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第二十三話 共通点


「こちらが長老のタピ……」


「あぁゼクトリアース様! 確かに並々ならぬオーラを感じますじゃ」


「ごほん……。長老のタピア様です」



 ルーリアさんがまだ紹介し終えてないのに、この人も足下まで来て土下座で何度も拝むんだ……。

 それを皮切りに周りの人もみんな土下座して……うん、やっぱりそうだ。僕ってこう言うのが苦手なんだな。


 導師は偉大なる存在。前にフュリンから導師について色々と習ったあの日の事を思い出したんだ。


〝崇められて当然、石を投げられるような存在やないねん〟


 僕はたまたま選ばれただけであって、こんな風に拝まれる程、素晴らしい人間じゃない。


 どうしていいのか分からなくなって、頭が真っ白になってくるよ。流石にこれは……我慢できない。



「あの! や、やめて下さい! 普通に話しませんか?」


「ほ、本当に宜しいのですか? ワシらなんかが……」


「勿論です! でないと僕この村にいられないです!」



 そんなこんなでやっと、普通に会話が出来る状況が整った。タピアさんが宴の席を設けてくれて、村のみんなは勇者が来た、希望が見えたなんかで宴で盛り上がってる。

 

夜は昼間の暑さは何処へ行ったんだと思うぐらい、比較的涼しく過ごせたんだけど、ゼクトリアース様って引っ切り無しに僕の前に現れては、感謝の嵐。

 ただ魔物から助けただけだし、僕は放っておけなかっただけなんだ。


 と言う僕の話なんてほとんど聞いてない。名前も一回訂正したんだけど、〝ゼクトリアース〟で通ってしまってるし、もういいやって。

 

 仮にここが過去の人間界だったなら、何となく〝アスト〟でいるより、架空の人物でいた方が良い気もする。


 だからこのままゼクトリアースでいよう。


 周りで聞こえてた楽しく盛り上がる声や会話が徐々に消えていく。みんなお酒を飲み過ぎて外なのに、地面に転がって眠ってるんだけど鼾がそこら辺から狼煙の様に上がる。


 そんな中で僕と長老のタピアさんの会話は、この世界の闇や魔王についてゆっくりシフトしていった。


 僕の時代なら魔王と言えばザングレス。

 千年間ずっと君臨している魔界史上最強の魔族ってネファーリアやリラも言ってたけど、もし過去の時代にいるならどれぐらい過去にいるのか、一つの目安になるな。


 でも、タピアさんの口からは〝ザングレス〟と言う名前は出て来なかった。



「魔王ロズは恐ろしく凶悪な魔族だと聞いてますじゃ。ワシは見た事ありませんが……」


「魔王ロズ? ロズ……」



 聞いた事あるような……何処で聞いたんだ? 思い出せないけど。

 ただこれで分かった事は、ここが、ザングレスが魔王に君臨する前の時代、少なくとも千年以上前の人間界なのは確かだ。



「どうか! お願いしますじゃ! どうか……!」


 と、タピアさんから魔王ロズの討伐を頼まれる。

 話を聞くと、魔物が現れるようになったのはここ二十年ぐらいの事らしい。

 最近じゃないか。魔王ロズと名乗り、魔物と共に人間界に突然現れて人間の支配を企んでるそうだ。

 世界中の人々を苦しめ、捕まった者は奴隷として死ぬまで働かせるとか、食料として保存されるみたいな噂が各地で流れてるらしい。


 放っては置けない。かと言って僕がこれに関与していいのか?

 仮に魔王ロズを討伐してしまったら、歴史が変わってしまうんじゃないか?



「分かりました」



 一先ずここでは、分かったと答えておいた。

 直接関わらなくても、何か出来る事があるかも知れないしね。

 僕が知ってる人間界の歴史の中で、〝魔王ロズ〟と言う名前は聞いた事がないんだよな。

 でも何処かで聞いた名前だったような気もするんだよな……。まぁ、気のせいかも知れないけど。







 翌日朝早く、アレミナのみんなに見送られデルメシアを発った。

 勇者と言えばラムリース。よし、ラムリースだ。

 デルメシアからラムリースまで船などを使ったとしても、一ヶ月ぐらいかかってしまうんだけど、僕には次元術があるから大丈夫。


 次元術は空間と空間を繋いで一瞬で遠くの場所までワープする事が出来る一見便利な術なんだけど、何処へでも行ける訳じゃなくて、記憶に残ってる場所、簡単に言うと頭にその場所が思い描けなければワープする事は出来ないんだ。


 ラムリースは僕の故郷の国。時代は違うけど、問題なくワープする事が出来た。


 古くから勇者が誕生する地として語り継がれてて、もしかしたら魔王ロズはこの時代の勇者によって倒されるのかも知れない。そう思ったんだ。



「うわぁ……大草原じゃないか」



 僕の時代も草原が広がる気温も穏やかな地だったけど、この時代のラムリースはさらに広大な大草原となってた。

 街もない。お城らしきものも見当たらない。


 煙? 遠くの方の森の中から煙の柱が立っている。

 って事は村があるかも知れないと思って森の中に入って少し歩いて行くと、思った通り小さな村が見えて来たんだ。

 丁度村の中から入口に向かって来る男と目が合う。



「ん? あんた……旅人か?」


「あ、はい。煙が見えたので村があるのかと思って来ました」


「見たところ悪人じゃなさそうだし、戦士のようにも見えるが、あんた魔物と戦えるのか?」


「はい、戦えます。何か問題でもありましたか?」


「そうか! だったら助けて欲しい! この村の長、リース様の所まで案内しよう。ついてきてくれ」



 魔物に襲われてるなら力になってあげたい。

 僕はそのまま案内され、村の長のリースと言う人がいる訓練場を尋ねた。

 アレミナもそうだったけど、この時代の人間はまだ魔物と戦える人はいないんだろうな。いても少ないんだろう。

 最近出現したってタピアさんも言ってたしな。



「待たせたな旅人よ。私がリースだ」



 何人かの戦士達と訓練をしてたこの中で一番小柄な人が、僕に向かって挨拶をする。

 鉄の鎧や兜で身を纏ってるから分からなかったが、兜を脱いで顔を見たら女性だった。


 ただその表情には決して甘さはなく、修羅場を踏んで来たような、紛れもなく戦士だった。

 茶色い短髪、髪の長さにもそれは表れている。



「その……顔のアザ……」



 そう言うとリースさんは左頬に手を当てる。



「これは生まれつきなんだ」



 三日月の形をしたアザ。何だろ。

 見覚えがある……ような。

 魔王ロズ、リースと言う名前、それでこの三日月のアザ……。



「どうした? このアザがそんなに珍しいのか?」


「あ、いや……僕はアス……ゼクトリアース。魔物と戦える戦士を探してるような話を聞いたんだけど」


「そうだ。サイクロプスを討伐したい。力を貸してくれるか?」


「さ、サイクロプス!?」



 サイクロプスって実在したのか? そんな驚きもあったが、僕はもう一つの意味で驚いてしまったんだ。

 ついに共通点を見つけたんだよ。魔王ロズ、リースと言う名前、三日月のアザ、サイクロプス。


 そうなんだ。でも、じゃあもし本当にそうなんだとしたら

……本当だったんだ。



「ゼクトリアース物語はお伽話じゃなかったんだ!!」


「ゼクトリアース物語?」



 そう言いながら、リースさんは顔を顰めた。




お読みいただきありがとうございます。

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