第三十四話 神の御使い -Nephalia Side-
「どうして貴方が!?」
「ただの人間が何故、時を超える事が出来たのか……か? なら答えは一つであろう。儂は人間ではない」
「人間ではない……? 貴方は一体何者なのです!?」
わたくしは正直アーキノフに恐怖しておりました。
アストの目の前でセシルを殺害し、そして再び生き返らせ、自分の味方につけた。
どんな意図があり、セシルを蘇らせたのか分かりませんが、それを平然とやってのける事が恐ろしい。
何故、この時代にやって来たのでしょうか。
アーキノフの謎は、まさに底知れぬ闇。背筋に冷たいものが走ります。
そしてアストではなく、わたくしの所へ現れたと言う事は……。
「わたくしが狙いなのですね」
「察しが良いな。アストが過去の幻竜神界から更なる過去へ飛んだ事には儂も驚きを隠せなかったが、セシルのお陰で追跡が出来た」
「セシル……」
「今頃は、アストの所だろう」
-Ast Side-
「セシル……」
唐突に僕達の前に姿を現したセシル。幻竜神界で見た狂気に満ちた彼女はここにはいなかった。
とても冷静でいて、でもその瞳の奥には悲しみ、憎しみが見え隠れしている。
「アスト、貴方の選択は間違ってる。私と来るべきだったのよ」
「僕はこれまでに、選択を誤った事もあったかも知れない。だけどこれだけは言える」
目を閉じてもう一度考えてみる。
勇者偽証と言う嘘の罪を認めさせられた挙句、アーキノフは君を殺した。
その後、ザングレスの魔力で君は生き返ったけど今考えれば、君を殺し、僕の心を刺激したのは導師の力を成長させる為だったんだ。
その為なら人も殺す。
だからこそ、言えるんだよ。
「君はアーキノフに利用されてるんだ。導師の力を手に入れる為なら何でもする奴だぞ? 今からでも遅くはないから、あいつから離れるんだ」
「……離れて何処に行けばいいと言うの?」
「僕のところで良ければ」
「ふざけないで!!」
「…………ネファーリアとの事なら、ちゃんと話を聞いてもらえれば分かってくれるはずだよ。だから」
「何で私が、姉さんとの馴れ初めなんて聞かなきゃいけないの? どこまで私を馬鹿にしたら気が済むのよ!!」
「セシル……違うんだ。そうじゃなくて」
「何が違うのよ!! アーキノフ様に蘇らせていただいた時、すぐに貴方の顔が浮かんだわ。喜んでもらえると思ってた……だけど実際は違ったわ」
「アーキノフが君を蘇らせたのには、必ず何か理由があるはずなんだ。別に僕のところじゃなくてもいいから、とにかく離れるんだ」
感情的になって息を切らしたセシルは暫く沈黙すると、人格が変わったかの様にまた冷静な顔に戻る。
「そんな事を話しに来たんじゃない。貴方の大事なネファーリアは私達の計画に必要なものだって分かったの。今頃アーキノフ様が連れ帰ってるところね」
「な、なんだって!?」
ネファーリアは今単独行動中で一人。すぐに向かわないと……リラとレインベルに向かわせる為、合図を送るけどセシルの力は想像以上に凄かった。
魔力で二人を縛り付けて動けなくしたんだ。
「く、くそぉ! 先生! これじゃ動けねえ!!」
「あぐ……彼女が……ここまで強かったなんて」
「アーキノフ様が、無事元の時代に戻るまでじっとしていてもらうわよ」
「セシル!!」
僕の呼びかけに本当に一瞬だけ、昔の彼女の面影が顔を出したんだ。
あの頃の、僕が恋をしたセシルが……。
-Nephalia Side-
目を見ていられない。ラムリース城の時とは明らかに別人なのです。この威圧感、底知れぬ魔力を感じます。あの時は力を隠してたとでも言うのでしょうか?
いえ、その様な余裕はなかったはず。あの時、わたくしの【烈炎弾】にセシルが動き、アーキノフを庇いました。
ただの初級魔術にです。
少なくともあの時のアーキノフは人間でした。あれから何かがあって力を手に入れたのでしょうか。
今のアーキノフに、わたくしだけで勝てる見込みはありません。けれどもここから隙を見て逃げ出す事は可能であるはず。
魔力を解放して身構えます。
「儂に怯えているな。得体の知れないもの、そしてこの力に……」
いえ……隙などありません。
「そうだ。其方に勝ち目はない。余計な事は考えずに儂と共に来るのだ。儂とて出来るなら力に訴えたくはない」
「ならば教えて下さい。わたくしを必要としてる理由は何ですか?」
「…………ふむ、良いだろう。其方にどれだけ理解出来るか分からんが、教えてやっても良い」
アーキノフが何を考え、どんな企みを持っているのか少しでも分かればわたくし達も動きやすくなるはずです。
ここは出来るだけ話を聞き出すのがわたくしの役目。
「遥か昔、この時代よりも更に過去の神話の時代。人間界、魔界、幻竜神界は一つの世界だった。その世界を取り戻すべく、元の一つの世界に戻す。それが儂の目的だ」
「世界を……一つに……戻す」
「その名はメルティシア」
「メルティシア……」
「魔力に満ち溢れた世界。儂はメルティシアの支配者となり、大いなる魔力を手に入れる」
そして、とアーキノフは続ける。
「ネファーリア、其方とセシルはそれを実現させる為に必要なのだ」
アーキノフが何故お父様を捕えたのか、それは膨大なる魔力を利用してラムリースを強く、大きくする為だと思っていました。
しかし本当の理由はそこにはなく、メルティシア復活の為にお父様が必要だったのです。
お父様がメルティシアの復活に関わっている事も驚きましたが、わたくし達にその〝鍵〟を託していた事にも驚きました。
わたくしの中に、その鍵があると言うのです。
「どうしてそこまでして、メルティシアを復活させようとするのですか?」
「無理だ」
「……無理? 無理とはどう言う意味ですか?」
「ここから先は神の領域。其方では到底理解する事など出来ん。そしてこれ以上は知る必要もない」
「まるで、ご自分が神様にでもなった様な口振りですね」
「そうだな。長く忘れておったが、要約少しずつ思い出して来たのだネファーリア」
「?」
アーキノフが何を言いたかったのか、何を忘れ思い出したのか確かに話が読めませんでした。
しかしこの後、アーキノフが並べた言葉に、わたくしは更なる思考停止をせざるを得なくなります。
「儂は……かつては〝天使〟だった」




