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転生したら魔法の発動条件が【俺がかっこいいと思うか】だった話  作者: ボナンザ・ソバイユ
ゴブリン討伐戦

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共闘


「チィッ……! 鬱陶しい陣形を組みやがって!」

ボランが巨大な鉄盾の裏で、忌々しげに舌打ちをした。


旧き森の地下遺跡、その中層に位置する巨大な広間。ジンたち合同討伐隊は、ついに目的の密造団『黒蛇の牙』の戦闘員たちと遭遇していた。

しかし、戦況は思わぬ膠着状態に陥っていた。


広間の奥、一段高くなった石造りのバルコニーのような場所に、敵の弓兵と魔術師が陣取っていたのだ。手前にはバリケードが築かれ、槍を持った前衛が固めている。

「ヒャハハ! 冒険者ども、そこから一歩でも動いてみろ! ハリネズミにしてやるぜ!」


高所からの矢の雨と、下級の炎魔法が絶え間なく降り注ぐ。ボランたち『鉄の戦斧』の三人が大盾で防線を張っているが、前に出ようとすれば確実に集中砲火を浴びる。

「クソッ、俺が『炎輪走破フレイムチャリオット』で一気に距離を詰める!」

ジンが飛び出そうとするが、ボランが腕を掴んで止めた。

「やめとけジン! 遮蔽物がない一直線の通路だ。お前の機動力でも、あの数の矢と魔法を全部躱すのは無謀すぎる!」

「ですが、このままではジリ貧です……! 私の風魔法でも、あの高低差の防壁は崩せません!」

後方から援護射撃をしていたリナも、焦りの声を上げる。セレスも防御魔法の維持で手一杯だ。


実力で劣っているわけではない。だが、地の利と数の暴力を活かした敵の戦術によって、完全に「詰み」の状況を作られていた。


「……あの」


激しい戦闘音の中、ボランの盾の影で身を小さくしていたヴェインが、おずおずと声を上げた。


「……確証はないんですが、一つだけ、気になったことがあって」

「なんだヴェイン、怪我してねえか!?」

「はい。それより……あの敵が乗っているバルコニーを支えている、右端の石柱を見てください」


ジンとボランが、盾の隙間からヴェインの指差す先を窺う。

「……ん? なんか、根元が黒ずんでるな」

ジンが言うと、ヴェインは小さく頷いた。


「おそらく、この遺跡に自生する『腐食苔』が入り込んでいるんです。長年の湿気で石の内部まで浸食が進んで、見た目以上に脆くなっているはずです。もし、あそこに強い衝撃を与えられれば……」


ボランの目が、スッと鋭く細められた。

歴戦の冒険者である彼は、ヴェインの意図を瞬時に理解した。


「……なるほどな。足場ごと崩して、陣形を瓦解させるか」

ボランはニヤリと猛禽のような笑みを浮かべ、ジンを見た。

「ジン! お前のその『創造魔法』とやらで、あの柱をぶっ飛ばせるか!?」


「当たり前だろ! 最高にド派手なやつをお見舞いしてやる!」

ジンは両手を前に突き出し、自身の魔力とイメージを極限まで練り上げる。

「『創造魔法』――『穿岩重機槍バンカー・ランス』!!」


ジンの手に、城門すら穿ちそうな巨大な鋼鉄の杭と、それを射出するための重厚な機構が創造される。

「ボランのおっさん、盾を開け! 3、2、1――今だ!」


ボランが大盾をスッとずらした一瞬の隙間。

「ぶっ飛べえぇぇっ!」

ジンの腕から、凄まじい推進力を伴って巨大な鋼鉄の杭が射出された。空気を切り裂く轟音と共に放たれた一撃は、敵の矢を弾き飛ばしながら、見事、バルコニーを支える右端の石柱の根元に直撃した!


ガゴォォォォンッ!!


ヴェインの読み通り、内部まで腐食していた石柱は、衝撃に耐えきれず粉々に砕け散った。

「な、なんだぁ!?」

「足場が崩れるぞぉぉっ!」


支えを失った石のバルコニーが、轟音と共に崩落する。高所から矢や魔法を放っていた敵の部隊は、瓦礫と共に床へ叩きつけられ、下で構えていた前衛のバリケードごと完全に押し潰された。


「今だ! 野郎ども、一気に押し潰せ!」

ボランの号令と共に、『鉄の戦斧』の面々が土煙の中へと突撃する。陣形が崩壊し、混乱状態に陥った敵兵たちに、もはや抵抗する力は残っていなかった。ジンも創造した武器を手に戦場を駆け抜け、リナとセレスが後方から的確に無力化していく。


ものの数分で、広間にいた『黒蛇の牙』の戦闘員たちは全員縛り上げられ、戦闘は完全に終結した。


「ふぅ……一時はどうなるかと思ったが、終わってみれば圧勝だな」

ボランが斧についた汚れを払いながら、大きく息を吐いた。そして、広間の隅で戦闘の余波から身を守っていたヴェインの元へと、大股で歩み寄った。


「ヒッ……あ、あの、皆さんお怪我は……」

ビクッと身をすくめるヴェインを見下ろし、ボランはしばらく無言で立ち尽くした。


「……なあ。さっきの石柱の弱点、お前が気づいたのか?」


低く、探るようなボランの声に、ヴェインは慌てて首を振る。

「す、すみません! 薬草を探す時の癖で、つい苔の生え方とかに目が行ってしまって……余計な口出しでしたよね……」


「馬鹿野郎」

ボランはそう言うと、大きな手でヴェインの肩をガシッと掴んだ。

「痛っ……」

「最高の手だった。あのまま真正面からやり合ってたら、俺たちだってタダじゃ済まなかった。……お前の一手が、俺たちの命を救ったんだ」


ヴェインは驚いたように目を丸くし、ボランを見上げた。

ボランは歴戦の戦士らしい、理知的で真剣な眼差しをヴェインに向けていた。


「剣が振れない? 魔法が使えない? ……関係ねえな。戦場で必要なのは腕っぷしだけじゃない。状況を俯瞰し、敵の弱点を読み解く。その『目』と『頭脳』は、それだけで一級品の武器だ」

ボランはニッと豪快に笑い、ヴェインの背中をバンと叩いた。


「どうだヴェイン。弟さんを助け出して、この一件が片付いたら……俺たちのパーティ『鉄の戦斧』に来ねえか? お前さんみたいな軍師役がいれば、俺たちはもっと上に行ける」


思いもよらない、ベテラン冒険者からの正式なスカウト。

ヴェインは呆然とし、言葉を失っていた。


「おいおいボランのおっさん、抜け駆けはなしだぜ!」

そこに、ジンが笑いながら割って入ってきた。

「こいつは俺が最初に見つけた相棒だ! チームに入れるなら、俺の『シルバー・ブレイズ』が先だっての!」


「はははっ! こりゃあ、若き英雄殿と取り合いになりそうだな!」

ジンとボランが笑い合い、リナとセレスも微笑ましそうにそれを見守っている。


「皆さん……」

ヴェインは、胸の奥から込み上げる熱いものを堪えるように、ギュッと両手を握りしめた。その瞳には、今度こそ大粒の涙が浮かんでいる。


「……ありがとうございます。でも、まずは……弟を。弟を助け出してから、考えさせてください」

「ああ、もちろんだ。約束したからな、戦いが終わったら、全員で美味い茶と酒を飲むってな」


ジンがヴェインに拳を突き出すと、ヴェインも涙を拭い、力強くその拳を打ち合わせた。


薄暗い地下遺跡の広間に、確かな温もりが満ちていた。

戦えない青年を戦士たちが守り、青年の知恵が戦士たちを導く。彼らの足並みは、迷宮のさらに奥へと、ただ真っ直ぐに、力強く進んでいった。

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