第四十三話 作戦会議 -Liebert Slde-
「父上は一体何をお考えなのか! よりにもよって魔族をこの城に迎えるなど! こんな事を五十年も……」
私は、リーベルト・ディア・ラムリース。
ラムリースの王子、アーキノフの息子である。
私は今作戦会議室に向かっている。新しく最高司令官に任命されたユリウス殿、そして魔王ザングレスを倒した勇者パーティーの皆さんも同席なさるとの事。
魔王を倒したと言っても偽物であるが……。
偽りの勇者を捕獲する作戦を立てる為、何故か私も呼ばれた。
父上にこの作戦に参加しろと言う命令が下ったが……正直気乗りはしなかった。私はあの日から父上に壁を作ってしまったのだ。
父上の秘密を知ってしまった。
城の地下に本物の魔王ザングレスがいる事など人々はまだ知らずに暮らしているのだ。
人魔大戦から五十年の月日が流れ、ラムリースは魔力を扱える人間が爆発的に増えた。
それは強い戦士が多く生まれる事を意味する。
我が国は世界で一番強い国、勇者を生む国として世界に認識させた。
これも全部、ザングレスから吸い取った魔力のおかげなのだ。
ところで、彼らとは今日が初の顔合わせとなる。
会議室の扉前で立ち止まると、人の話し声が耳に入った。
「あのクソ女め! 最高司令官であるこの俺に汚い唾を吐きやがって! 早く養分になればいいんだよ!」
「アーキノフ様も冷酷なお方ですよねぇ。まさか死刑を宣告なさるとは」
死刑……? 何の事を言っているのだ?
扉を開け、私は彼らに問いかけてみた。
「私がリーベルトだ。すまない、ここに入る途中で耳に入ってきた。誰が死刑になるのだ? 父上は誰を裁こうとしているのだ?」
「あんたがリーベルト王子だな? 親父とは似ても似つかんな。あの冷たい殺気は王子には引き継がれなかったな。俺が最高司令官の任命を受けたユリウスだ。こいつらは俺の補佐官」
「あ、あぁ……よろしく頼む」
何だ……このユリウス殿の高圧的なまでの態度は。
初対面であり、仮にも私はこの国の王子だぞ。
別にひれ伏せなどとは思っていないのだ。この者の相手を見下した態度が気になったのだ。
まあ……とは言え、最高司令官に就く程優秀なのであろう。
「それで、先程の死刑とは何なのだ?」
「王子、今日ここに集まったのはアスト・ローランをどうやって捕獲するのかの作戦を立てる話し合いだ。他の話をするつもりはない」
「わ、分かった。私は王子の身分ではあるが貴殿の下につくように言われている。遠慮なく進行してくれ」
「ああ。分かってる」
「…………そうか」
アスト・ローラン捕獲の今回の作戦について、私は疑問に思う事があった。
偽りの勇者として追放を受け処罰されたにも関わらず、捕獲して再び連れ戻して来いと言う父上の意図が分からないのだ。
恐らく何か悪事を企んでいるとは思うが、この事をここで伝えてもユリウス殿は父上の息がかかっている可能性が極めて高い。
ならば少し動向を見るか。
「情報によるとアストは隣国のエスハイム領で目撃されている。まずはエスハイム全土に偽りの勇者である事、勇者パーティーの能力を奪い取り、無力にした事、なんでもいいから信用をガタガタにさせる必要がある」
「でもよユリウス」
クウォン殿が割って入ってきた。
「アストは導師の力を持ってる事は、確定しちまったんだ。
もし、エスハイムにアストが導師である事が既に広まった状態だったら、俺達がいくら広めたところで誰も信じねぇんじゃねぇか?」
「確かにクウォンの言う通りだ。導師とは数万年に一度現れるかどうかの奇跡の存在。救世主なのだからな」
「いえ、まだ広まってはいないでしょうねぇ」
「何で分かるんだよヴァール」
「もし、アストが導師である事が広まっていたんだとしたなら、ラムリースにも噂が流れてくると思うんです。だけど今のところ」
「そんな噂は聞こえて来ねぇ! つまり」
「エスハイムの人間はアストが導師だと知らないと言う訳か」
この者達は一体何を話しているのだ。
アスト・ローランは大罪人ではなかったのか?
導師? アスト・ローランは伝説の導師なのか?
ならば何故、追放したのだ? 捕獲する理由は?
むぅ……何が何なのか、頭が混乱して来たぞ。
私は黙っておいた方がよさそうだ。この者達も父上の悪事に加担するようならば、見極める必要があるのだ。
それで、と私は切り出す。
「私は何をすればいいのだ? 戦闘は経験ないので役に立つ事は出来ないが……」
「俺がまた指示を出す。王子は余計な事は考えずにただ俺の言う通りに動いてくれればいい。その約束だけ守ってくれ」
「分かった。約束は守ろう」
とにかくエスハイムに行って状況を確認すると結論が出た。私達はエスハイムに向かう事になったのだった。
◆
エスハイムのトリークと言う街までやって来た。
大きな街という意味ではラムリース領からエスハイム領に入って一番近い大きな街、それがトリークである。
どんな街なのか噂などでしか知らなかった事が今、自分の目で確かめられる。そう思うと心が弾んでしまう。
城から一歩も外に出た事がなかった私にとって、今回の旅はとてつもなく刺激になる旅であった。
道中で何戦か魔物に遭遇したが、周りの騎士達が全て対応してくれる。私は愚かユリウス殿達も全く手を出さずにやり過ごせている事は、ラムリース騎士団がそれ程強いという事。
とても頼もしい。
ラムリースが勇者の国だとするなれば、エスハイムはギルドの国と言えよう。ギルド発祥の地であるし、ここから全世界に広がって行ったのは一つの革命だった。
勿論トリークにもギルドがあり、戦士達が賑やかに街を歩いているのかと思ったら、私が想像していた風景はそこにはなかったのだ。
とても静かだった。街人も余り見かけなかった。
だから余計に目に入ったのだろうな。ギルドハウスの前で仁王立ちに立ってる大男が目に入ったのだ。
街の様子も何処か普通じゃなくおかしいし、あの男に聞いてみよう。
すると向こうの方から近づき声をかけて来た。
「俺はここのギルドのギルド長、ビーゲルだ。あんたらは、ラムリースの人間だな? エスハイムに何の用だ?」
「わた……」
私が代表者として前に行こうとすると、ユリウスがサッと前に出て話し出した。
「俺はラムリース王国最高司令官のユリウス・ザルベックだ。
ラムリース王国は現在、失踪した大罪人を追っているんだがエスハイムに逃げ込んだとの情報が入り、こうしてやって来た。
アスト・ローランと言う名に聞き覚えはないか?」
「アスト? あぁ知ってるぜ。綺麗な姉ちゃんと一緒に、今は俺達の作戦に協力してもらってるぜ」
「作戦?」
「エスハイムは今各地でシャドウって言う化け物の被害に遭っててよ、シャドウ退治に力を貸してもらってんだ」
シャドウ? なんだそのシャドウと言うのは。
その辺に出現する魔物よりも強大な力を持った魔物なのか?
だがユリウス殿には関心がないようだ。エスハイムがどうなろうが自分の任務を遂行する事しか目に入っていないらしい。
「ビーゲルよ、アスト・ローランは我が国で大きな罪を犯した。偽りの勇者として民を騙し、そこにいるゼノスを始めとする仲間に呪いをかけ、無能にしてしまった悪魔だ」
「なにぃ? アストが……。とても信じられねえ話だが、こうして最高司令官殿自らがここに来る程の大事なら、信じるしかねえな」
「極めて凶悪な犯罪者だ。我々は奴を捕獲したい。協力してくれれば我が王から褒美が出るやも知れんぞ。俺の言葉はラムリース国王アーキノフ様のお言葉と知れ」
褒美? 父上はユリウス殿にどこまでの権限をお与えになったのだ。
そうまでしてアスト・ローランを捕獲したい理由は?
「それで、俺はどうすればいい?」
「ビーゲルよ、お前はエスハイム城へ向かい、出来る限りの騎士を集めよ。そしてアストが戻って来るのを待ち、拘束してもらいたい」
「分かった」
私は、もしかしたら大きな陰謀の流れの中に立っているのかも知れない。
第四十四話は8月25日朝8時を予定しております。
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