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転生したら魔法の発動条件が【俺がかっこいいと思うか】だった話  作者: ボナンザ・ソバイユ
ゴブリン討伐戦

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12/13

勇む者

「情報収集……つまり、スパイミッションにしてハードボイルドな探偵劇の幕開けってわけだ!」


冒険者ギルドの会議室。ギルドマスターから月光花の密造団『黒蛇の牙』の討伐依頼を受けた翌朝、ジンは腕を組み、不敵な笑みを浮かべて宣言した。その目はキラキラと輝いている。


「……探偵、ですか?」

リナが小首を傾げる。エルフの彼女には、その単語の響きがピンときていないようだ。


「ああ。街に潜む巨悪の尻尾を掴むため、危険な裏社会に潜入する。こういう時は、形から入るのが鉄則だ! 『創造魔法』――ハードボイルド・スタイル!」


ジンが指を鳴らすと、彼の衣服が光に包まれ、次の瞬間には、くすんだカーキ色のトレンチコートに身を包み、目元には真っ黒なサングラス(ティアドロップ型)をかけた姿へと変貌していた。


「どうよ? これで俺も、裏社会の空気に溶け込む完璧な情報屋ってわけだ」

襟を立て、気取ったポーズを決めるジン。

しかし、会議室には冷たい沈黙が落ちた。セレスが、困ったような、しかし極めて冷静な声で指摘する。


「あの、ジンさん。その目の黒いガラス……前が見えているんですか? これから向かうのは薄暗い路地裏や酒場だとおっしゃっていましたが、そんなものをかけたら、足元が見えずに転びますよ?」

「えっ」


「それに……」と、リナが周囲をちらりと見て付け加えた。

「その丈の長いコート……この街の気候にも、冒険者の服装にも全く合ってないので、さっきからすれ違うギルドの職員さんがみんな二度見してます。……むしろ、すごく目立ってますよ?」


「……っ!」

ジンの頬が、サングラス越しでもわかるほど赤く染まった。

(しまっ……! 映画の『かっこよさ』をそのまま持ち込んでも、ファンタジー世界じゃただの不審者じゃねえか……!)


「……コホン。まあ、潜入にはまだ早いってことだな! 装備解除!」

ジンはそっと魔法を解き、いつもの軽装に戻った。

「まずは基本に忠実に、足で稼ぐぞ。ガルドスのおっさんが言ってた、密造団の噂が流れてるっていう下層区の酒場に向かう!」


***


街の下層区は、ギルドのある中央区とは打って変わって、雑多で猥雑な空気に包まれていた。日差しを遮るように高く増築された木造建築がひしめき合い、路地裏には酸い匂いが漂っている。


ジンたちが目的の酒場へ向かって薄暗い路地を歩いていると、前方の路地裏から怒声と鈍い音が聞こえてきた。


「痛えじゃねえか! どこ見て歩いてんだ、クソガキ!」

「ご、ごめんなさい……っ!」


駆けつけると、顔に傷のある大柄な傭兵風の男が、薄汚れた服を着た小さな少年を路地の壁に追い詰めていた。少年が運んでいたらしき籠がひっくり返り、果物が地面に散乱している。

男が太い腕を振り上げ、少年の顔面を殴りつけようとした、その時だった。


「――待ってくれ! その子は悪くない!」


横から飛び出してきた一人の青年が、少年に覆い被さるようにして男の拳を受けた。

ゴッ!という鈍い音が響き、青年は地面に無様に転がる。麻の服を着た、行商人風の細身の青年だ。


「あぁ? なんだテメェは!」

「ぐっ……私の、知り合いの弟なんです。私が代わりに謝りますから……許してやってくれませんか」

青年は鼻血を流しながらも、必死に少年の盾になろうと立ち上がる。だが、素人が歴戦の傭兵に敵うはずもない。


「ふざけんな! 代わりに殴られに来たってのか? 上等だ!」

傭兵は容赦なく青年の腹を蹴り上げた。青年は「かはっ!」と息を吐き出し、胃液を吐きそうになりながらも、少年に向かって叫んだ。

「逃げろ……! 早く!」


少年が泣きながら逃げ出していくのを見届け、青年は安堵の表情を浮かべた。しかし、激高した傭兵の容赦ない蹴りと拳が、抵抗すらできない青年に降り注ぐ。


ジンは、その光景を呆然と見つめていた。

(なんだ、あいつ……)

青年には力がなかった。誰がどう見ても勝ち目はない。なのに、見ず知らずの子供を逃がすために、自分がボロボロになることを承知で飛び出していったのだ。


「……すげえ、かっこいいじゃねえか」


ジンがポツリと漏らした言葉に、横にいたリナとセレスがハッと息を呑む。

ジンは自分が『力(創造魔法)』を持っているからこそ、ヒーローのように振る舞える。だが、目の前の青年は違う。持たざる者でありながら、その魂だけでヒーローであろうとしたのだ。


(俺の魔法の発動条件は、『俺がかっこいいと思うか』だ。なら……俺のこの力は、俺だけじゃなく、ああいう『最高にかっこいい奴』のためにも使えるんじゃないのか……?)


ジンの胸の奥で、新たな可能性の扉が軋みを上げて開く感覚があった。

だが、考察は後だ。今は――。


「そこまでにしておけよ、おっさん」

「あぁ!?」

傭兵が振り返った瞬間、ジンは既に間合いを詰めていた。力任せではない、相手の重心を的確に崩す洗練された足払い。ドスウッ!と傭兵の巨体が地面に倒れ伏す。

ジンの鋭い眼光に見下ろされ、傭兵は舌打ちをすると、「チッ、覚えとけよ!」と捨て台詞を吐いて逃げていった。


「おい、大丈夫か?」

ジンは、地面にうずくまる青年に手を差し伸べた。

「あ、ありがとうございます……」

青年は、ジンの手を取って痛々しく立ち上がる。セレスがすぐに駆け寄り、治癒の光を手に灯そうとするが、青年は慌ててそれを制止した。

「い、いえ! 安物のポーションを持っていますから、貴重な魔法はどうか温存してください。私は大丈夫です」


青年はポーションを呷り、擦り切れた袖で口元を拭うと、真っ直ぐにジンを見た。

「助けていただいて、感謝します。私はヴェイン。しがない薬売りです」

「俺はジン。こっちはリナとセレスだ。ヴェイン、お前……素人なのに、なんであんな無茶したんだ?」


ヴェインは自嘲気味に笑った。

「……無茶、ですよね。わかってます。私に力がないことも。でも、あのまま見過ごしたら……後悔すると思ったんです。逃げれば助かる。でも、それじゃダメだと思ったから」


その言葉は、アギト戦でジンが女性たちを見捨てなかった時の感情と、完全にリンクしていた。

(こいつ……俺と同じだ)

ジンは、ヴェインへの好感を決定的なものにした。


「ヴェイン、お前……最高にかっこいいぜ」

ジンがニカッと歯を見せて笑うと、ヴェインは照れたように頭を掻いた。

「そんなことありませんよ。私はただの、臆病な兄ですから……」


「兄?」

リナが尋ねると、ヴェインの顔に深い影が落ちた。

「実は……数日前、北の『旧き森の地下遺跡』で、盗賊団に襲われたんです。『黒蛇の牙』と名乗っていました。私は命からがら逃げ出しましたが、一緒にいた弟が……捕まったままで……」

ヴェインの目から、本物の涙がポロポロとこぼれ落ちた。セレスも痛ましいものを見る目でヴェインを見つめる。


「黒蛇の牙だと!?」

ジンたちが顔を見合わせる。


「私には戦う力がありません。でも、せめて弟を助け出すための道標になればと、逃げる途中で必死に遺跡の地図を描き留めました」

ヴェインは懐から、端が破れた一枚の羊皮紙を取り出し、震える手でジンに差し出した。

「ですが……逃げるのに必死で、途中までしか描けていません。迷宮のように入り組んでいて、奥は私の記憶を頼りに案内するしか……。それでも、どうか、あの悪党どもから弟を助けてくれませんか!」


ジンが受け取った地図を覗き込むと、確かに途中から線が途切れており、目印らしき曖昧な走り書きがあるだけだった。

「……これだけでは、迷う可能性が高いですね」

セレスの冷静な言葉に、ヴェインは深く頭を下げる。


「頭を上げてくれ、ヴェイン。奇遇だな、俺たちもその『黒蛇の牙』を追ってたところだ。――お前の弟、俺たちが絶対に助け出してやる」

ジンが力強く宣言すると、ヴェインは涙顔のまま、パッと顔を輝かせた。


その時だった。


「――なら、俺たちも一枚噛ませてもらおうか」


突然、薄暗い路地の入り口から、野太い声が響き渡った。

ジンたちが一斉に振り返ると、そこには逆光に包まれた三つの巨大な影が立っていた。

いかにも歴戦の猛者といった風貌の、重武装の冒険者たち。鋼の鎧が、路地裏のわずかな光を反射して鈍く光る。


「黒蛇の牙の討伐に、地下迷宮の案内役……。こいつは、でかいヤマになりそうだぜ」


リーダー格の男が、ニヤリと好戦的な笑みを浮かべる。

予期せぬ乱入者。月光花を巡る陰謀の影で、新たな役者たちが交差しようとしていた――。

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