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第三十話 消せない一つの思い -Julius Side-


 エスハイムの王室、俺の部屋だ。

 横に六人程が並んで寝られる大型のベッドに世界中から集めて来た超絶美女に囲まれて、俺の欲望のままに好き勝手に女を抱く。

 一般人の男からするとまさに天国と思うに違いない。



「ねぇユリウス様、今夜も私を抱いて下さいね♡」



 右腕に引っ付いてる女が耳元で囁く。



「ちょっと! 貴方ばかりズルイわ! 今夜は私を抱いてもらうのよ! ユリウス様♡ 今夜は私がいっぱいご奉仕致しますね♡」



 今度は左腕を枕にしてる女が耳元で囁く。

 二人共名前も知らない女だが、容姿は俺好みでパーフェクトと言ってもいいぐらい美貌の持ち主。

 だが毎日美人を見ていると飽きる。最初は強い光で眩しくてもずっと見続けていれば慣れてくる。それと同じで美しすぎる女は正直もう飽き飽きしていた。


 普通の男なら、こんなに最高の美人が隣にいれば興奮するだろう。毎日でも天国へ登れる気分だろうが、今の俺は何も感じない。

 

 俺が抱きたいと言えば、世界中の女は俺のそばに来る。

 女だけじゃない。俺が右を向けと言えば、世界中の人間は右を向く。

 

 神……。そう、まさに神になった気分だ。俺が頭に考えてる事はほとんど叶える事が出来た。

 地位、名誉、女、金、全てが今の俺にはあるんだ。

 だが一向に満足感が得られない。



「ユリウス様〜? な〜んか難しい顔してますね〜♡ あ〜! 分かりましたぁ♡ 私が欲しくなったんでしょ〜

♡ 今からまたやっちゃいます〜?」


「ダ、ダメよ! 次は私の番なんだから〜!」


「はぁ……もういいから帰れ」



 俺はムクッと起き上がり、ローブを雑に羽織りながら冷たく言葉を捨てる。



「も、申し訳ありません! 私何か気に障る事言ってしまったのですね……本当にすみませんでした! ほら! あんたも謝んなさいよ!」


「ゆ、ユリウス様! 私も馴れ馴れしく話してしまいました……申し訳ございません! 何でもします! だから私の事嫌いにならないで下さい!」


「いいからとっとと帰ってくれ!」


「「はい……分かりました」」



 俺の心を満足させられる女はお前達じゃない。女達が部屋を去るのと同時にすれ違いで、幻術士が入って来た。

 幻術士達こいつらは元アーキノフの所有物。人々を洗脳し、俺色に染めている大事な下僕だ。


 こいつがここに来たと言う事は、やっと終わったんだな。



「ゼノス、クウォン、ヴァール、リミアの教育が完了致しました」


「終わったか……よし、連れて来い」



 幻術士は俺に礼をすると部屋を出て行き、暫くして戻って来た。

 こいつの後ろには洗脳が完了したゼノス達がキチンと横に整列して並んで立っていた。

 一人一人顔を見るが、明らかに前とは目つきが違った。

 偉大なる存在、そうだ神を見るような目。



「仕上がってるな。よくやった。お前はもう下がっていいぞ」


「ははぁ」



 俺は一人一人向かって歩いて、もう一度それぞれの顔を確認。四人とも緊張してるのか俺が近づくと、体がブルブルと震え出す。



「なんだ? 緊張してるのか? んん?」


「あ、あの英雄王が俺の目の前にいるなんて信じられねえ……」


「クウォン! 言葉遣いに気をつけろ! 申し訳御座いません!」



 ゼノスがクウォンの頭を押さえ付け無理やり礼までさせる徹底振り。

 これは今までのこいつらと比べたら素晴らしい進歩だと言える。

 最も、教育の賜物なんだがな。

 一番端にいるリミアの前にやって来ると、表情を確認する。



「ユリウス様」


「暫く見ない間に、いい女になったなリミア。あの頃の、俺達が勇者パーティーだった頃はお前からは憎しみと軽蔑の感情しか感じなかったが……」


「本当に恥ずべき行為でした。消せるものなら消したいです」



 リミアか……。毎日美人しか相手にしない俺の目は、今こいつのような素朴な普通の女がいい女に見える。

 あんなに俺に対して否定的だった人間が、今は俺の下僕になっているって考えただけでゾクゾクしやがる。


 そうだ、このゾクゾクする感覚。たまらない。



「ゼノス、クウォン、ヴァールは魔族との戦争に備えておけ。期待してるぞ。下がれ」


「「「はっ!」」」


「リミア、お前はここに残れ」


「畏まりました」



 ゼノス達が部屋から出て行き、俺とリミアだけになる。

 こいつには以前、不治の病に侵された弟の為に最新の治療を受けさせてやった。

 恐ろしい程の大金を使ったが、その理由は俺の女にする為だ。

 だがあの時のこの女は、俺を切ってアストの所へ行きやがったんだ。そして治癒術を習得し自分自身の力で弟を治療していると言う話も聞いた。


 あの時、間違いなく俺はお前達姉弟を救ってやったんだぞ。この……女から出て来る言葉は、アスト……アスト、アストアストアストアストアスト!!!!!


 ……だから今、たっぷりと礼をしてもらうんだ。

 不治の病の治療に大金を使った事や、アストの所へ行った事をもう一度、ネチネチとこの女に撒き散らす。

 反吐をかけるかのように。

 今のこいつは、俺の従順なる下僕。間違ってもアストが救世主などと思ってはいない。



「あの時は……あの時は、本当に申し訳ない事をしました……。とんでもなく重い罪を背負って生きて来ました。……私を殺して下さい」


「お前はアストの事が好きなんだろ?」


「確かに以前はそのような感情がありました。あんな大罪人の事で心揺さぶられていたなんて恥ずべき事です。アスト……名前を口にするのも吐き気がします」


「そうか」



 ふふふ、聞いたかアスト。お前の名前を口にするのも吐き気がするんだとよ。

 これでやっと元の形に戻ったな。俺が想像する理想の形に。

 そうだ、アストは大罪人。例え導師の力があろうが世界を支配したのはこの俺。英雄王ユリウス様だ。

 世界を救い、救世主となるのはあいつじゃなくこの俺。


 俺はリミアをベッドに呼び、座らせる。

 まずはこの女を抱き、徹底的に俺色に染めてやる。



「お前は俺のものだ。俺に抱かれて幸せだろう」


「勿論です。私の事抱いていただけるのですか? こんな私を」


「脱げ」


「はい」



 するとリミアは全くなんの抵抗もせず、服を脱ぎ始める。

 あぁ……この感覚だ。凄まじい程のゾクゾク感が込み上げて来る。

 この俺が若干緊張までしているのは、自分でも信じられなかった。久々の感覚に俺はゴクンと密かに唾を飲む。

 これだ。どんな美女にも飽きた今の俺が求めていたもの……リミアこそが俺の乾きを満たす女だ。


 綺麗に梳かれた黒髪、揃えられた前髪に隠れ眉毛は見えないが、こいつの表情かおは手に取るように分かる。

 いや、実際は分からないがこいつは今や俺の下僕。


 こんな風に唇に吸い付いても、こいつが拒否する事はない。



「…………」


「…………」



 今何をした? この女、顔を背けたのか?

 いや、そんなはずはない。こいつは完璧に教育を終わらせたはずだ。

 もう一度。



「…………」


「……………………!?」



 こいつ……まさか潜在意識の中で俺を拒んでいると言うのか。

 この女の中にまだアストがいやがる……アストめぇぇぇぇ……!!!!!!!!!

 怒りが沸々と沸き上がる。俺の強力な洗脳を受けてもまだ潜在的に俺を拒む理由があるとすればアストの存在しかない。


 俺はその怒りを思い切りこいつにぶつけた。



 パシン!!



「も、申し訳御座いません!!」


「何故だ!? 何故お前は……!?」


「わ、わ、私にも……分かりません……」



 〝分からない〟この言葉が更なる怒りを買う。

 何でこの言葉がムカつくのか理由は分からない。煮えくり返る思いだ。いや、俺は傷ついたのか……? 嫉妬心? 強力な洗脳を受けてもまだ消えないアストへの思いに?


 複雑な感情を手の甲に乗せてもう一度こいつの頬を叩く。



「ぃ………………ゃ………………」


「はぁ……はぁはぁはぁ」



 興奮で息を切らしながら俺は、言葉にならない怒声を部屋からぶっ放し、幻術士を呼ぶのだった。

 


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