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はあはあと、荒い息が首筋に当たる。
ぬるりと生暖かいものが触れて、思わずびくりと肩が揺れた。
な、何?噛む前に舐めるの??
いつの間にか両肩を新君に押さえられ、身動きが取れなくなっていた。
ぬるぬるしたものは私の首筋を伝って上がり、耳に新君の息がかかった。
「由奈さん…」
私がえ?え?と混乱している間に、肩を掴んでいた手のうち、右手がするする下がっていき、わき腹をくすぐるように撫ぜる。
んん???
「あ、新君…っ!吸血するんじゃなかったの!?」
「それより由奈さんを食べたい…」
「なっ…!!!」
ちょっ、まっ…マジ?
これはまずいと私は焦ってもがくが、気付けば新君にがっしり抱きしめられており、到底抜け出せそうになかった。
「新君!新君!しっかりして!!」
新君は恍惚とした表情で、私の言葉は届いていないようだった。
そのまま押し倒され、床に縫い付けられる。
新君の顔が近づいてきて、唇と唇が合わさった。
「!!」
そのまま何度も啄むようにキスされる。Tシャツの裾から新君の手が侵入してきてお腹を直接撫でられた。瞬間、背筋をゾクゾクと何かが駆け抜ける。
このままじゃヤバい。私はついに決意した。
新君ごめん!
私は心の中で謝って、右膝を思いっきり蹴り上げた。
「ぅぐっ!!!」
がむしゃらだったが、どうやらクリーンヒットしたらしい。
新君が私の上にうずくまる。私はなんとか新君の下から抜け出して、とりあえず窓を全開にした。そして寝室に立てこもる。
バクバクする心臓を押さえて、扉を背にずるずると座り込む。
びっくりした!びっくりした!
自慢じゃないけどファーストキスだった!
私は両手で顔を覆った。
そして先ほどのことを思い起こす。まさかこんなことになるとは思っていなかった。勢いで吸血出来るかもなんて思ったのが馬鹿だった。新君だって男の人なのに!
でも襲われてキスまでされたのに、私は嫌な気持ちに少しもなっていなかった。驚きはしたけど、嫌悪感はなかったのだ。
はぁ、とため息をつく。
「由奈さん」
扉越しに新君の声が聞こえた。
「新君…もう、大丈夫?」
「由奈さん、本当にごめん。謝って済むことじゃないけど…怖かったよね、ごめん」
声が震えている。新君は正気に戻ったらしい。
「ううん、その、びっくりはしたけど、怖くはなかったから大丈夫。私の方こそ軽率だった。ごめん」
「由奈さんは悪くない。僕が全面的に悪いんだ…ごめん、僕、出ていくから」
それは実家に戻るということだろうか。
「ま、待って…今はもう、大丈夫なんだよね?」
「うん。空気が入れ替わって、だいぶすっきりしたから」
「出ていかなくても良いよ。私も悪かったし」
「でも…」
「良いってば!」
自分でも思いもよらず大きな声が出て、驚いた。
私は1つ深呼吸すると、寝室のドアを開けた。目の前に立っていた新君が、驚いた様子で窓際に走る。少しでも私の血の匂いがしないところに逃げたのだろうか。
窓を全開にしていたため、エアコンで冷やしていたはずの部屋の空気はすっかりぬるくなってしまっていた。
「密室で近寄らなければ大丈夫?」
「うん…多分」
「じゃあちょっと暑いけど、窓開けておこう」
「…良いの?」
少し困ったような表情で新君が聞いた。
「良いよ。生理中は不用意に近づかないように気を付けるから」
「…ありがとう」
「感謝されるようなことはしてないよ」
そう言って私はお風呂に向かった。
きっと新君が実家に戻った方が良いのだろう。そう分かっていたのに、なぜか私はそうではない選択をしてしまった。
違う。私は多分、新君のことを好きになっているんだ。
私はシャワーを浴びながら、大きくため息をついた。
土日は部屋の窓を開けっぱなしにして、なるべく新君に近づかないようにして過ごした。新君は家事をやっている時以外は窓際に陣取り、静かに本を読んでいた。
そのおかげか新君がまた正気を失うようなことはなく、無事に生理が終わった。
「新君、もう生理終わったからエアコン付けて良い?」
「もちろん。…うん、血の匂いはしないね」
生理が完全に終わってゴミも捨てた金曜日の夜。私は帰るなり窓を閉めてエアコンをつけた。
新君がテーブルに食事を2人分並べる。生理中は新君はキッチンで食べていたので、久しぶりに対面で食べることになる。
いただきます、と食事に手を付けながら、私は気になっていたことを聞いた。
「新君、なんであんな風になっちゃったの?今までも生理中の女性に近づくだけであんな風になってたの?」
新君がむせた。ゴホゴホと咳き込んで、お茶で口の中のものを流し込んでいる。
「あんな風になったのは初めてだよ。女性の、というか血の匂いであんな風になったこと自体が初めてで僕も驚いてる」
「じゃあ吸血鬼的にも珍しいことなの?」
「うん。血を全身に浴びたりでもしない限り、あんな酔ったみたいにはならないはずなんだけど…」
「けど?」
続きを促すが、新君はうーん、と言ったきり黙り込んだ。なんだろう、言いにくいことなのか、吸血鬼以外に言っちゃいけないことなのか。
しばらくして、新君がポツリと話し始めた。
「血の匂いとか味は人それぞれで、吸血鬼にも好みの味とかあって…その、ものすごく好みの血を飲むと、酔ったみたいになることがあるらしい、とは聞いたことがある」
「はぁ…」
「多分だけど、由奈さんの血は、僕の好みの味なんだと思う。吸血自体をしたことがないから、匂いだけで酔っちゃったのかもしれない」
私はふーん…と相槌を打つ。私の血が好みの味、か。ちょっと複雑な心境だ。喜んで良いところなんだろうか?でも新君は恥ずかしそうにしてるし、吸血鬼的には好みの血の味を告げるのって、例えば容姿が好みだと言うのと同じような感覚なのかな?
だったら喜んでおけば良いの、かな?




