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それは目覚ましが来たような朝

 バーン! と勢いよく音を立てて、急いで少女を退かそうとする俺の意に反して無慈悲にも部屋のドアは、午前七時ちょうどに開かれる。

「おっはよー兄ちゃん!!!」

 サイレンのような大声が部屋中どころか家中に響き渡る、そして―

「て、んん? え。うえええええぇぇぇ!!?」

 デジャヴを感じさせる大絶叫が家中どころか今度は街中に響いたのではないかと思わせる程の大音量で発せられた。

「に、兄ちゃんが知らない女と逢引してる!?」

 見事に想像通りの勘違いを目覚まし兼妹の楽はする。

「何? 何で! 何ゆえ!?」

 疑問系が豊富な奴だ。しかし、確かにこの疑問に上手い言い訳をしないと唯一の家族の信頼を失う事になる。

 何とか誤魔化すしかない。

「……さ、サプラーイズ!!」

 んー、やっちまったな……。咄嗟に出てきた言葉がこれか。何ともアドリブ力が弱い。

「さ、サプライズだって!?」

 いいリアクションを返してくれる楽。

流れが変わって何だか誤魔化せる気がしてきた。

「て、サプライズって何だ?」

 何で知らないんだよ……それが一番のサプライズだよ。

「お前を驚かせようとしたって事だよ!」

 流れが目まぐるしい。

「何故に?」

 どうやらHOWの疑問系ボキャブラリーが豊富みたいだ。

「そ、それはだな……」

「何なに?」

「彼女がお前と仲良くなるきっかけが欲しいって言うから」

「ぬ?」

 不思議そうな顔で幽霊少女は俺を見てくる。頼むから話を合わせてくれ

「その子、兄ちゃんの彼女なのか!? やっぱり逢引してるんじゃねえか!」

「その彼女じゃねえよ! 三人称の方だ!」

 大体、さっきから逢引って何でそんな古臭い言葉を使ってんだよ……。

「ふっ兄ちゃん、なんだか難しい事を言ってアタシを誤魔化そうなんて考えが甘いぜ?」

「三人称も分からなかったか……」

 学校は何を教えているんだ?

「とにかく彼女じゃない! お前も何か言えよ!」

 幽霊少女に助け舟を要請する。少女はこんな状況でも無表情を貫いている。

「ふつつかものですが」

「もう冗談がお好きなんだから!」

 頭を下げるな。夏の暑さのせいではない汗が流れてきた。

 納涼シーズンだからって、そんな冷汗ものの冗談を吐かないでくれ。

「夫婦漫才までしてるじゃん」

 こうなったら無理にでも話題を変えるしかない。

「なぁ知ってるか楽? 夫がボケを担当するのが夫婦漫才で、ツッコミを担当するのが婦夫漫才って言うんだぜ?」

「へ? そうなのか? じゃあ今は兄ちゃんがツッコミ担当だから婦夫漫才なんだな?」

「そう」

 嘘である。そんな言葉は存在しない。話が逸れたところに畳みこむ。

「とにかく彼女はお前と仲良くしたいんだよ。あれ? もしかして嬉しくない? 楽しんでくれてない? そっか、兄ちゃん必死に考えたんだけどなぁ……あーショックだなー」

 棒読みもいい所である。が、

「え? え? あれ? 兄ちゃん落ち込んでんの!? アタシのせい? アタシのせいなの!? いやいや、いや! た、楽しい、楽しいぜ! 兄ちゃん!」

 信じるのが我家、自慢の妹だ。

「ホントに?」

「ホントもホント! もう楽しすぎて楽しいの三乗だぜ!」

 それは一体どんな計算なんだ? というか、お前が乗の計算を知っている事に驚きだ。

 まぁ何はともあれバカでチョロい妹で助かった。

「それで一体誰なんだよ、その人?」

 楽も幽霊少女の髪が黒くなったせいで誰か分かっていないようだ。

そういえば入ってきた時も知らない女って言ってたな。

「あーと、この子は……」

「ましろ」

 俺が言う前に自分で自己紹介してしまった。

「真白さん?」

 昨夜の事を忘れてんじゃねえよ。海馬が馬鹿になってるんじゃないか?

「昨日の夜にも紹介しただろ。忘れてんじゃねえよ」

 ん、あれ? コイツに名前つけた時って……

「あ、あぁ! ん? あん?」

「あほ」

 本当に大丈夫か?

「まぁ、よく分かんねぇけどよろしくな! 真白さん!」

 楽は尖る八重歯を光らせて手を出し少女に握手を求めた。

 少女も無表情だが軽く頷いて楽の手を握る。

 友情が芽生えたとても良いシーンなんだが……

「いい加減に退いてくれ」

 俺の上でやらないで欲しい。

「そうだぜ真白さん、サンプライズが終わったなら、いつまでも兄ちゃんの上にいるのはズルだぜ?」

 サンプライズって……ちょっとカッコいいな。あとズルってなんだ。

 少女は数秒固まった後に楽の言う通りに俺から降りた。

 降りるんだ……。俺が言っても駄目だったのに?

「つうか兄ちゃん、早く朝飯作ってくれよ。腹が減って仕方ねえぜ」

「分かったよ。今日も陸上部の練習があるんだろ? 用意するから準備して待ってろ」

 やっと自由になった体を起こす。固い床で寝ていたせいで体中が痛んでいる。

「おう! 頼むぜ兄ちゃん!」

 ビシっと親指を突き立てて楽は部屋から出て行く。

「ふぅ」

 鳴り響く目覚ましをやっと止めた時のような静けさが部屋に広がる。

 今朝は幽霊少女が居たせいで騒々しくかったな。

 基本的に楽は毎朝騒がしいから日常と言えば日常なのだが。

 毎朝五時半に起床してきっちり七時に朝飯をねだりに俺を起こしにくる。

 習慣化されたその日課は俺にも影響し目覚ましいらずの生活を送る事になっている。

 名前が楽のくせにストイックな奴だ。

 特に何かの才能もやりたい事もない俺は、妹に尽くすしかないが、まぁ兄の宿命みたいなものなのだろうが。

 それじゃあ、いつも通り妹様のために朝飯でも作りに行くか。

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