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32 国王陛下との謁見

32 国王陛下との謁見


ウィリアムとの時間は、ジュディスにとってかけがえのない時間になっていた。短い時間しか会えない分、お互いの想いは募るばかりだ。しかし、その日の夜、ウィリアムが姿を表すことはなかった。

 翌日は、ドレスを着てダンスの練習日だった。王宮の侍女たちによって美しく着飾ったジュディスは、以前のシェリダン家でのことを思い出して、思わず笑顔になる。


「ああ、この姿をそのままウィリアム様に見せられたらいいのに…。今日は何時ごろ来てくださるかしら。」


 思わず独り言がこぼれ出る。しかし、ダンスのレッスンが終わって部屋に戻ったジュディスに届いていた手紙が、彼女の気力をそぎ取ってしまった。


「仕事でしばらくここには来られない。」


 仕事、そう、仕事なら仕方がない。頭では分かっていても、ジュディスの脳裏に魅了魔法にかかって冷たい視線を送るウィリアムの姿が蘇る。しばらく手紙を握り締めていたが、翌朝、思い立ったジュディスは、一度家に戻りたいと文官に相談した。


「ジュディス様、陛下が謁見の時間を取ってくださるそうです。」

「ありがとうございます!」


 身なりを整えて、謁見の間へと向かう。以前にも国王陛下には会っているが、やはり緊張してしまう。ジュディスは、大きく深呼吸してこぶしを握り締めると、謁見の間に入室した。

 しばらくすると、文官が国王の入室を宣言し、奥の間から国王がやってきた。


「ジュディス・アンブラ―嬢、顔を上げてくれ。私からも、話しておきたいことがあったのだが、まずはそなたの話を聞こうか。」

「ありがとうございます。王宮に保護していただいて2週間。何不自由ない暮らしをさせていただいておりますこと、感謝申し上げます。ただ、そろそろ祖母の刺繍に影響が出ないか心配になっております。」

「うむ。確かにそうだな。ジュディス嬢、ちょっと込み入った話をしよう。」


 そういうと、国王は護衛騎士たちに目配せし、椅子を一脚用意させて退室させた。


「緊張せずともよい。ここに座ってくれ。いろいろと事件の事が見えて来たのでな。」


 ジュディスは緊張しつつも、玉座のすぐ近くに置かれた椅子に腰かけた。


「そなたも知っているだろうが、第一王女のジャクリーンは西の隣国ターラントに嫁いでいる。あれも魔法はそこそこ使えるのでな、手紙鳥を使って情報交換しているので、あちらの様子は手に取るように分かっている。平和だった国に、突然魔物が発生する様になったのは事実のようだ。あちらから、何かしらの救助要請がくれば、もちろん手助けするつもりだ。しかしな。ターラント王からの支援要請は来ていない。」

「そ、そんな。では、我が家に来られた文官の方々は一体…。」


 不安がるジュディスに国王も渋い顔で頷いた。


「おそらく偽物だろう。」

「偽物…。」

「そなたの魔力が発揮された瀕死の騎士が生還した時、その場にいた人物で、騎士団や彼の近親者以外の者がいただろう?」

「ま、まさか。王宮魔法使いのクインシー様…?」


 国王は、深いため息をついた。


「あれに魔法爵を与えたのは、間違いだったようだ。職業爵は、単に技術が優れている者に与えるものではない。広く国民のために尽力できる人材でなければいけないのだ。だから、そんな大切な国の宝を簡単に隣国に手渡すつもりはない。ただ、私も人の子だ。我が娘が苦しんでいるなら助けたい。もしも、どうしても手に負えなくなって応援要請が来たら、その時は助けてやってもらえないだろうか?もちろん、これは、我が国の騎士団や王宮魔法使いたちを派遣した後の話だ。」

「わ、私にそんな力が備わっているのでしょうか?」


 俯き加減のジュディスに、困ったように眉を下げた国王が声を掛ける。


「こちらでしかるべき人物を選定して、秘密裏にそなたの魔法教育を行うことにさせてもらう。そなたの能力は緘口令が引かれているにもかかわらず、おかしな形で広められているが、ここで魔法教育が公になれば、その噂が一層加速してしまうだろう。これは私からのお願いだ。受けてくれぬか。」


 目の前で頭を下げる国王に、ジュディスはおろおろしてしまった。


「お、お願いです、陛下!頭を上げてください。陛下のご意向とあらば、喜んでお受けいたします。」

「そうか、受けてくれるか。感謝する。あ、そうそう。ウィリアム・シェリダンだが、今回の騒動で、裏で糸を引いているであろう人物について、騎士団で調べさせていてな。そのため、魔物の討伐援護を兼ねてターラントに交代で派遣しているのだ。エドモンズから、誤解を生まないように伝えてほしいと言ってきた。そろそろ帰ってくる頃だろうから丁度いい。文官をつける。一時、自宅に帰って仕事の段取りを整え、婚約者への誤解が解けたら、こちらに戻ってくれ。騒動の黒幕の目星はついた。あと少しの辛抱だ。」

「陛下、身に余るご配慮、感謝申し上げます。」


 顔を上げたジュディスは、思わず笑顔になった。国王は満足げに頷くと、手元のベルを鳴らし、奥の間へと帰っていった。


 ジュディスが馬車に乗り込み自宅へと帰り始める頃、騎士団では、隣国の使者を名乗る男がクインシーの手先であることを突き止め、クインシー本人を追っていた。追いつきそうになると、大きな壁や川が出現し、行く手を阻まれる。もちろんクインシーの魔法によるものだ。目の前まで迫っていても、騎士団にはどうしてもこの魔法使いを捕まえることは出来ないでいたのだ。

 懐かしい我が家に向かう馬車に揺られながら、ジュディスが明日から始まる短期間の帰還でやってしまわなければならない仕事の段取りを考えていると、向こうから乱暴に走ってくる馬車が見えて来た。ジュディスの乗った馬車の御者が、慌てて馬車を横に移動するが、相手の馬車は、吸い寄せられるようにこちらの馬車に向かって突進する。

 あっという間に、馬車はぶつかり、ジュディスの乗った馬車の御者も、相手の御者も投げ出されて倒れ込んだ。なんとか無事に馬車から下りたジュディスは、すぐさま御者に駆け寄って治癒魔法を掛けた。そうしていると、背後で馬車を降りる音がした。


「貴様!なぜ道を開けないんだ!この王宮魔法使いの私にもしものことがあったら、この国の大きな損害なんだぞ!」

「けが人がいます。まずは彼らの治癒を!」


 ジュディスはそれだけ言い放つと、すぐにクインシーの乗っていた馬車の御者にも治癒魔法を掛けた。


「その魔法…、おまえがジュディス・アンブラ―か!俺の計画に、ことごとく邪魔をして!」


 クインシーはわなわなと怒りに震え、詠唱もなくいきなりジュディスに魔法を掛けようとした。しかし、魔力の高いジュディスは意識せずとも跳ね返してしまう。


「貴方も魔法を使えるなら、もっと人とためになることに使ったらどうですか!」


 そう言い放った時、遠くから騎士団が追いかけてきたのが見えた。クインシーは慌てて馬を馬車から離すと、すぐさま飛び乗って逃げようと試みた。しかし、そこはジュディスが許さなかった。


読んでくださってありがとうございます。

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