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チートスキルは無効です  作者: アルマカン
第一章 異世界クルセリア
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第二十九話 十一人

 

 グリーが階上へ登ると、元と柏木のいる部屋の扉は開け放たれていて、扉の前には荒岩が立っていた。

 部屋の中に入るかどうか逡巡しゅんじゅんしているようで、所在なさげに手を出したり引っ込めたりしている。

 部屋からは朝日とは違う光が漏れ出し、明滅しているのがわかる。


『さっきの音の原因はわかったか? 』


 部屋に近づきながらグリーが荒岩に聞く。


「あ、えと、多分水差しだと、思います」

ユウか(、、、)?』

「…はい」


 グリーは荒岩の返事を聞くと溜息を吐き、室内に入る。

 部屋の中には二つの異なる光が存在していた。

 グリーが右にチラリと目を向けた先には、元の寝ているベッドがある。

 元を中心にベッドよりも大きな、白く清浄な光が床から天井まで円柱状に伸びている。

 宙空には時折ホワンと拳大こぶしだいの光が浮かび、ユラユラと漂っては消えていく。

 左に視線を移せば、柏木が寝ているベッドの周りの空間を切り裂くように閃光が不規則な線を描き走る。

 パチパチと断続的な音を立てながら、微かな焦げ臭さを残して消える光は小さな雷のようだ。


『金製の水差しに落ちた(、、、)から陶製に変えてもらったと言うのにな。木製にでもすればいいのか? 』


 二度目の溜息を吐き、割れた水差しを片付けようと足を踏み出したグリーの右手が、バチリッ!と音を立てる。


『ッ!…つぅ。落ち着いたと思って油断した。ユリ、一旦疎通を切るぞ』


 グリーはそう言うと、上着の内ポケットに入れていたピンポン球サイズの水晶玉に停止の呪文を呟く。

 疎通の魔道具に限らず、多くの魔道具は使用者の魔力を消費して作動するものが多い。

 道中、元たちと話している時にはグリーは常に魔力を消費していたということであり、宿や列車の中ですぐに個室に籠る理由の一因になっていた。

 もっとも、子守をするのが面倒くさいというのが大半の理由でもあったが。

 兎に角そういった訳で、魔法や魔術を行使する場合には、補助などの魔道具以外は停止させるのが一般的だ。

 無駄に魔力を消費して、疲れるのは合理的では無いし、ステータスが存在していた頃とは違い、今は残魔力量を確認するすべも無い。


脅威を()退ける()ティカ


 グリーはそう呟くと、割れた水差しに近づいていく。

 時折グリーに向かって行く光があるが、見えない壁があるかの様にグリーに触れる前に弾かれていた。

 屈んだグリーがカチャカチャと音を立てながら割れた水差しを片付けていく。

 部屋の外からその背中を、荒岩は無言で見つめていた。





 ------------------





 それから更に三日経ち、元と柏木の容態も回復していた。

 寝たきりで体力も筋力も落ちてしまった二人だが、取り敢えず腹を満たそうと食堂で料理を待っていた。

 昨日は消化に良い病人食ばかりだったので、やっとまともな食事にありつけると、二人は上機嫌だ。


「いやぁ、それにしてもこっちの世界には訳の分からん病気があるんだな。素風症だっけ? 魔力が原因の病気とか、思ってもいなかったな」

「数日間の記憶が曖昧だ。熱でボーっとするわ、咳で苦しいわ。俺、血を吐いたんだっけ? 」

「マジ死ぬかと思ったよなぁ」

「全くだ」


 元と柏木は食堂で注文した果実水を飲みながら語っている。

 同じ机にはグリーも荒岩も一緒に座っていて、同じく果実水を飲んでいた。

 荒岩は苦笑いを浮かべながら、グリーは疲れた顔をして。


「なんにせよ、元気になってよかったわ、ほんと」


 柏木は無邪気に笑いながら運ばれて来た料理を受け取りながらそう言った。

 さて食べようかと元と柏木が料理に手を伸ばしたところで、グリーが口を開く。


『食べながらでいいから聞け。回復したのはこちらとしても嬉しいことだが、お前たちに聞きたいことがある。ユリ、お前も含めてだ』


 グリーは三人の顔を順番に眺めながら話を続ける。


『まず、お前たち以外の召喚された者たちについてだ。召喚された者たちは例外なく素風症を患った事は分かっている。そして昨日、上に連絡を取った時の情報で分かったのは、半数以上が死んだ事だ。お前たちに伝えるかどうかの判断は俺に任されたので、ここで伝えておく。隠しても意味ないからな』


 柏木の喉から鳴ったゴクリという音は、はたして料理を飲み込む音だったのだろうか。


『主だった症状は高熱に咳。それだけだ。生き残ったのはお前たちを含めて十一人。正直、ここまで魔力に対して拒否反応が出るとは思わなかった。我々この世界に生きている者たちにとっては、当たり前にあるものだからな』


 ギシリと椅子を軋ませながらグリーは前のめりになり、両肘を机について手を組み話す。


『お前たちに聞きたいのは症状についてだ。先にも言った通り、お前たちが患った素風症は高熱と咳が主だった症状だ。我々この世界の者が患った場合、微熱のみで咳が出る事もない。それに比べ、お前たちの症状は明らかに異常だ。雷を発生させたり光ったり、物が動き出したり。お前たち以外では動物が宿屋を囲んだり、木製のベッドから新芽が出た者もいた様だ。まぁ、こんな現象が起こったのは五人だけだったがな』

「へぇ… 」


 短い相槌を打ち、元は椀に入ったスープを喉に流し込みながら、視線で話の続きをグリーにうながした。


『俺が聞きたいのはここからだ。容態が安定してからゲンとユウは互いに相手の状態を見ているな?お前たちの意識がハッキリしてからは小規模になってはいたが』


「あぁ、見たぞ。柏木の周りで静電気みたいなのが走ってるのを。自分の周りも薄っすらと明るかったしな」

「夜でも明かりいらずだったよな」


 あまり気にした風でもなく二人は同意を示す。

 そんな二人を苦笑を顔に貼り付けた荒岩が見ていた。


『二人とは別に、ユリは回復が誰よりも早かった。症状も比較的軽めでな。しかしアガリアに着いた日の夜、ユリの部屋から物音が断続的にして来たので様子を見に行くと、部屋の中にある机や椅子、ユリが寝ているベッドなどが歩いていた』


 元と柏木の二人が同時に荒岩に目をやると、やはり苦笑を貼り付けたままの顔がそこにはあった。


『三人が三人とも同じ現象ならば、海を渡った影響なども考えられるんだがな。他に二人、おかしな現象が確認されている上、別々の現象だ。何か、心当たりは無いか? 』


 グリーは三人を眺めながら返答を待つが、三人とも互いに目線を泳がせている。

 心当たりが無いのか、あっても言い出しにくいのかの判断はグリーには付かない。

 考えをまとめる時間も必要か、とグリーが一旦の解散を切り出そうとした時、一人が口を開いた。


「…あの、心当たり、あり…ます」


 おずおずといった感じで口を開いたのは荒岩友理。

 荒岩以外の三人が視線を向けると、荒岩は唾を飲み込み、一言。


「私は…魔女です」


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