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チートスキルは無効です  作者: アルマカン
第一章 異世界クルセリア
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第三十四話 秘術

 

「役に立たないって。お祓い出来るってすげーじゃん。テレルの町でも荒木がやったんだろ? 」


 柏木が元の発言に対して疑問を投げかける。

 普通の人間には無い力を持っている人物の発言とは、思えなかったようだ。


「言い方を変えると、役に立てる場面が少ないって事だ。海を渡る前に起きた事件は、霊的な現象だったからな。言って見れば得意分野だ。魔法の影響なのか、こっちでは珍しく無いようだけど」

「だったら十分、役に立つじゃん」

「それなんだがな。この国に移動が決まってから考えてたんだ。戦争してる国だろ?まぁこの町にいるとそんな感じしないけど。戦争って事は人が相手だ。俺の力は生きてる奴に対して、使える物が少ない。当たり前だが、人殺しなんてした事無いしな。いきなり戦地に行けって言われる事はないと思いたいけど、行ったところで一般人とそこまで変わらないと思うんだよ。うちの爺さんは道場やっててさ、格闘技は教わってたから二人よりは戦えると思ってたけど、さっき二人の話聞いて思ったんだ。俺が一番役立たずだ、てな」


 元は肩をすくめながらそう二人に話す。


「か、格闘技が、出来るなら、私よりは、強いんじゃ… 」

「そうそう、殴る蹴るとか、投げるとか出来んだろ?だったら… 」

「相手は武器を持ってんだろ?召喚された時の事思い出してみろよ。槍と銃持ってたじゃないか。怖いけど、槍ならまだ近づけるかもしれない。でもさ、銃には無理だろ。遠くからズドンッ!だ。それなら魔法に精通してる荒岩さんとか、物理を無視する柏木の方がぶっちゃけ、強そうだろ」

「「…… 」」


 元がそう言うと、二人は黙って考え込んでしまった。

 地球から共に来て、見知らぬ土地へ向かう三人は力を合わせていかなければならない。

 元はそう思ったからこそ、正直に自分が思った事を二人に伝えた。

 話すようになってまだ日が浅いからこそ、信頼関係を築く為に正直に二人に向き合う。

 祖父と共に霊に対峙していた時の心構えとして、元は仲間との連携の大切さを叩き込まれた。

 仲間には出来る事と出来ない事はきちんと伝えておけ、と。

 自分の力を過大評価する者や、連携をおろそかにする者は怪我を負い、時には命を落とす。

 退魔を手伝うようになって日の浅い元ではあったが、身に染みて分からせられた(・・・・・・・)事である。


「本気でそう思ってるみたいだな。なんでわざわざそんな事を、俺達に伝えた?自分の不利になりそうな事を」


 柏木は真面目な顔をして、少し低い声でそう聞いた。


「言わなくてもそのうちバレるしな。そもそも、不利になるかどうかなんて現時点で分かんねーし。おっさんが言うには、移動先で魔法を教わったりするんだろ?魔法を覚えたら変わるかもしれないし、覚えても俺が一番弱いかもしれない。でもさ、今分かってる事を二人には伝えておかないと、この世界では命取りになりかねないと思ったんだ。日本にいた時に爺さんに言われたんだよ。一緒に戦う仲間には、意思疎通と現状戦力は伝えておけって。それをおこたると、自分も仲間も死ぬってな」

「そっか… 」

「まだこっちの世界のことはよく分からないからな。日本と違ってアンデッドが当たり前の世界だ。そこら中にいるかもしれないしな。町中ではそんなの見ないけど、おっさんいわく珍しく無いみたいだし。それなら俺は役に立つだろ」

「確かに、まだ分からないことの方が多いか。俺たちゃこの世界の初心者だもんな」

「そう言うこと。信頼してくれなんて言った所で、信用できないだろ。手の内はある程度晒しておかないと」

「ある程度なのかよ」

「ある程度だ。隠してるわけじゃ無くて、こんな場面ではこの力が有効でとか、この力を使うにはこう言った手順が必要だとか。説明が長い上にあんまり意味ないだろ」

「そりゃそーだな。納得」


 柏木は頷きながら元に理解した態度をとる。

 元としても聞かれた事には答える気はあるが、一から十まで説明するのは面倒だという思いしかない。


「確実に分かった事は荒木、お前がお人好しだって事だな。どんなことができるのか互いに知っておく事は大事だが、役立たずだって言い切る必要はねーんだから。俺達に気を使ってくれたんだろーが、いざという時俺がお前を見捨てる可能性もあんだろ」


 笑いながら、しかし元を試すように柏木は言う。

 日本と違い、魔物や魔獣がいるこの世界は命を落とす可能性が高い。

 そんな世界で役に立たない事を伝えるのは、そう言った意味合いがある事を柏木は元に突きつける。

 同じ世界から来た三人は境遇を共有する仲間かもしれないが、それだけだ。

 命を預けあう戦友ではないのだ。


「そん時は、まぁ諦めるさ。死にたくはないし、恨まないとも言わないけどな。俺に何かができると期待されて、一緒にくたばるよりはいいだろ」

「俺が生き残った方がマシだってか?ホントに荒木はお人好しだな。荒木が恨むって言うとかれそうだけど」

「呪術は専門じゃねーよ」


 元と柏木は互いに笑いながら話しているが、話の内容が少し物騒な方向に流れていく。

 現代高校生がするような話ではない。


「俺はそんなこと言えねーわ。自分の命が大事だからな。置いてかれたら泣きわめくわ」

「そんな性格には見えねーぞ」

「いやいや、実際戦闘経験なんてねーもん。どうにか出来ないと思ったら、とんずらする可能性のが高いわ」

「お前もお前で正直だな」

「超能力があったってさ、実戦でどう使えるかなんて分からねーじゃん。特に魔法なんて物があるなら尚更。荒木の言葉じゃねーけど、強がっても意味ねーし」

「まぁな。魔法が分からないのは確かだな」

「まだ見てないもんな、魔法」


 元と柏木は魔法ねぇ…っと言いながら、黙って聞いている荒岩に視線を向けた。

 二人に見られた荒岩は、ビクッっと肩をすくめて縮こまる。


「ま、魔法、ですか。正直に言うと、この世界の魔法を、まだ見ていないので。さっきも言った通り、地球では、魔素が少なかったですから。威力や、出来ることも、違ってくるので…」


 荒岩は少し申し訳なさそうに二人に言った。

 少し落ち着きがないようにソワソワしながら、何かを言いあぐねている。


「えっと…、この世界での大別が、どうなっているのか分からないので、どうか分からないのですが、その、私の家系に伝わっているのは、魔女術です。魔女なので、当たり前なんですが。ですから、こちらと同じ魔法かどうか、分からない以上、私も説明出来ないかと… 」

「あー、なるほどね。実物見てないから説明出来ない、と。地球の魔法の説明受けた後に、こっちと別物でした、じゃ混乱すっかもしんねーもんな」

「そうなると、下手に聞かない方がいいのか。でも、荒岩さんの魔女術?ってのは見て見たいな」

「あー、そうな。どんなんなの? 」


 元と柏木の二人が魔女術が見たいと、期待に満ちた目で荒岩をみる。

 荒岩は元を気まずそうにチラチラと見る。

 そんな荒岩の態度に元は疑問を持ちながら、荒岩が決断するのを待った。

 荒岩は観念したのか、はぁ、と息を吐き出し話し始める。

 覚悟を決めたからなのか、その言葉には何時ものような淀みがあまりなかった。


「…私の家系に伝わる魔女術は、先ほど説明した神々の系譜とは異なります。地球に魔法があった事を伝えるため、魔法使いたちの事を話しましたが、魔女は別の系統なんです。元々はシャーマニズムを源流にしたもので、そう言う意味では、荒木くんと同じですね。偉大な自然との共存のために、意思疎通を試みたのが、祖先です。ヨーロッパ地方でも、古代では神ではなく、自然信仰だった時代が、あったんです。神々が存在する時代、魔女の祖先は、神との意思疎通ではなく、言葉なき者達との意思疎通に術を変化させていきました。錬金術による魔素の発見により、魔女術は発展します。黒猫や鴉を使い魔としたのも、この頃発展した魔女術からです。絵本や小説に出てくる魔女は、大鍋で魔女薬を作っている場面がありますが、これは錬金術を取り入れたからでしょう。そうして発展していった魔女術は、ある秘術を完成させます」


 一旦言葉を切り、それまで少し俯いて話していた荒岩は顔を上げ、決意を固めた顔を元に向ける。

 そんな顔を向けられた元は、意図が理解できないまま、困惑しながら荒岩の次の言葉を待った。


「…その秘術はこの世のことわりを曲げ、神に唾吐く行為とされています。神の血を受け継ぐとされている魔法使い達からは嫌われ、協会からは異端とされ、魔女狩りの発端と言われている秘術。…死者の魂をこの世に縛り、意思を縛り操る、死霊術です」


 荒岩は元を見ながら、感情が入らないように淡々とそう言葉を発した。

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