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第三十五話 憎しみの炎は絶えず


「そう、今頃アーキノフ様は姉さんを連れて元の時代に戻ってるはず。だから今から駆け付けてももう手遅れなのよ」


「何故なんだ? どうしてネファーリアを?」


「具体的な理由なんて知らない。世界を一つにして、強大な力を得る為だって言ってたけど、私は彼の野望だの何だの別にどうだっていいの」


「世界を一つにする……?」


「私は……私はぁぁ!! 姉さんが許せないのよ!! 私からアストを奪いやがって!!! 殺してやる!!!」



 また狂気に満ちた表情に変わった。その事に関しては、僕が悪いんだよセシル。

 メルトナの本当の意味を理解していなかったんだ。

 僕はあの時、魔族の事をもっと知る為に必要だと思った。だからメルトナを交わした。

 って、今君にどんな説明をしても聞いてもらえないだろうから、このまま話を聞く事しか出来ないでいた。

 

 セシルが感情的になると、リラやレインベルを縛り付けている術の効力が増す。

 セシルが声を張り上げる度に一緒に悲鳴も聞こえてくるんだ。



「セシル!! もうやめてくれ!! このままだと僕達は本当に敵になってしまう!! 二人を解放してくれ!!」


「…………なんで……よ」


「……?」


「どうしてよ!? なんでこんな女達の方が大事なのよ!? 前のアストは私だけ見ていてくれたのに…………ねえ何でそんなに変わっちゃったのよ!!」


「セシル!!」



 くそ……とんでもなく強大な魔力だ。

 ネファーリアと同じ……いや、それ以上かも……。



「そう……やっぱりそれも姉さんの影響なのね。あの……おんな……あぁぁぁぁ〜!!!!!!!!」



 ギュイィィィィィィィィン!!!



「くっ……!!」



 魔力の波動が台風の様に辺りに吹き荒んだ。

 このままだと全員やられてしまう……。

 そうだよセシル。君の言う通り、あの頃の僕は君が全てだった。

 だからアーキノフが君を殺した時、自分の事なんてどうでも良くなって、ただただ復讐に取り憑かれていた。


 だけどネファーリアやリラ、レインベル達と旅を続けていると少しだけ楽になれたんだ。

 君を失った時の悲しみや憎しみがほんの少しだけ、和らいだ。


 君への愛が無くなった訳じゃない。今でも……だけど君は僕の大切な家族を傷つけている。正直頭がおかしくなりそうな状況だよ。


 僕は、自分の信じる道を進む。あの時の君が僕にそう言ってくれたように。


 伝えたい。だけど今の彼女には……。


 そう思っていた時だった。突然セシルに異変が起きたんだ。

 最初は狂った様に笑い散らしている。そんな風に見えたんだけど、苦しんでいる事に気がついた。

 その苦しみがどんどん顔を出し、それに比例して彼女の全身から湯気のような気体が見え始めた。



「あは……あははは……う!? ……ぐぅあぁぁ〜!!」


「また更に魔力が増幅した……。セシルー!」


「ギャハハハハハハハハハァァァァ!!?」



 甲高い声に地を這う様な低い声が混ざった不気味な声で、セシルは笑っているのか苦しんでいるのか、それだけでも異常な状態なのに、更なる異変が彼女を襲ったんだ。



「からだが……セシルの……そん……な」



 セシルの体は蝋の様に徐々に溶けているんだ。

 美しい顔がどんどん歪んで皮膚がペタペタと溶け、千切れ、地面に落ちていく。


 僕は目を疑った。これってまさか魔物化ロスト

 ネファーリアと初めて会った時、彼女もロストしかけた事があった。

 あの時はなんとかなったけど、今回はあの時よりもずっと進行している。

 近くに魔素もなさそうだし、このままだとセシルは……。


 通常、ロストする原因は魔力が完全に失われた時。

 魔族は魔力がゼロ以下になるとロストが始まる。


 だけどセシルの魔力は無くなるどころか、どんどん増えていってる。


 違う……これはロストなんかじゃない。


 竜族の皆……ごめんよ。セシルをこのまま放っておけないんだ。

 本当にごめん……。力を使わせてもらうよ。


 分析士のスキルに【スキャン】がある。対象を事細かに分析する基本的なスキル。

 丁度、竜騎士に備わってる竜眼のようなものだな。

 セシルが今どんな状態にあるのか、【スキャン】すれば直ぐに分かるだろう。


 何十の魂がフッと灯火が消えるかの様に僕の中から消失した。

 ごめん……本当にごめんよ。


 だけどそのおかげで、直ぐに大変な事実が判明したんだ。

 魔族だって体の構造は人間とほとんど同じ、だからこの事実はやっぱりおかしかった。


 セシルは今も死んでいる。蘇ってなどなかったんだ。

 心臓が動いていない。血流も見られない。

 例えるなら、そうまさにゾンビだ。


 アーキノフ……お前の仕業なんだな。

 セシル、君はやっぱり騙されてるんだよ。

 とは言っても、この状況を止められる術を持っていない。



「私……は? これは……ナ……に?」



 狂い叫んでたセシルが、また急に冷静になって自分の両手を見て震えている。

 肌は腐敗し、脆くなってボロッと地面に落ちていく。右腕は一部骨まで見えている。


 そんな自分の変わり果てた姿に、驚きのあまり震えていたんだ。

 酷い。見ていられないぐらいに辛いよ。

 思い出してしまうんだ。君が殺された、あの場面。

 アーキノフはセシルがこうなる事を知った上で一時的に蘇らせたんだ。


 


「あ……スト、こん……な……わた……。もう愛…………せ…………よね…………?」


「セシル……………セシルゥゥ!!!!」



 抑えられなかった。竜族の魂とか、アーキノフに利用されて蘇ったセシル、僕やネファーリアを憎んで敵対してる事、何もかも今はどうでも良かったんだ。


 目の前の君を見過ごす事は出来なかった。


 だから僕は……僕は。



 ピカァァァァァァァァァァァン!!!



 誰かを守りたい、救いたい、そんな気持ちや感情が強く昂った時、光の極大励起へと覚醒する。

 キラキラした光の粒が僕の体に纏わりついて、眩い光を解き放った。

 その瞬間、リラやレインベルにかかった呪縛は煙の様に消えてなくなり、また辺りに放出していたセシルの魔力も掻き消える。

 そして今にも倒れそうなセシルをそっと抱いて、呼びかける。



「あぁ……そんな……セシル…………」



 片脚は砂の様に崩れてしまい、もう片方も皮膚にひび割れの様な亀裂が走る。



「わた……し……やっ……と、アス…………嬉……」


「くそぉ!! どうしたら!!」



 ありったけの光の魔力をセシルに送ってみたけど、何も変わらなかった。



「ず…………と、これ…………望……。アス…………愛……」


「セ……シ……?」



 最後の言葉を聞く前に、体が崩れてしまった。

 現実を理解しようとする脳が追いつかない。少し前まで言葉を交わしていたんだ。


 それが今は形すら残っていない。

 この悲しみ、憎しみ、あの時僕が感じた思い以上に……。


 二度も僕を……うぅぅぅ。

 憎しみの炎が体の奥から溢れ出そうとしている。

 光から裏返り、闇の極大励起した僕の周りはとてつもない負のエネルギーで満ち溢れた。

 リラやレインベルがいると言うのに、今の僕にはそんな余計な事を考える余裕はない。


 どうでもいいんだ。



「アァァァァァァァァキノフゥゥゥゥゥ!!!!!!!」



 もう抑えられない。もうどうなっても良い。

 通常だと感じ取れなかったネファーリアの魔力が、極大励起状態だと遠くで感じ取れる。まだこの時代にいる。



「と言う事は、アーキノフもいる」



 お前が人間だろうが、魔族だろうが、神だろうが、僕は絶対にお前を許しはしない。


 激しく飛び散る闇のオーラに包まれながら、ネファーリアの元へと向かう。

 障害となるものは全てぶち壊しながら。



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