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第三十一話 未完成の力 -Furin Side-



「エルフの進化における、全プロセスが終了致しました」



 機械音声のアナウンスの声が耳に入って来たらパッと目が開いた。

 よっしゃ、進化プロセス完了やって思ったら一瞬今まで経験した事のないぐらい強烈な痛みが全身を襲われてん。ほんまに一瞬だけ。

 その後、セティスからとてつもない魔力が溢れて来る。

 ちゃう、魔力やない。魔力が感じた事のない未知の力に変換されてる。

 これがエルフの力……?


 あたいは少しだけその力を表に出した。

 すると進化モデルが粉々に砕け散ってん。

 卵からひよこが孵るみたいに、あたいも進化モデルの中から外に出た。


 ん? 景色がなんかちゃう……背がちょっと伸びてる!?



 「待ったわよフュリン」



 その声は……タニス?

 そう思って振り向いたら……誰や?




「エメラルド色の癖っ毛、尖った耳、顔つき、羽が無くなってるのはあなたもなのね。変わったのはそれぐらいかしら? ……あぁ背が少し伸びたわね」



 あたいの事を見ながら無表情で話すあんたは結構変わってるけどな。

 まず身長が人間ぐらいまで伸びてるし、美白の肌も褐色染みた肌に変わってるし、金髪が真っ黒でお尻まで伸びてるし。

 フェアリーの頃は身長全く一緒やったのに、これ同じ進化なんか……?

 でも何でタニスがエルフに進化出来たんやろ。



「あんたタニスか!? あんたどないしてんな!! まさかあんたもエルフに!?」


「いいえ。私はダークエルフになったのよ。あっちを見なさいフュリン」


「ダークエルフ? なんやそれ」



 タニスの視線の先を追っていくと、何かが山の様に積み上げられてるんやけど……あれってまさか……。

 早く近くに行って確かめたい。そう思ったらいつの間にか目の前に来てた。



「一瞬で……あんな所まで」



 心臓がズキズキ痛む。苦しくなって呼吸がし辛い。

 山積みにされてたんは、フェアリーの死体やった。

 セティスを感じへん。みんな抜き取られて抜け殻みたいになってる。



「なん……やこれ……。誰や……誰がこんな酷い事を……」


「貴方の進化が遅すぎたおかげで、余裕を持って殺す事が出来たわよ」


「あんたが……あんたがやったんかタニス……」


「あーそうそう、無事ループを抜けられたわよ。こうなる事がどうやら正規ルート、運命だったみたいね」


「答えろタニス!!」


「ええ、やったわよ私が……うふふ」


「あんたぁぁぁ〜!!! 仲間を何で殺すんやぁぁ!!!」



 殴りたい。今物凄く強くそう思った。

 ほんならいつの間にかタニスが吹き飛んでた。

 凄い……これ、あたいがやったんか?



「うぐぐ……や、やるわね。まさかいきなり殴りかかって来るなんて思って無かったから油断したわ……」


「タニスなんでやぁぁ!!」



 あたいはまたエルフの未知の力を使ってタニスを何度も何度も殴り続ける。

 タニスは避けず、ガードする事もなくあたいの攻撃をただ受け続けてたんやけど、手応えを感じへんねん。



「やっぱり。この程度なのねエルフの力って。私の力には遠く及ばないわよ!」



 両手首をガシっと掴まれた。何やこの物凄い圧力。

 タニスもまた未知な力を使い熟せるようになったんか?



「アルヴァーデェル・エビチュラァー」


「あぅ……か、から……だ…………ぁ」



 タニスが変な呪文みたいなん唱えたら、体が地面に縛り付けられた。

 なんやこれ、身動き取られへん。



「呆気ない最後だわねフュリン。このまま潰れなさい……うふふふ……うふふふふ……くくく」



 重力で押し潰されそう……。力が、全部この重力に吸い込まれてしまう。あかん……こんな大ピンチやのに意識が薄れて行く。

 

 そんな時、記憶が映像みたいに頭の中に流れて来てん。

 それはもう一人のあたいの記憶。

 ここの世界と隣り合わせに存在するけど、お互いの世界は干渉する事が出来へん。

 アストは導師に覚醒せず、また勇者の力も失わず、ラムリースから追放される事のない世界。

 もう一人のあたいは、その世界の未来からやって来た。


 世界そのものが消えてなくなってしまうって言う避けられへん危機に、どうやって回避するのか考えてた時に、偶然この世界の事を知った。


 それからどうにか干渉する方法を探し出して、こっちにやって来た。

 やって来た理由は、この世界のあたいを助ける為。

 自分の世界はもうすぐ滅んでしまう。偶然見つけたこの世界にはその未来を辿って欲しくなかった。


 あたいは託されたんや……。もう一人のあたいがいた世界全部が、この体に乗ってる。

 こんなとこで負けられへん。もう一人のあたいのおかげでエルフに進化する事が出来たんやから。


 タニスは仲間やと思ってた。許せへん……フェアリーを皆殺しにしたこいつを……。



「あん……たぁ……! 心が……悼まんか……ったんか!?」


「最初はね、勿論悼んだわ。最初はね……うふふ。でも何十、何百って数をやっていくうちに、そんな気持ち無くなっちゃったのよね。だけど、そのおかげでダークエルフに進化する事が出来たの」



 タニスはクスクス笑いながら、重力に縛り付けられてるあたいの頭を踏んだ。



「う……あ……!」


「フェアリーには戦闘能力がないじゃない? だから一体殺すのに手間取ったけど、途中で進化に目覚めたのよ。あのとてつもない苦痛……快感だったわ。進化した後は全滅させるのに時間はかからなかったわね」


「ゆ、ゆる……せ」



 立ちあがろうと、さっきから魔力を振り絞ってるんやけど、重力に吸収されてしまうねん。

 タニスがまた強く足で押さえつけて来た。



「しぶといわね! さっさと死になさいよ!」


「死ぬ訳……ないやろ! あたいの……体にはなぁ! もう一人のあたいの思いも残ってんねん! 絶対にこんなとこで死なへん!!」

 

「使命なんて感じちゃって。あなたはもう誰にも期待されてないのよフュリン。精々私のオモチャとして生きなさい。まぁ、オモチャとしての人生もすぐ終わっちゃうけどね……ふふふふ」



 タニス……あんた。

 同じ元フェアリーとして、あたいはあんたを放っておく訳にはいかへん。

 あたいに何らかの恨みがあるなら、あたいだけを狙えばええんや。憎めばええんや。せやけどな、仲間まで巻き込んで同族みんなを殺して……!

 あたいは……あんたを……。



「ぜっっっっっったいにぃぃ!!! 許さへんからなぁぁ!!」


「あははは! そうね、だったら私のこの呪いから抜け出してみなさいよ!」



 狂ったように笑いやがって……呪いかなんか知らんけど絶対に抜け出されへんて思ってるんやろな。

 でもそうやねん……さっきからこの物凄い重力から抜け出そうとして、力を振り絞ってんねん。

 けど、力が吸い取られてるみたいに無くなっていくねん。

 正直まだエルフに目覚めたばっかで、力の使い方を分かってへんのやと思う。


 くそ……このまま、あたいはやられるんか。



「くっふっふ」



 この変な笑い方……ヴェルグラやな。

 地面に張り付いたままやけど、笑い方で分かるわ。



「フェアリーの魂は全て回収済み。フュリンさん、エルフに覚醒した貴方は純粋なフェアリーの魂では無くなりましたので、もう用はありません。ただそのエルフの力は私が頂いておきますね」


「なん……やて……? あ……たいの」



 あたいのエルフの力をいただくやって?

 冗談やない、そんなんあんたに渡す訳ないやろ。

 せや言うても、今のあたいは身動き取られへん状態や。

 くそ……エルフの力ってこんなもんなんか?



「待ちなさいヴェルグラ! こいつは私の獲物よ! あなたのおかげでこの力を得られた事には感謝してる。でもこいつは私が殺すの。邪魔をするなら、あなたも殺す!」


「ほうほう、そうですか。いや、残念ですねぇ。まあいいでしょう」



 しかし、とヴェルグラが続ける。



「今のフュリンさんは、まだ力に慣れていない様子。目覚めて間もないですからね。そんな未完成な状態のまま殺して、貴方は満足出来るんですか? もっとも満足してしまったらその力を得た意味が無くなりますがね……くっふっふ……」



 あかん……もう立ち上がるだけの力も出されへん。

 ほんまに殺されるかも……。

 エルフの力に目覚めたらなんとか出来るって思ってたけど、目覚めたらタニスはダークエルフって言う訳の分からん進化してるし、仲間は殺されてるしで、頭の中の整理が追いつかへん。


 タニスを止めたかった。罪を償わせたかった。

 何もせーへんまま、こんなとこで終わりたくないんや。


 アストに進化したあたいを見てもらうねん。

 そんでいっぱいアストを助けるねん。

 アストが笑うとあたいの心もハッピーになれる。あたいがあんたを勇者に選んだんは直感、やけど、間違ってなかった。

 

 アスト……アスト……今、あんたは何処におるんやろ……。


 アスト……会いたいよぉ……。


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