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チートスキルは無効です  作者: アルマカン
第一章 異世界クルセリア
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第二十八話 通過儀礼

 

 元たちがアガリアに着いてから、既に三日経っていた。

 元と柏木は時々意識が朦朧としている状態で、碌《ろく》に食事も喉を通らない始末。

 水に果汁を垂らしたものや砂糖水を口にする程度で、未だにベッドから起きて来る事が出来ない。

 それに対して荒岩は、アガリアに着いた日の夜には高熱を出してはいたが、三日経った今ではグリーと共に朝食を摂る事ができるまで体調は回復していた。


「素風症《そふうしょう》、ですか? 」

『ああ、そうだ。お前たちが患《わずら》った病は素風症と言う』


 四人がけの丸机に向き合う様にして座っているグリーと荒岩は、朝食を食べながら三人の病気について話していた。


「その、素風症と言う病気は、どんな病気なんでしょう?私と二人は、その、症状が違う様に思えるのですが… 」


 荒岩は食堂がある一階から、宿泊施設のある二階へと目線を向けながらグリーに問う。

 階上からは時折、木が軋《きし》むようなギシギシとした音や、静電気に触れた時のようなパチパチという音が聞こえて来る。


『そうだな、何から説明すればいいのか…。先ず、この素風症という病気は、この世界の生き物なら生後二週間以内になると言われている病気だ。人類のみならず、獣や魔獣なんかもなると言われている』

「生き物、全部… 。そんな病気が、あるんですか….? 」

『ある。まぁ植物や魚なんかは知らんが、親の腹から生まれる奴らはなる病気だな。誰でもなるから病気と言っていいのかは、分からんがな』

「はぁ… 」


 グリーの話を聞いても、荒岩はいまいち腑に落ちない気分になる。

 現代日本で育った荒岩としては、病気の原因は主に菌やウィルスだ。

 全ての生物に病気をばら撒くような菌やウィルスなど心当たりが無い上に、必ず生後二週間以内、遅くとも三週間以内に患う病気など信じられなかった。


「その、素風症と言う病気は… 、何が原因、なんでしょうか? 動物も人も、もしかしたら魚なんかもなる病気、って… 」

『確かに、全ての生き物に共通する病気と言うものは考えられない事だな。お前たちのいた世界では分からないが、この世界では本来ならあり得ないとされている。

 しかし、今回の素風症だけは例外なのだ。誰もがなる病気なんだが、誰も自分で病気になった事を覚えていない。なにせ、赤子の頃だからな』


 生後二週間以内に患う病気ならば、覚えていないのも当たり前だろうなと、荒岩は頷きながら相槌を打つ。


『先に言ってしまえば、この素風症の原因は魔力だ。この世界のありとあらゆる場所にある、魔力。

 何故、生後すぐにこの病気になるのかと言うと、生まれて呼吸をすることによって外の魔力を体内に取り入れ、血液を通して体に循環させることになる。体に魔力が馴染む際に、微熱が出ると言われているんだ』

「魔力、ですか」

『そうだ。母親の胎内にいる間は、自分の魔力と母親の魔力しか知らない。赤子にとって母体は、一種の結界の役割があるらしい。生まれて初めて外の世界の魔力に触れることによって素風症を患うのは、通過儀礼みたいなものだな』

「えっと、つまり、私たちがこの年齢で、素風症になったのは、魔力を吸い込んだから。ですか? 」

『多分、な』


 普段あまり喋らないグリーは、一気に話して喉が渇いたのか、木製のコップから水を一息に煽《あお》りながら答える。


『お前たちが寝込んでいる間に上に報告した時のことだが、症状が重い理由も話し合った。まぁ、理由が分かったところで解決はしないんだがな』


 荒岩は話の続きを促《うなが》す様に、グリーをジッと見つめている。

 朝食を食べ終えてはいたが、二人の体調を考えれば今日も移動することは出来ない。

 グリーとしても今の状況を整理するために、続きを話し始める。


『まず、お前たちの世界には魔法がなかったと聞いている。だから、魔力そのものに触れるのが初めてだ。魔力があるのが当たり前のこの世界の生き物と違い、魔力への拒否反応ではないか、と言うのが一つ。

 もう一つは、口にした食材が原因ではないか、との事だ。腹から生まれる、まぁ哺乳類だな。この哺乳類は、生まれてから暫くは母乳で過ごす。母乳に宿っている魔力は母親のものだからな、生まれる前から慣れ親しんだものだ。

 しかし、お前たちがこの世界に来てから口にしたものは普通の食材だ。勿論、この食材にも魔力は宿っているからな。この世界の者とは違い、呼吸以外でも魔力を摂取した事が症状に現れていると考えられる』


 そこまで喋ると、机の上にある金製の水差しからコップに水を注ぎ、口を湿らせる。


『そしてもう一つ。これはまだ憶測なんだが、どうやら世界の魔力が増えているらしい。お前たちを召喚した日、つまりステータスが無くなった日から。まぁ、これについてはまだ調べ始めたばかりの事だから、なんとも言えないらしいが』

「なるほど… 」


 そう言って、荒岩は考え込んでいる様に、黙ってしまう。

 グリーはそんな荒岩にチラリと視線を向けるが、すぐに視線を切る。

 時折階上からはギシギシ、パチパチと音がする。

 グリーが荒岩に伝えた素風症についての話は、昨日公国上層部に連絡を取った時に聞いた事だ。元たちの体調不良によって、公都に着くのが遅くなる事や、医者の見立てが素風症であることなどを報告していた。

 どうやら他の召喚された者たちにも同じ症状が起きているらしく、皆が皆熱に浮かされているようだ。

 恐らく、目の前の少女が初めての快気《かいき》した者だろう。


(ユリが回復したのはいいとして、ゲンとユウの症状は明らかに他の異世界人と違っている。いや、この街に着いた日のユリの症状もおかしかった。回復するのも早い。この三人は他の奴らと比べると、どうにも変わっている。召喚された者の中で死亡者が出たことは、まだ伝えるべきではないな)


 グリーと荒岩が黙考していると、階上からガシャンッ!とガラスが割れる音がする。

 二人は目を合わせると、机から立ち上がった。


「よ、様子を見て来ます! 」


 それだけ言うと荒岩はパタパタと足音を立てて、入り口付近のカウンター横にある階段を駆け上がる。

 グリーはカウンターで宿帳簿を書いている宿の主人に向かい、「騒がせてすまんな」と言いながら階段を登っていく。

 宿の主人は嫌そうな顔に諦めを貼り付けて、ため息をつきながら帳簿へと向き直った。


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