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第三十三話 予想外 -Nephalia Side-

 

 地下の牢獄は思った以上に深く、地上まで二時間程かかってしまいました。

 セレスティア様に聞いた部屋まではまだ少し先の様です。

 今のところ悪魔に遭遇してはおりません。

 

 本当にアストの仰った通り、警備兵達は皆、脱獄したとアスト達を探し回っている様でわたくしは全くのノーマーク。


 まさかわたくし一人で行動してるなど、思っていないのでしょうね。


 アスト……凄い方です。お父様の仇として初めて貴方と出会った時から、わたくしは貴方の事を不思議な存在として感じておりました。


 あの時はまだ複雑でしたけれど、貴方を知っていく内にどんどん思いが募っていき〝お風呂場の出来事〟からわたくしは意識し始めました。


 お父様の仇を愛する事になるなど……そんなわたくしの気持ちより、純粋に愛しい気持ちの方がまさっていたのです。


 しかし最近ただ愛しいだけではダメなのだと痛感しております。

 アストのメルトナは、わたくしを入れて三人。正確には四人ですね。


 アストへの思いは他の何方にも負けはしません。

 ただ、わたくしとアストでは釣り合わないのではないかと少し思う様になって参りました。


 だから少しでもアストの役に立てる様に、アストが今何を考え、何を求めているのか、もっともっと勉強しなくては。


 今回も、わたくしを信頼して単独行動を考えられたと思うので期待に応えられる様に頑張ります!



「……感じます。わたくしの時代にある壺と同じ魔力……やはり流印の壺は、昔、邪悪なる存在が持っていたと言うのは本当だったのですね」



 アスト、もう直ぐです。





-Ast Side-




「先生! め、めちゃくちゃ追って来てるぜ!?」


「うん! 作戦バッチリだな!」


「けど、これどうするの? 戦うか?」


「アストさん、こう言うのはどうでしょう? 誰かがまず囮になって囮に油断してるところを挟み撃ちして一気に片付ける!」



 隣で走りながらレインベルが提案を持ちかける。

 うん、悪くない戦法だ。だったらこの囮は……。



「囮は僕がやる。と言うよりもう決まってたようなものだからね」


「注意するのは烙印のみ! それにゲリュムスやゾアの様な強い悪魔じゃないみたいだし、戦闘ではあたし達絶対に負けないので、油断を狙う作戦が有効かと!」


「レインベルの作戦で行こう! それじゃあ僕が囮になるから散ってくれ!」



 僕の合図でリラとレインベルは二手に散って行った。



 僕は立ち止まって勢いよく向かって来る悪魔へ振り返る。

 今の僕じゃただここに立ってるだけしか出来ない。

 だけど立ってるだけでいい。

 するとすぐに取り囲まれてしまった。



「へっへっへ、おい、仲間に置き去りにされたか? お前が噂のアストだったよな?」



こいつケンタウルスだな。ゼクトリアース物語に出て来る魔族の特徴に似てる。



「へぇ、僕って地獄ここでそんな有名なんだな。サインしようか?」


「つまんねージョーク言ってんじゃねーよ!」



 この怒ってる悪魔はキングスカルナイトか?

 だけど特徴がちょっと違うな。確か軍団長的な立ち位置だった気がするけど……。

 僕も記憶が途切れ途切れだからな……と、悪魔達を観察していると



「おい、こんな野郎が本当に勇者って奴なのか?」


「それにしても貧弱な魔力だよな! けけけけ! 俺達でもやれんじゃねーか?」


「馬鹿、こいつはロズ様の獲物だぞ? そんな事したら俺達皆殺しにされちまうよ!」


「生きて捕えるのだ!」



 四方八方からジワジワと寄って来る悪魔達。

 一気に襲いかかって来ないところを見ると、警戒してるんだな。

 よし! リラ、レインベル、いつでもいいよ。

 そんな僕の声がまるで届いたかの様に絶妙なタイミングで二人が登場し、あっという間に十数匹の悪魔達を倒した。


 綺麗に円の形に倒れてるのは、悪魔達が一切その場から動いていない証拠だ。

 古の邪悪な神と言われた悪魔でも、戦闘レベル的に言うなら僕らの方が上だったんだな。



「作戦大成功! ですね!」


「うん! ありがとう! レインベルのおかげだね!」


「せ、せんせー! あたしはぁ? あたしも頑張ったんだぜ!」


「うん、もちろん! リラがいなかったら、悪魔を倒すのに時間がかかっただろうしね! ありがとう!」


「……えへへ」


「あの、アストさん。こんな所でって思われるかも知れませんが聞いておきたい事があるのです」



 何時に無く真剣な表情でそう言った。

 聞いておきたい事? なんだろ。



「うん、聞いておきたい事って?」



 僕も真剣な真顔でレインベルに返すと、なんだかモジモジし始める。

 さっきまで冷静な顔だったのに、あの、その、みたいに言葉が詰まり出した。


 そんなに言いにくい事を言おうとしてるのかな?

 ますます何か気になる。

 今のこの状況で言いにくい事で、僕に聞いておきたい事、もしかしてさっきの作戦の件かな?


 例えば僕を囮に使った事。

 リラやレインベルは僕を師として見てくれてるし、悪いと思ったのかな?

 うん、きっとそうだ。この事を躊躇って言い出せないんだな。

 気にしなくていいのに。

 僕は本当にレインベルの作戦がいいと思ったから、採用したんだ。



「大丈夫だよ。僕は君のでいいと思った。いや、寧ろレインベルは出会った時から」


「も、も、もももうじゅじゅ十分です!!」


「……え?」


「君でいい……♡ 出会った時……から♡ 出会った……あぁ……♡」


「レインベル?」



 何をそんなに照れてるんだろ。

 出会った時から君は作戦のアイデアがドンドン出て来てたし、そのアイデアも良いものが多かったから、このパーティーの参謀役になってもらえたらと言いたかったんだけど、伝わったのかな?



「これは嘘でも冗談でもなく、本当の僕の気持ちだよ。だから真剣に考えといて欲しいんだ。今後のパーティー(ぼくたち)について」


「え、え、え……そ、そそれって……!? こ、こここんなところで……い、いいまへ、へへ返事をするのですか!? ま、ま、ままだ心の準備……」


「うん、分かったよ。ゆっくりと考えといてくれて構わないよ。だけど、僕がレインベルを必要としてる事は変わらないからね」



 ドサッ。



「べ、ベル姉!? だ、大丈夫かよ!?」



 鼻血を出しながら直立したまま気を失って後ろに倒れたんだ。

 あんな倒れ方する人間初めて見た。あ、もう竜族になったんだったな。

 いや、いくら竜族でもあんな倒れ方しないだろう。

 気になったのは、苦しい表情じゃなくニヤニヤしてる表情に見えた事なんだよな。

 参謀役がそんなに嬉しかったのかな? 鼻血が出るぐらい?


 とりあえずレインベルを担いで、目立たない所で待機しよう……。




-Nephalia Side-



「ここですね……扉前から幾重もの結界が展開されている。流印の壺はここで間違いなさそうです」



 まずは扉の結界を解除する必要がありますね。

 ただ幸運な事に結界のいくつかは現代の魔界でも使われているものなので何とかなりそうです。

 糸の様に張り巡らされた結界を一つ一つ、それこそ絡まった糸を解いていく様に慎重かつ出来るだけ迅速に熟します。


 恐らくこの結界を全て解除するか、或いは部屋に侵入したら、何らかの通達がロズの下へ行くはず。ならば侵入してから如何に早く壺を入手してこの場を去るか、ですね。

 

 最後の一つを解除して両扉をゆっくり押し開けます。



 ギィィィィィ。



「黄金色に輝いた壺……流印の壺、あれに間違いありません」



 部屋の奥にある祭壇、そこに壺を発見しました。

 それだけの部屋。部屋にまた何か仕掛けが施されているのではと思いましたが難なく壺を入手する事に成功。



 ウォォン! ウォォン! ウォォン!


 この音は? 壺を取った瞬間に鳴ったと言う事は警報でしょうか?

 とにかくここから離れなければ。

 急いで部屋から出ようとした時でした。

 わたくしの背後に気配を感じたのです。

 出入り口は目の前の扉のみ、と言う事はアストのようにワープで現れた者がわたくしの背後にいると言う事になりますね。


 まさか、ロズが?

 そう思って振り返って確認しました。



「あ、貴方は!?」


「予想外だったか? ネファーリア」



 わたくしの前に立っていたのは、アーキノフだったのです。




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