第六話 不満
「マジか…」
元は自身のステータスに表示されているlvを見てそう呟く。
何度見てもlvは1。
十七年間それなりに生きてきた元のlvは、この世界では最低lvらしい。
これでlvは百から始まり、一に近づくほど強くなると言うなら嬉しいが、筋力の横にある数字までが少ない数ほど強いとは考えられない。
筋力の横に16という数字がある以上、これから上がっていくのだろう。
lvの低さを見て、元はこれまでの祖父の教えや自分の努力を否定された気分になっていた。
まるでこの世界では、お前の力は通じないとでも言われているかのようで。
端的にいうと不快だった。
「驚いたり不機嫌になったり忙しいわね。何か気に入らない事でもあった?」
アクリミナは何が気に食わないのか解らないといった顔で元に聞く。
「lvが1になってるんだけど…」
やはり元はやや不機嫌な声音でアクリミナに伝える。
「うん…?あぁ、そういう事ね。召喚された対象は人でも動物でも、始めはlv1からになるのよ。表示されている数字はこの世界でのlv1の平均値だし、lvが上がれば本来の数値に準じてくるわ。年齢相応のlvになった時は、同世代のステータスとは桁違いだと思うわよ?」
アクリミナが言うには、召喚された者は年齢に応じた平均lvまではすぐに上がるらしい。
通常の人が経験する事を濃縮してこの世界での経験が上乗せされていく事で、クルセリアで生まれ育った人たちよりも遥かに強くなるらしい。
lvが上がるには通常一年程掛かるらしく、当たり前だが普通の人々は日々の生活の中で訓練や戦闘などはしない。
子供も大人も日々の生活の中で遊んだり仕事をしたりなどで経験を積んでいく。
勉強も人間関係も経験になる。
ただ、lvの低い子供の頃から何かに打ち込んでいる人は少ない。
貴族や王族、大店の経営者の子供などがその機会に恵まれている程度だ。
その点、召喚された者は赤児と同じlv1にも関わらず、戦闘ができる体格の者が多い。
戦闘訓練でもlvは上がるが、魔物との戦闘が一番効率よくlvを上げることができる。
そのlv上げをlv1からできるのは召喚された者だけだと言う。
結果、一振りで魔物を倒しlvが上がっても、一年間戦闘経験を積んだような数値の上がり方をするらしい。
そんな話を聞いても元の顔は浮かないままだ。
結局lvに関してはクラスメイト達と同じ条件で、自分だけスキルがない。
自分の磨いてきた技術が無くなった訳では無いようだが、それが反映されてはいないステータス。
短時間で強くなるらしい召喚者特典は、努力を馬鹿にしているようにも感じる。
そもそもスキルとは技術の事で、技術とは日々の研鑽によって身に付ける物だと思っている。
勿論、個人の才能の差で技術を身に付けるまでに掛かる時間や、精度の高さに違いは出るだろう。
それは人間ならばしょうがない事だ。
しかし、何もしなければ身に付かないのが技術という物だと思う。
まぁスキルに関しては、自分が貰えなかったからただ悔しくてもっともらしい事を思っていると元は自覚してはいたが。
ただこの世界の在り方が、今までの自分を否定しているようで。
ただただ元は思う。
「気に食わないな…」
気に食わない。
ステータスとスキルは、元にとっては面白くない物だった。
魔法に関しては見たことがないからなんとも言えないが、ステータスやスキルの様な不快感は無いだろう。
与えられた技術。
前の世界の自分を無かったことにされ、数値化された個人情報。
チラリとアクリミナを見て元は考え続ける。
そもそも、強くなるとか戦闘とか言ってる時点で、戦う事は決定事項らしい。
今更思った事ではあるが、現状を把握するにつれて冷静に頭が働く様になってきた。
もともと元の頭は出来がいい訳では無いが、祖父からの教えに「戦場で冷静さを欠いたら死ぬ」と言うのがある。
ただの高校生が戦場に縁があるかは置いておいて、今は冷静になるべきだろう。