っています! 双方、共に血を流すだけではありませんか!」
赤竜は口を閉じた。
何か反論を考えているようだった。
「血なら流れた! ほかならぬ、竜王にして風の竜ワイバードの血が!」
「報復するのでは、人間と竜が双方殺し合いの泥沼に陥ってしまいます!」
赤竜はリエンテをじっと凝視した。
「それでは、あなたはこのまま黙って甘受しろというのか、ワイバードの死を!」
「赤竜、今は矛を収めてください!」
赤竜は苦渋の表情を浮かべた。
「我にはあなたの考えていることは理解できない……人と竜は結局敵同士なのではないか?」
そう言うと、赤竜サラマンダーは大空へと飛び立った。
赤い竜はフィオレンティアから去った。
あとにはリエンテと、話の内容を理解できなかったサージュと、イーシャが残された。
「リエンテ、今の話はいったい……」
「いったい、何を話していたの? それにあなたは何者なの?」
「いろいろと聞きたいことがあるのはわかっています。ここではなくて、宿に戻って話をしましょう」
三人は宿に戻ることにした。
宿に戻ったサージュたちはリエンテの部屋にいた。
サージュもイーシャもリエンテと赤い竜とのやり取りに頭がついていけなかった。
「ふう、場所も落ち着きましたし、お話をしましょうか」
リエンテはベッドの上に座った。
「話をするにしても、なにから話をすればいいのやら……」
サージュは困惑していた。
「リエンテさんは、竜なの?」
「はい、そうです。人の姿をしていますが、わたくしも竜です」
リエンテは静かに同意した。
「それで竜の言葉がわかるのね?」
「はい」
「だから竜の言葉が話せたのか。あのヴェノーザでの出来事が納得できたよ」
「その通りです」
「あの赤い竜はどうして町を襲ったんだ?」
「それは風の竜ワイバードが人間に殺されたからです。赤竜サラマンダーはその報復のためフィオレンティアを襲ったのです」
「そこまで大きなことなの? 今一つ、私にはわからないんだけど……」
「知性を持つ高位の竜は『竜王』と呼ばれています。ワイバードは竜王の一員でした。先ほどの赤い竜も同じ竜王なのです。竜王は竜族の中で上位に立ち、ほかの竜を指導する存在なのです。ですから、ワイバードの死はとても大きなことなのです」
「リエンテもそうなのか?」
「はい、わたくしは美竜王リエンテです。わたくしはワイバードの死をこの部屋で知りました。わたくしがわかっているのはワイバードがアスカニアのアレンタで一人の人間に殺されたということだけです」
「リエンテは竜だから、竜側の事情に詳しかったのか」
三人のあいだに沈黙が起こった。
「お二人に頼みがあります」
「何だい?」
「お二人に会ってもらいたい竜がいるのです」
「会ってもらいたい竜? 私たちが?」
「はい。白い竜、白竜です。ここから西に向かったところに住んでいます。お二人には人と竜のことについて、もっと知っていただきたいのです」
「わかった、会おう」
「そうね。人ごとには思えないもの」
「ありがとうございます」