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トイレからこんにちは! トイレのハナコさん 4


「あ、あと一枚しかない……」

「食べていいよ」

「で、でも……もったいないです」


ピンク髪で美少女のハナコさんは名残惜しそうに最後のポテトチップスを見つめている。そんな姿を俺は見つめている。ううん、いつまでも見ていたい……。

こんな美少女が俺の部屋にいるなんて……夢のようだ。

こんな美少女に俺の聖水をぶっかけてしまったのが……悔やまれる。


「じゃあ俺が食べよっと」

「え……そんな……」


うるうると、俺を飼い犬のような目で見つめられる。

うっ……すごい美少女特権だ。

求めていた反応だったが、俺はドキッとしてしまう。


「うそだよ。はいどうぞ」

「……ありがとうございます」


えへへ、と俺に心を開き始めてくれた感がびんびん伝わってくる。

恥じらいの中に見せる笑顔がまた可愛いのなんのって。

これだよ! 俺が望んでいたリア充ライフはこれだったんだよ!

はーあ、なんでこんな美少女がトイレの中から出てきたんだか。


「アメサワハルキさん」

「は、はい?」

「ありがとうございました。すごく、すごく、おいしかったです」


俺の目の前まで近付いて来て、強く手を握られてしまう。その指の感触を、俺はまた味わってしまい、ドキンと胸が高ぶる。

DTスキル、「すぐ惚れる」が発動してしまった!

駄目だ、落ち着け。どうせ俺はこの子と付き合うことは出来ない。

こんな美少女が俺なんかに恋愛感情など持っているわけがないのだから。

すぐ勘違いしてしまう癖、なんとかならないかなぁ。

と思ってたら、また鼻血が。


「ハルキさん、また血が!」


ハナコさんの顔がさらに近付く。


「いいから、俺、ちょっと、可愛い子に弱いんだ」

「か、可愛い……! そんなこと……言われたことないです」

「ぶっ! そんな深い意味はないんだ」

「深い意味……」

「やめろあqwせdrftgyふj」


軽食が終わった。

その後、俺とハナコさんは例のトイレへと向かった。


「うーん、どう見ても、人が入れる大きさじゃないよなぁ」

「そうですねー……」


どこからどう見ても普通の水洗トイレだ。どうしたらこんなところから人が出てこれるのか、超常現象以外の何者でもなかった。

それにハナコさんはこの辺の人じゃない。もっと言ってしまえば、地球の人でもないのかもしれない。

宇宙から来たのか、はたまた異世界から来たのか。

謎だ。


「私、元の場所に帰れるのでしょうか……」


ハナコさんが不安そうに呟く。


「まあ、何かのゲートがこのトイレに開いて、ここに来れたってことは、またこのトイレからゲートが開けば、帰れる可能性はあるだろうね」

「そ、そうですよね!」

「でも帰れないかもね」

「……っ!!」


ハナコさんが明らかに悲しそうな顔をする。

なんて素直な子なんだ。俺は素直な子に対して意地悪をしてしまうような底意地の悪いやつだったのか?


「帰れると信じて待とうよ。もし少しでもトイレの異変に気付いたら、すぐ君のことを呼ぶからさ」

「ありがとうございます……。優しいんですね」


ハナコさんが嬉しそうな顔になった。

その顔を見て、俺は幸福を感じた。それは、寝ることと食べることとトイレだけが幸せだった俺にとって、新しく得た幸福だった。

この幸福を手放したくない、と俺は思ってしまった。


「どうする? この後。外でも散歩する?」

「散歩、ですか?」

「うん。せっかくなんだしさ、この世界の風景を記念に持って帰りなよ」

「……危なく、ないですかね」

「どうかな……」


可愛すぎて周りの不純な男になめるように見られそうでやっぱりやだな。

危険な目にあわせてしまう可能性だってあるし。


「やっぱり止めようか。景色ならここからでも見れるしさ」

「そ、そうですね。外の世界はまだ怖いので、私もここにいたいです」

「ここにいたいって?」

「はい……」

「そう。なら、いていいからね」

「はい……。ありがとうございます」


美少女に感謝されっぱなしの俺。俺だけに向けられる笑顔。かなり心を開いてくれているのがひしひしと伝わってくる。

とてもいい気分だった。心が浮ついている。これが恋というやつなのか。片思いなら何度もあるが、これはもしかしたら……なわけがないだろう、落ち着け、俺。


「わー、すごい。この世界には、立派な家がたくさんあるんですね!」

「まあね。都会だしね」

「見上げるほどの家もあるんですねー」

「ビルって言うんだよ」

「へえー、すごいです。私、あんなところに住んでみたいです」

「俺も」


俺とハナコさんは部屋のいくつかの窓から都会の風景を見て幸せなひとときを過ごした。

出来ることなら、ハナコさんがこの世界にいたいと心変わりしてくれることを祈った。


「これがテレビって言うんですか。不思議です」

「この中に人が入ってるんだよ」

「本当ですか!?」

「うそだよ」

「もう、からかわないでくださいよ!」

「デュフフ……あ、ごほんごほん」

「どうしたんですか、大丈夫ですか?」


やばい、にやけが止まらない。危うく俺のオタク気質が出てハナコさんに引かれてしまうところだった。

危ない危ない。

俺はこんな生活が明日も、その次も、その次の次の日も、ずっと続けばいいと思った。

ハナコさんはどう思ってるか知らないけど。


その後も、俺とハナコさんは楽しい時間を過ごした。

明日は朝から大学に行かなければいけない。

なんて最悪な日曜日なんだ。




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