第四十八話 出会いは突然に
ライミフォンは、バトルアリーナの中央から観客に向けてリラに起こった全てを打ち明けた。
リラティナスはヴェルグラと言う魔族の呪いによって暴走が引き起こされた事、その呪いは進行型で今も彼女を苦しめてると言う事、人間界に行けば呪いが解けるかも知れない事、そしてこの事実を隠していた自分自身の愚かさについてゆっくりと観客に向けて伝えた。
それはライミフォンが初めて見せた弱さだった。
戦獣族は弱肉強食の種族。種族の頂点に立つライミフォンが大勢の観客の前で〝すまなかった〟と頭を下げる。
観客はシーンと静まり返ってる。みんな驚いていたんだ。
何せこんなライミフォンを初めて見たんだからな。
ある者は、弱いライミフォンが王である事に失望したかも知れない。
だけど、ここにいる多くの魔族は寧ろライミフォンに声援を飛ばした。
我が子の為を思って取ったライミフォンの行動、本当に人間だった。
我が子の為なら地位や名誉やプライドを捨ててでも、助けたいと言うその思い。人間と何も違わないんだよ。
魔族も人も同じなんだ。
「アスト、今リラティナスさんを眠らせました」
ネファーリアに賢者の魔術【睡魔泡】で暴走したリラを眠らせてもらってたんだ。
「けれどもアスト、わたくしの魔力でも直ぐに術は解けると思います。移動するなら早い方がいいでしょう」
「うん、分かってる。すぐに連れて行こう!」
ライミフォンの口から「戦獣祭は中止」と言う事が伝えられる。その後の処理はホストが対応するとの事だ。
ホスト自らが後は任せてくれと。ライミフォンの生き様に感銘を受けたって。観客はザワザワしているが、ホストのあの高いテンションなら上手く場を沈めさせられるかも知れない。
僕達は直ぐに人間界へ通じるゲートへと向かう。
ライミフォンはリラを抱え、ゲートまで先導して案内してくれてるんだけど、どうやらゲートと言うのは何処でも開く事は出来ないらしい。
ライミフォンが言うには、ゲートは魔素の多い所でないと安定しないようで、同じ場所に繋がる事はないようだ。
だから僕達がシャドウを追って入ったゲートは片道で、更に言うとシャドウ自身もあの時は何処へ通じるか分かってない可能性がある。
そして、これから通るゲートも何処へ通じてるかは分からない。
ライミフォンが手を翳すと、黒い渦を巻いたゲートが形作られた。これだけを見てもあの赤いシャドウよりも魔力コントロールが高い事が分かる。
戦獣王ライミフォンと変異種であっても恐らく魔物にカテゴライズされるであろう赤いシャドウとを比べるなんてどうかと思うけど、ライミフォンクラスの魔族ならゲートを作る事なんて片手で足りるんだな。
ゆっくりとリラを地面に寝かせると、ライミフォンは後ろの僕の方を振り返った。
「アスト、キサマを信じていいのだな?」
「導師の名に懸けて」
お互いコクッと頷いて、僕達はゲートを潜ったのだった。
◆
-RainBell Side-
「くっふっふ。お嬢さん、不思議なオーラを放っているんですね。と、思ったらその黒い尻尾……見覚えがある」
このウサギ人間みたいなのが、ヴェルグラなのね。
あたし達を養分にしようとする最低最悪の魔族。
よくもセレスティア様の魔力を吸い取ったな〜!
「ほうほう、なるほど。貴方、あの幻竜と契約を結んだのですか。これはこれは想定外でした」
《レインベルよ。今のお主は竜騎士じゃ。妾の力がプラスされとるんじゃからのう。こんな三流魔族なんぞに負けはせんが、決して油断はするでない》
「分かりました!」
何だろう、前までのあたしだったら魔族が現れたら多少なりとも恐怖心があったんだけど今は全くないの。
不思議な感覚。早く戦ってみたい、ヴェルグラがどこまで強いのかを見極めたいと思ってる。これって竜族になったから……なのかな。
軽く飛び退いて距離を取る。そして腰の剣を引き抜く……
「あ! あたしの装備は奪われたままだった!」
「くっふっふ。私とやる気でしょうか? 言っときますが、私は色んな方の魔力をこの身にいただいてるんですがね、パワーだけでなく、能力も自分のものに出来るんですよ」
と、ヴェルグラがパッと消えたと思ったら飛び上がって一瞬で空中に移動したの。一瞬だけ見失ったけどこう言う時こその竜眼だよね。
「ドラゴンの力が使えるのは、貴方だけじゃないですよ」
《後ろじゃ!》
「くっ!」
「アルゥドサムヌスク」
振り返るとヴェルグラの体からドラゴンの幻影が現れ大きな燃え盛る爪で引き裂いてきた。
竜言語呪文!? そっか! セレスティア様の能力!
《レインベルよ。お主剣術に長けておるのかえ?》
「はい! 魔法剣士です! でも剣が……」
《なんとも奇遇じゃのう。妾も剣術が使えるのじゃ。魔力と剣技の合わせ技、それが魔法剣じゃな。同じく竜魂と剣技の合わせ技、竜紋剣じゃ。ならばお主なら使い熟せるやもしれん。お主とは成り行きで契約したが、相性が良さそうじゃな》
「竜紋剣……試してみたいです!」
《よし、今知識を解放してやる》
一瞬頭が痛くなったと思ったら、次の瞬間あたしは魔力を吹き出して、気がつくとヴェルグラへ突っ込んでた。
あたしの手には竜魂から生成した竜紋剣が握られてた。
無意識に歩くのと同じ感覚で、竜紋剣が握られヴェルグラの首を狙ってビュンと振り払う。
剣はあたしの薙ぎ払った動作が終わったと同時に光となって散っていった。
全く無駄な動作なんてない事に自分でも感動してしまった。
「す、凄い……」
《当たり前じゃ、なんと言っても妾の女王としての力がお主には備わったんじゃからな》
「ほう、今のは竜紋剣! まさかあんなものまで使い熟せるとは……これは遊んではいられません」
また素早く跳躍し、なんとヴェルグラも竜紋剣を手に握り思い切り振り下ろしてきた。
あいつも竜紋剣を!?
あたしはそれに竜紋剣で下段から刃を当てた。
ガキィィィィィィィィィィィィィン!!!
「ぐ……ぐぐぅ」
「ほうほう。良く磨かれてますよ、貴方の剣技」
「やあぁぁぁ!!」
鍔迫り合いから一気に押し込み、ヴェルグラを突き飛ばすと、魔力をフル放出して全身に力を溜める。
「今あたしが出来る最高の技!」
そう、思いついちゃったのよ!
あたしが思いついたのは、竜紋剣を使って魔法剣を放つと言う大技。
ヴェルグラはここで倒せるなら倒しておいた方がいいと思ってる。
それと今あたしがどれだけ強くなったのか、これで確かめられる。
「食らいなさいヴェルグラ!」
ヴェルグラに向かって走る。途中で素早く側面に移動して振り払った。
でも簡単に後ろに避けられてしまったんだけど、避ける事は想定してた事。
「メルティノスラアマ」
ドラゴンの幻影が、その口から吹雪をバァーッと吐いた。
「くっふっふ。当たりませんよ」
そう、それよ! それを待ってたのよヴェルグラ!
「捉えた! 初披露いくよー! 名付けて! 竜紋聖炎斬!!」
竜魂から生成した竜紋剣を使って放つ魔法剣よ。
太陽から抽出した聖なる炎の魔力を纏った竜紋剣で、十文字に斬りつける剣技。
流石のヴェルグラも、これは読めなかったみたいね。
「ぐはぁぁー!! な、なんだぁー今の技は!?」
《うむ、レインベル。中々のセンスじゃよ》
ヴェルグラはまるで翼を失った鳥のように空中から落下し地面にぶつかって倒れた。
「言っとくけど、あたし、まだまだこんなもんじゃないから♪」
「く……ぐぐぅ。幻竜が……まさか人間などにその身を捧げるとは……これは誤算でした」
よし! 良い感じ! しかもあたしまだまだ余裕があるし、ヴェルグラがどれだけ本気を隠してるか分からないけど、楽勝ね!
でも油断はしない。すぐにこのまま決着をつける!
「覚悟しなさい!」
あたしがまだ起き上がれないヴェルグラに向かって走って行ってる時、あたしとヴェルグラとの間の空間が歪み、黒い渦が現れた。
《この渦は……ゲートじゃな》
「ゲート?」
ヴェルグラが何かした……? いや、見る限り何もやってなさそう。じゃあ……誰が? そもそもゲートって……と、あたしが考えようとした瞬間に、渦の中から誰かが飛び出してきた。
「ここは……何処だ」
「人間界の何処かだと思いますが……」
二本のツノに黒い四枚の翼と、蛇の尻尾が生えた魔族だった。
そしてもう一人は魔族を抱きかかえた……え!?
「あ、アストさん!?」
「え? あ、あぁそうだけど。君は……魔族?」
「あ……アスト、わたくしやリラティナスさん以外でお知り合いの魔族がいらっしゃったのですか……」
「い、いや……誰かに似てる気もするんだけど……」
「あ! そっか! あたしもう人間じゃなかったんだ……。アストさん、レインベルです! レインベル・クルセウムです! 魔法剣士を目指してたレインベルです!」
「え!? レインベル!? オピュリス村の?」
「そ、そんなに感じ変わりました……? ま、まあ尻尾は生えましたけど」
「う、うん……面影はあるけど、凄く大人っぽくなったと言うか」
「あたし……竜騎士になっちゃいました! ……ははは」
第四十九話は8月27日8時を予定しております。
※誤字報告いただいた方、この場を借りてお伝えさせていただきます。ご報告いただきありがとうございます。