鈴音が目指すハッピーエンド
「そこまでして付き合えないってなんスか。気持ち悪いッスね」
今そこで買ったばかりの牛串の最後の一口を飲み込んだ鈴音は直接的に暴言を吐く。
「もうちょいオブラートに包んでくれない?」
昨日の話をしながら真白達が待っている場所に向かう。頼まれてから結構時間がかかってしまった。詩子に「遅いので死刑です」とか言われそうだ。
「というか琴姉……まだ昔の事、そんなに気にしてたんスね……」
「昔に何があったか覚えているのか?」
「あっいや……」
鈴音は言葉に詰まる。
「…………」
難しい顔をして黙ってしまった。
「鈴音?」
「あっと、すいませんッス。実は僕も記憶が曖昧で、正しい記憶か精査してたッス」
曖昧とは言え、鈴音には思い当たりがあるらしい。
「きっと、小学生の時の夏休みの話ッスよ。秘密基地だ! って昔の神社の跡地に僕達は、遊びに行ってたんスよ」
やっぱり昨日、琴音といたあの場所で俺は遊んた事があるのか。
「この時の話は琴姉の前じゃ禁句だったッスから」
「き、禁句? ……何があったんだ?」
正直、聞くのが怖い。だが聞かねば先に進まない。
「簡単に説明するとッスね。僕達は五人で仲良くあの場所で遊んでたんスよ」
「五人って、俺とお前と琴音と楽と後は誰だ?」
その四人しかパッと思いつかない。
「僕達はお姉さんって呼んでたッス。だから名前は知らないんスけど」
「お姉さん……」
ということは、年上か。
「もしかして俺はその人の事を?」
「そうだと思うッスよ」
好きだったのか……。
そのお姉さんが、きっと琴音の言っていた彼女だろう。
「今、お姉さんはどこにいるんだ?」
「実は僕もその夏休みから一度も会ってないんスよ」
「じゃあ、俺達はお姉さんと、その夏休みの間だけしか会ってないのか?」
思っていたより期間が限定された話である。
「その時に出会ったお姉さんを、琴音はまだ俺が好きだと思っているって事か?」
記憶もない程の人なのに? 俺が覚えていない事を琴音も理解していたのに。
「実は夏休みの終わりに先輩がその人に桜貝を、桜貝のネックレスを渡しているのを琴姉が目撃しちゃったんスよ。それが一番トラウマになっているんだと思うッス」
その桜貝って、もしかして俺の引き出しに入ってる片割れか?
「琴姉、神社の話が好きだったッスから、ショックが大きかったんだと思うッスよ」
「確かに社会の宿題で話を聞いた時はノリノリで話てたな」
あの時は、楽しそうに話してくれていた。
「夏休みが終わった後も、しばらく怒って先輩と口を利いてなかったッスからね」
その記憶はボンヤリとあるな。
夏休みが終わってから全然話を聞いてくれなかった時期が確かにあった。
いつの間にか元の関係に戻っていたが。
「じゃあ、琴音が俺の事を信じられないのは、俺に一度―裏切られているからか?」
「そうだと思うッスよ」
桜貝まで渡しているのに何も思い出せない。
「年上好きだって言う度に、俺は琴音のトラウマを抉っていたのか……?」
「残酷な話ッスけど、そういう事じゃないッスかね」
何をしてんだ、俺は……。
「つうか、教えてくれればよかっただろ」
琴音にそんなトラウマがあるんだったら。
「いや、今日まで琴姉がその事を、まだ気にしてるなんて夢にも思わなかったッスよ」
確かにそうか。小学生の時の記憶をまだ引きずっているとは、本人から聞かない限り分からないものか。まさか何気なく言っていた『年上好き』が琴音を傷つけているとは思わなかった。
「謝るかぁ」
「謝っただけで許して貰えるッスかね?」
じゃあ、どうしろって言うんだよ。
明確な解決策も出ないまま、そろそろ真白達がいる場所に着いてしまう。
「幸一先輩、琴姉に桜貝でもあげたらどうです?」
「それって琴音のトラウマを刺激しちゃうんじゃないか?」
逆効果ではないだろうか?
「この前、先輩に神社の話をした時、楽しそうに話てたんスよね? それってまだその話が好きって事なんじゃないッスか?」
確かに、それはあるかもしれない。
「きっと琴姉は先輩からの桜貝のプレゼントを待ってるんじゃないッスかね?」
『お姉さん』と呼ばれた人に渡したように俺から桜貝を貰えるのを待っている。
それが琴音にとっては、俺の言葉よりも明確な好きの証なのかもしれない。
「そういえば、ロマンを知らないのかって言われたな……」
桜貝の伝説に無粋な事を行った時に。
「本当に面倒な奴だな」
俺の気持ちくらい素直に受け取って欲しいものだ。
「私が一番でしょ」くらい言えよ。いつものように。
「当たり前でしょ」って。上から目線で。
そんなロマンとかお呪いとか伝説なんて気にせず。
幼馴染じゃなかった面倒くさ過ぎて、攻略を諦めてたところだ。
「今度、一緒に探しに行かないッスか琴姉に先輩の気持ちを信じて貰うためにも」
「別に繋がった桜貝じゃなくても誤魔化せるんじゃないのか?」
どれも似たような物だろ。
「懲りない人ッスね……二枚貝だから同じサイズの貝殻がもう一枚いるんスよ?」
そうか二枚のサイズは一緒になるのか……。
「まあ、琴音がそれで、俺の事を信じてくれるなら探しに行くか……」
「その意気ッス! 二人でハッピーエンドを目指すッスよ!」
ハッピーエンドか。流石、神宮先輩の研究会に入っているだけある。
鈴音のハッピーエンドは俺と琴音が付き合う事なのか。良い奴だなあ……。
「そういえば、幸一先輩が少し前にオジサンに渡していた桜貝どうしてるんスか?」
神宮さんが、鈴音がオッサンに聞いたのを又聞きしたって言ってたな。
「あれは真白の奴だから、真白に返した」
「へぇ、あのネックレスって真白さんのだったんスか? それじゃあ真白さんも誰かと桜貝を分け合った相手がいるんスかね?」
神社の物語の登場人物の男神だよ。
自分の神社の神が消えているっていうのに暢気だなお前は。
神宮先輩も教えてやれば―あれ? ちょっと待てよ?
「ちょっ! 幸一先輩!!」
俺の名前を叫ばれた事で、思考が強制的に中断させられる―
「なんで!!」
甲高い叫び声が響く。その声に周囲の人々が目を向ける。
視線の先は、俺がさっきまで真白達と居た場所である。
そこには慌てふためく柚葉と詩子に、いつもの無表情の真白とさらに
「なんでアンタがそれを持っているのよ!!」
真白に対して声を荒げる怒りに満ちた顔の―琴音がいた。
「落ち着いて姉さん! どうしたんだよ!」
「深呼吸するのですお姉さん!」
怒り狂っている琴音を何とか鎮めようとする二人だが琴音は止まらない。
「アンタは違うんじゃないの! 何でアンタが桜貝を持ってるのよ! 消えるならちゃんと消えなさいよ! また私の邪魔をしないでよ!!」
消えるなら消えなさいよ?
その言葉に引っかかったが、考える余裕はなく琴音を止めに入る。
「おい琴音! ちょっと落ち着け」
肩に手を置いて琴音の注意を自分に向けさせる。
「あ」
俺の方を見た琴音の目から涙が零れる。
「こう、いち」
涙を流す琴音の顔は怒りと悲しみで崩れ歪んでいる。
「ごめん……」
そう言って走ってこの場から逃げる琴音を俺はまた追う事が出来なかった。




