第四十七話 呪い
《ら、ライミフォン!? 父ちゃんが、リラを暴走させてたって事!?》
リラが暴走した原因は、戦獣王ライミフォンだった。
バトルアリーナの会場端にある階段から、異様な魔力と共に姿を現したんだ。これまで感じた事のない魔力を放ってリラへと送ってる。止めさせないと!
「暴走させていたのは貴方だったのか! ライミフォン!」
「俺の〝感知結界〟を察知し侵入して来れたと言う事は、オマエは相当なレベルの手練れだと言う事だ。まさかここまでの実力を持っていたなんてな」
感知結界……なるほど。他の魔族達が気がつかないのは、結界で魔力を感知出来ないようにしてあると言う事か。
それもリラに送ってる一部の特殊な魔力のみ遮断させる事も出来る。
だから皆、リラが突然おかしくなって暴走したように見えてしまっていたんだな。
でも、分からない。この戦獣祭のイベントでどうしてリラを暴走させる必要があったんだ? 毎回同じタイミングの決勝戦で暴走するってリラは言ってた。
ライミフォンは僕に気づかれてるのに、今もまだリラに送り続けていた。
「何でこんな事を!? 貴方の娘さんは苦しんでますよ!」
「口を挟むな。これは俺達親子の問題なのだ」
親子の問題? 何か問題があるのかも知れないけど、リラは今苦しんでるんだ。
「納得出来ません! 何の問題があるのか僕は知らない。でも今リラは苦しんでるんです。貴方はリラの気持ちを知ってますか?」
「…………」
「大勢の前で毎回暴走して見境なく誰彼構わず攻撃して、それで仲間が亡くなった事もあったそうですよ。貴方はその時もずっとこうやって見ていただけだったんですよね」
「黙れ。部外者の分際で好き勝手言いやがるな。何も知らないくせに」
「ええ、何も知りませんよ。だから教えて下さい。どうしてこんな事を……?」
「…………」
僕がそう言うと、ライミフォンは黙り込んでしまう。
問題があるなら知りたい。闇を抱えてそうな雰囲気は確かに感じたし、リラの行動の全てがそこに起因するなら解決しないと。
僕は導師だ。人々に希望を与えて導く存在。その対象が例え魔族であろうが何だろうが、関わったなら絶対に見捨てはしない。
「我が娘、リラティナスは……」
そう言ってライミフォンは口を閉じる。
表情からも分かるよ。口に出すのを躊躇ってる。恐らくリラに何らかの問題があるんだろう。
でも、貴方がやってる事は解決にはなっていない。リラも、そして貴方もずっと苦しんでるんだ。
この間もリラは僕の聖騎士と戦っている。
凶暴化し、とてつもない力で圧倒している。聖騎士を召喚しているだけでも僕の魔力は減っていくのに、ダメージを受ける度に魔力が削られていくんだ。とてつもなく重いダメージだ。
「ライミフォン! 時間がない! 何か問題があるなら教えてほしい!」
「……あいつは、呪いがかけられているんだ。その呪いによってもうすぐ死ぬ」
「呪い?」
僕は分析士でリラを探ってみたんだ。でもライミフォンが放つ魔力が邪魔をして深く探れない。
術を解いてくれと頼んでも、それは出来ないとの一点張り。
彼の表情はとても重く、凄く話す事を躊躇ってるのが読み取れる。
戦獣族は戦闘民族。強い者が頂点に君臨すると言う弱肉強食の思想。
相手に弱みを見せる事を良しとしないんだろうな。
だけど、リラを救いたいんだったら話して欲しい。
「……俺達は戦獣族の中でも特に優れた一族シルバービーストだ。戦闘力と言う意味なら、シルバービーストは魔王ザングレスの次に位置づけられるぐらい力を持った種族なのだ。故に多くの魔族から狙われた」
上にいる者の宿命と、ライミフォンは言った。
人間にも言えるかも知れないな。支持する人もいるけど、そうじゃない人も必ずいてる。
人によったら蹴落としたり、汚い手を使う者もいる。
シルバービースト、ライミフォン達の一族は戦獣族の中でも特に飛び抜けた才能を持った家系だったんだな。
そして、多くの魔族から狙われた。
なるほど……今の話からするとその呪いは〝他の魔族にかけられた〟こう推測出来る。
僕はライミフォンに話してみた。
「流石だな。それも導師の力と言う訳か」
僕の聖騎士と戦うリラの姿を目に映しながら、また暫く沈黙した後、ゆっくりと口を開く。
「リラティナスが幼き頃に、ある魔族によって呪いがかけられた。それは魔力を使うと寿命も一緒に削れてしまうと言うものだった。だが、この呪いは進行型で時が経つ毎に新たな効果が追加されていく事を知ったのだ」
「そうか……リラが魔力を使えなかったのは貴方が封印していたのか。ただでさえ、命を奪うと言う危険な呪いなのに更に効果が追加される呪いだなんて」
聞いた事のない種類の呪いだな。
ライミフォンが言うには、魔力、そして次はセティスに呪いの影響が出てると言った。つまり精神だな。
リラのあの性格は、精神が不安定な状態になるのを防ぐ為の防衛本能だったんだ。
「あの呪いはリラティナスが生き続けると、どんどん新しい呪いが付与され続けるものなのだ。オマエにも見せた通り戦獣族は人型とビースト型と二つの形態を持っている。ビースト型にも呪いの影響が出てしまったのだ」
「あの暴走の事だな……」
「俺は……暴走を抑える為に暴走させているのだ」
「え?」
暴走を抑える為に暴走させてる? それってある程度暴走させないとリラの体や精神がもたないから敢えて暴走させてるって事だろうか。
そうか、だからリラはビースト化の一歩手前の状態のままになってるんだ。
「……あの暴走は決まって戦獣祭の決勝のタイミングで起こるのだ。奴は戦獣祭と言う我が種族の一大イベントをぶち壊したいのだろう。俺と言うより種族そのものがターゲットなのだ」
「ライミフォン、それでその魔族は今何処に? 倒せばリラの呪いが解けるかも知れない」
「奴は……ヴェルグラは殺した。俺がこの手で粉々にしたが、この有様だ。呪いは解けないばかりかどんどんと進行して行ってるのだ」
術者が死んでも呪いは解けない? そんな呪いは聞いた事がなかった。大抵は術者が死ぬと解けるんだけどな。
と、色々考えてく内に一つ頭に思い浮かんだ事があった。
「ライミフォン、リラはこの領域から出た事はあるんですか?」
「いや、一度もない。何か分かったのか?」
リラはこの領域を出た事がない。なら、試してみる価値ありかも知れない。
「もしかしたらこの呪いは、領域そのものにかけられてる可能性があると思います」
「領域そのものに?」
「リラを人間界に連れて行きましょう! この領域から離れるんです! もしかしたらそれで呪いが解けるかも!」
僕の言葉を聞いたライミフォンの表情が若干緩む。
助かるかも知れないと言う希望が彼の心に根付いたのが分かった。
第四十八話は本日20時を予定しております。




