第八話 創造と始まり
「女神さんはさっき、始まりの女神って言ってたよな?始まりの女神ってのは、なんの神なんだ?」
「そうね、どう言えばいいのかしら。この世界を〝創った″訳じゃなくて、〝始めた″のよ。勿論、創造にも関与はしているのだけど」
「その、創ると始めるの違いは何なんだ?世界を創るってのも想像出来ないが、世界が始まるってのもよく分からないんだが」
「世界を創るって言うのは、簡単に言うなら設定する事かしら。空間、時間、法則、物質。必要なものと不要なものと、決めていくのよ。世界の広さはどれ位か、時間の流れは一定か、物理法則の値、元素の数。勿論他にも色々あるけど」
「な、なるほど」
授業中は居眠りばかりの元だ。
物理だ元素だ言われても正直よく分からない。
「もっと分かりやすく言うなら、ルールを決めたのよ。ゲームにはルールが必要でしょ。道具を使うのか、場所はどうするのか、勝敗の決め方。それが世界の創造」
「なんとなくだが、分かった」
サッカーに当てはめて考えてみよう。
サッカーが世界。
サッカーをサッカー足らしめているのがルールだ。
ボールを使う、キーパー以外手は使わない。ゴールにボールを入れる。
点数の多い方が勝利。
他にも細々としたルールがあるが、そのルールがあるからサッカーは成り立っている。
バスケットボールや野球のルールがサッカーと違うように、世界によって違いがあるようだ。
地球のある世界には魔法もスキルもステータスも無いように。
「じゃあ始めるってのは?」
「そのままの意味よ。他の神と創ったこの世界を、動かしたのが私。創っただけで動かさなければ、世界は停まったままだもの」
「世界なんて規模が大きくてピンとこないが、機械のスイッチを押すとか、そんな感じか?」
「そう考えていいと思うわ。人ができる事じゃ無いから、詳細を理解する必要も無いだろうし」
スイッチ押したら世界が始まる。
実際にはそんな簡単なものでは無いだろうが、世界を始めるにもきっかけがあるらしい。
そのスイッチを押したのが、アクリミナ。
元の頭の中では、外食チェーン店によくある食券のボタンを押したがる子供や、バスの『おります』ボタンを押したがる子供の姿とアクリミナが重なっていた。
世界を始めるスイッチを押したがるアクリミナ。
想像して元は口元をにやけさせてしまう。
「…なに?ニヤニヤして…」
「いや、なんでもない。気にしないでくれ」
「?」
訝しげな顔をしているアクリミナだが、元は自分の想像を説明するわけにはいかない。
不機嫌になられては、元にとっていい事などないのだ。
相手は自称とはいえ神だ。
世界を創造したり始めたり出来る相手に、人間である元が抵抗できる可能性は低い。
危害を加えようと思われたら、逃げられないだろう。
元は下らない想像をやめて、他のことを考える。
始まりの女神については分かった。
完璧に理解したわけではないが、それはアクリミナの言う通り必要ないだろう。
なんとなくでいいのだ。
だがそうなると、アクリミナの能力とは何だ?
世界を始めて、世界に干渉できる。
創造にも関与していたみたいだ。
世界の創り方なんて想像も出来ないが、関与していたアクリミナは当然知っているだろう。
創る事ができるから、干渉する事が出来るのだろう。
世界への干渉。
「…あ」
元はあることを思いつく。
クラスメイト達に意趣返しができ、勝手に異世界に呼び寄せた魔術師達への嫌がらせ。
自分にとって都合が良く、何より、アクリミナの力がなければ叶えられない事。
暫く自分の考えを検証した後、元はこれしかないと思った。
後は[申請用紙]が受理してくれるか、それだけだ。