第四十三話 適性検査①
メリアに促されて適性検査室に入った三人は、キョロキョロと室内を見渡した。
部屋の中は学校の教室程の広さをしている。
床から一メートル位の高さまで伸びた細長い台座の上に載った水晶玉の様なものや、壁に掛けられている様々なロープ。
頑丈に作られているであろう無骨な机の上には、石板の様なものが乱雑に積まれ、壁に備え付けられている棚の中には薬品が入っているのか、大小様々な瓶が並べられていた。
「準備は出来ているか? 」
グリーが室内にいた男に話しかけている。
三十代位に見えるくたびれた白衣を着ている男性。
栗色のボサボサな髪の毛は癖っ毛なのか、まとまりなくあらゆる方向に跳ねていて、出来の悪い鳥の巣の様だ。
やる気のなさそうな濃い青色のタレ目に眼鏡をかけ、細面な顎には無精髭。
右手でボリボリと頭を掻きながら、ダルそうな声でグリーに相対している。
「あー、出来てんぞ。成人後に適性検査すんなんて珍しいな。余所者なんだっけ? 」
特に悪気もなく余所者と言った男は、元達三人に視線を向ける。
「訳ありでな。彼らは幼い頃から旅芸人に所属していたので、自分達の魔法適性を知らないのだ。魔力量の多さに将来性を感じてな、この国に引き取ったのだ」
「ふーん。一介の検査員にゃ、一目で魔力量なんざ判らんからピンと来ねーけどな。ま、お前さんが言うならそうなんだろーな。三大公家が養子にするぐれーだし」
そう言ってチラリ、とゲニアとメリアに視線を向ける。
「げ。なんで先生が来てんの」
男はゲニアを視界に収めると、眉を顰めて嫌そうな声を出す。
「おいグリー。なんで先生が居んだよ」
「… 初めての孫娘の事が気になるらしい」
「孫娘って… 。養子だろ?」
「チェレサ家の直系はみんな男子だ。養子とはいえ可愛いんじゃないか? 」
「そんなもんかねぇ」
グリーと男が顔を付き合わせて、こそこそと小声で囁き合う。
そんな二人をギロリと睨みながら、ゲニアが口を開く。
「聞こえておるぞ、ランドル。話とらんで、さっさと用意せんか」
年老いて公爵家当主を辞したとはいえ、未だ精強な雰囲気を纏っているゲニアに睨まれたランドルと呼ばれた鳥の巣頭の男は、バツの悪そうな顔を浮かべながら適性検査の準備に取り掛かった。
「うへー。相変わらずおっかねぇなぁ。そんなに生き急いでるとすぐにお迎え来ちまいますよ」
大公家の前当主に対して、特に気負う事もなくぼやくランドル。
立憲国であるガウニアだが、未だに封建主義的思想が根強い。
階級制度が表向きはほぼ撤廃され、爵位に関しても役職として与えられているに過ぎない。
しかしブルガ王国から独立宣言をして三十年、染み付いた選民思想は未だに取り払われる事はなかった。
法のもとに国民は皆平等である。
そんな国を目指して建国されたガウニア立憲公国は、未だ発展途上の只中だ。
爵位持ちと平民との間には、平等という言葉は音としての認識しか存在していない。
まして、大公家は最高爵位。
大公家前当主に対しての言葉使いとしては、不敬と取られてもおかしくはなかった。
しかしランドルもゲニアも、言葉使いに対して特に気にした雰囲気は持ち合わせていなかった。
三大公家はこの国を真の平等主義にしたいと思い、国の運営に尽力している。
そう言った意味では、ゲニアはランドルの言葉使いに思うところはない。
独立戦争の初期、ゲニアは戦争を先導した大公家の当主の一人であった。
大公家に対して、変に畏まった言葉使いをしない事にこそ、好感を持っている。
ランドルは生まれも育ちも正真正銘、平民である。
今の役職も魔法省の一職員だ。
大公家前当主と一般職員と考えると、表向きに平等を謳っているこの国にしても少々、言葉使いは気安い。
ランドルがゲニアを『先生』と言っていたことから、只の大公家前当主と一般職員の関係ではない事が伺える。
「ほんじゃま、先ずは属性確認してこうかね。そこの水晶玉の上に手を置いてくれ」
台座に置かれた水晶玉を指差しながら、ランドルが三人にしじをだす。
三人は素直にその指示に従って、順番に水晶玉の上に手を置いていく。
三人が水晶玉の上に手を置くと、三人の水晶が別々の反応を示す。
元の水晶玉は内側に小さな光の玉がいくつか現れ、くるくると水晶玉の中を回っている。
柏木の水晶玉には中心に石のような物が現れ、荒岩の水晶玉は全体が光っている。
「んーと、メクリミア家が精霊。サウマーレ家が物質で、チェレサ家が現象か」
ランドルが手に持ったクリップボードに挟まれた紙をペラペラと捲りながら、それぞれの魔法適性を書き込んでいく。
元が精霊魔法、柏木が物質魔法、荒岩には現象魔法の適性が現れたようだ。
見事にバラバラである。
「綺麗にバラけたな。えーと、じゃあサウマーレ家のユウ。物質から調べるか」
そう言ってランドルは棚に並んだ薬品瓶から一つを選び、ガラスでできたビーカーの様な入れ物に中身を注いでいく。
少し青みを帯びた液体に満たされたビーカーを机の上に置くと、薬品棚から別の瓶を持ってくる。
中身は液体ではなく粉状で、専用の匙で一掬い液体に投入する。
「魔力操作の基礎は知ってるよな? その液体に対して魔力を注いでくれ」
ランドルの言葉に頷いた柏木は、ビーカーの上に手をかざした。
元達三人は意別の間において、シャレから魔法についての講義を受けていた。
その中には魔力操作の基礎も含まれており、拙いながらも元と柏木は魔力の放出ができる様になっていた。
荒岩は元々魔女の家系であり、魔力操作自体が教わる前から出来ていたので、二人に教える側に回っていた。
柏木は苦心しながらも、ゆっくりと液体に対して魔力を注いでいく。
液体の底に沈殿していた粉状の物が液体の中で回転しだし、淡く光りながら中心に向かって凝縮していく。
やがて光りが収まると、小指の先程の青黒い硬質な塊が液体の底に転がった。
「お、なんか出来た」
自分の魔力で出来上がった物質を眺めて柏木が呟く。
一見すると青味が掛った鉄の様に見える。
ランドルが何の躊躇いもなく液体の底に転がっている塊を指でつまみあげた。
「んー、鉄じゃ無さそうだな。組成分析に掛けてみないと断定はできないけど、アダマンタイトか?珍しいな」
ランドルは指で摘んだ小さな塊を繁々と見つめる。
ゲームや小説でよく聞く、想像上の金属であるアダマンタイト。
この世界では実際に存在している金属である様だ。
「お、なんか珍しいの?すげー希少とか? 」
柏木がランドルへと顔を向ける。
珍しいとの言葉に、特別な金属を生み出す力を期待しているかの様だ。
思春期真っ只中の十七歳である。
何か自分だけの特別な能力への憧れの様なものがあるのかもしれない。
もっとも、柏木には超能力という魔法が存在するこの世界でも希少な力がある。
特別な力ということなら、すでに持っている。
新たに手に入れた魔法という能力への期待感からなのか、生まれた時から持っている超能力は身近すぎて特別視できていないのか。
柏木の目の輝きからは、好奇心しか読み取れないので、特に何も考えていないだけだろう。
「そうだなー。希少っちゃ希少かな? アダマンタイト適正ってあんまり聞かねーし。その割には需要が高いからな」
ランドルの説明によれば、アダマンタイトは武器、防具、魔道具や魔導具、魔工生産品などに使われるらしい。
魔力との親和性が高く、魔力伝達率が高い様だ。
魔力の伝達率は高いが魔素への変換率には抵抗値が高い。
魔力を通す金属としてはとても安定していて、生産系職業者には人気の金属なのだ。
「アダマンタイトであれば、金に困ることはねーだろうな」
カカカと笑いながらランドルはシャーレにその塊と、組成検査行きと書いた紙片を入れた。
「じゃ、グリー頼んだ。鑑定部に持ってってくれ」
そのままシャーレをグリーに押し付ける。
グリーは不満気に眉を寄せるが、小さく溜息を吐いて「…わかった」と言い検査室を出ていく。
元はランドルに顎で使われているグリーを珍しく思い、部屋を出ていくグリーの背中を見ていたが、ランドルの「そんじゃ次いってみよー」という言葉に顔をランドルに向けた。
毎回更新が遅くて申し訳ないです
お付き合いしていただいてる方には感謝を




