第三話 英雄王 -Julius Side-
「くくく……ははは……あーはっはっは!」
シャドウとか言うふざけたゴミは消えて、俺の事を馬鹿にした女もアストと共に消えた。
ゼノス達の話し声を盗いたら、どうやら二度と戻って来れない遥か遠い次元の世界に飛んで行ったんだと。
くくく、お前達は最後の最後には俺の為になってくれたんだな。
何万体もいたシャドウを討伐、そしてラムリースを壊滅に追いやった偽りの勇者アストを次元の彼方に永久禁錮。
これらは全部俺の手柄として、上手く世界中に拡散する事が出来た。
俺は世界各国の王から、数々の恩賞を受ける事になった。
世界を救った者、世界最高の英雄に贈られる称号〝英雄王〟として世に認知された。
どの国に行っても〝英雄王ユリウス様〟だ。
すれ違う兵士達は俺に一礼し、一般人は俺に声援を飛ばす。実に快感、気持ちがいいぜ。
だがなアスト、お前の事だ、きっとまた必ずこの世界に戻ってくるだろう。
その時こそ、お前は最大の絶望を味わうんだぜ。
お前が導師であったとしても、もう救世主として崇められる事はない。
もう誰一人としてこの世界にお前の味方はいないんだよ。大罪人アストの居場所はないって事だ。
「ユリウス殿、こちらにいらっしゃったか」
俺は今エスハイム城、王室のバルコニーでワインを片手に眩しい太陽と、森の中で戯れる風の音を聴いていた。
そこへ部屋の扉が静かに開き、エスハイム王、いやもうすぐ前エスハイム王となるだろう、ヨシアが俺に声をかけて来た。
ヨシアは王位を手放し、俺に譲るそうだ。
各国から色んな恩賞を受けたが、自分の国の王位を譲る程大きいものはなかった。
エスハイムはシャドウとの戦いで大きな被害に遭い、そして俺が救った地でもあるし、ヨシアは真実の目を開かせてくれた恩人として俺に王位を譲る決断に至ったんだろう。
少し前なら憩いの時間を邪魔されれば苛立っていたに違いないが、そんな事もあり今の俺は実に気分が良い。「なんだ」と優しく返事を返す。
「時間ですぞ。民が貴方の言葉を待っております。さあユリウス殿」
「分かった」
ヨシアに導かれるまま俺は、民が待つエスハイム城中庭へと足を運ぶ。
王室を出て長い廊下を歩いて行くと、人々の声が聞こえて来る。
そうだ……これだ。俺はこの瞬間をずっと夢見ていた。
勇者の時よりも、ラムリースの最高司令官の時よりも、大きな人々の歓声、この熱さは信者と言っても過言じゃないだろう。
徐々にその歓声は大きく、まるで重力を持っているかのようにこの体に重くのしかかって来る。
俺の姿が見えると「ユリウス」と言う歓声はさらに大きくこの地を揺らした。
だが、俺が話を始めると何千と言う信者の声は一斉にピタッと静かになる。
「私はユリウス・ザルベック。偽りの勇者、古の救世主である導師だった者は、君達を、そして世界を闇に陥れようとした。伝説に謳われた存在は、希望などではなかったのだ」
こんな風に、真実なんていくらでも捻じ曲げられるんだよ。例えお前が本当に導師に覚醒していたとしても、その伝説の存在を今、俺は超えたんだ。
嘘もここまで完璧に作り上げればそれが真実になる。
英雄王ユリウスか……くっくっく。
「だが我が民よ、どうか絶望しないでくれ。私はここに誓う。魔族や狂乱者からこの世界を守ると」
俺の演説は比較的コンパクトに終わる。長々とここで話せばさらに信者どもも熱狂しただろうが、その必要がない程に手応えがあった。
もう二度と勇者や導師を信じないだろう。
ただ一つだけ気掛かりなのは、ゼノス達だ。
奴らはアストが導師だと分かった瞬間、手のひらを返しやがった。大罪人アストの仲間として今は世界中に指名手配が出され各国血眼になって捜索が続いている。
あいつらはアストから才能を与えられ、力じゃ到底取り押さえられないだろうが、それも時間の問題だ。
俺にはその力に対抗する秘策があるんだよ。
その為に俺は〝あそこ〟に行かなければならない。
ゼノス、クウォン、リミア、俺を裏切った罰は受けてもらうぞ。
そしてアスト。俺はお前を絶対に許さない。
お前のせいでセシルは死んだ。勇者や導師に覚醒し、圧倒的な力を得ていい気になっているだろうが、戻って来やがったらこの手で葬ってやる。
いや、その前に世界中の人間に殺されるだろうぜ。
お前が救おうとした民に、お前は殺されるんだ。
さあ、今度は俺の番だ。
ふふふ……くくく…………くくくくくく。




