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チートスキルは無効です  作者: アルマカン
第一章 異世界クルセリア
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第十九話 出発

 

「まぁ無くなっちゃったもんはしょうがないよな。スキルは無くてもあれだ、魔法はあるんだし」


 柏木は声の調子を変え、そう言った。


「魔法、ね。魔道具は見たけど、魔法はまだ見てないからな。何ができるのやら 」


 柏木に対して元がそう返した。


「だなぁ。召喚されてから今まで同じ建物内に缶詰だったんだから、見る機会無かったよな」

「私たちにも、使えるようになるんでしょうか… 」

「使いてーよなぁ、魔法。折角ファンタジー世界に来たんだし、派手にバーン!ってな」


 荒岩の疑問に柏木が気楽にそう返す。

 元達はクルセリアに召喚されてから、同一の建物からの出入りを禁止されていた。

 それはまだこの世界の常識、言語に慣れていない事から、元達を保護する名目と、管理する手間を省いた結果の為だ。


 よって、元達は今日まで同じ顔ぶれとしか接していない。

 言語、常識を学ぶ時間以外は日本人同士で固まっていたこともあって、ここにいる三人はまだ魔法を見る機会に巡り合っていなかった。

 元は二人と違い単独行動であったが、結果は同じだった。


「小説とかに出てくる魔法だとマナとか魔力とか使うんだろ?俺たちの身体にも流れてんの、それ?空気中? 」


 柏木は自分の身体のあちこちをポンポンと叩きながら言う。


(流れてるかどうかはともかく、魔力があるのは確かだろうな。自称女神のとこで見た記憶がある)


 元は神界にいた時、申請用紙により浮き上がった文字を思い出していた。


(確か魔力以外に心力、霊力、魂力、神力だったか?神力ってのが俺達に無いとしても、それ以外は持ってそうだな。俺の力も使えるのは確認してるし )


 元は顎に手を当て、代々祖父の家系に伝わる武術について考える。

 武術としているものの、元々の使用法は対人用では無い。

 時代に合わせ、表向き武術としているだけだ。


 祖父が男孫が生まれたことに張り切った結果、街中のジムや道場から出稽古に赴く人達が増えたが、本来の戦闘方法を受け継いでいるのは元のみだ。

 元も十五歳になる迄は、力について知らされていなかった。

 ただの知名度の低い武術だと思っていた。


 その力がこの世界でも使える事は、振り分けられた寝室で確認していた

 クラスメイトに態々(わざわざ)、自分の力を見せる気も知らせる気も無い元としては、人目のある場所で試したりはしなかった。

 地球とクルセリアで同じように力を使える保証もなかったのも理由の一つだが。


「どったの荒木、考え込んで? 」


 考え事をしていた元に、柏木が声を掛ける。

 魔法の話題になってから、元が黙り込んだからだろう。


「いや、向こうに着いたら魔法を教えてもらえるのか考えてた。ガウニアだったっけ? 」

「確か、ガウニア立憲公国、だったと思います」


 荒岩が国の名前を訂正してくる。


「そんな名前だったな。まぁなんにせよ、今はわからない事だらけだ。戦争中って情報だけで、どんな国なのかも知らないし」

「貴族とかもいるんだっけ、この世界。まだ会った事ないけど」

「国によって、居たり居なかったり、するそうですよ。ゲルスさんの授業で、言ってました」


 元が自分たちの向かう国について話題を変える。

 荒岩の言ったゲルスとは、元達に言葉を教えていた人物だ。


「島国なんだっけ。日本みたいな感じ? 」


 柏木が島国と聞いて思い出すのは、最も馴染み深い故郷、日本。

 海外旅行をした事が無い柏木にとって、知っている島国は日本だけだ。


「今いる国がヨーロッパみたいな街並みだから、違うと思うぞ。家は石とかレンガだし」


 元が柏木の発言に否定的に答える。


「気候とか、地域性もあると思いますし。向こうに行ってみないと、分からないですね」


 荒岩は曖昧な意見でお茶を濁す。


「えー、俺、畳で寝転がりたいんだけど」

「畳は無いんじゃ無いか…」


 柏木の発言に元は眉を八の字にしてそう返した。

 元の家は道場のある木造建築の一軒家だ。

 和様式の家に生まれ育った元も畳は恋しいが、周りの建築様式や今迄過ごしていた建物が洋風だった為、諦めている。

 この世界にも日本のような国はあるかもしれないが、行く事は難しいだろう。

 この世界を旅する事があったら、いつか行ってみたいと元は頭の片隅で思った。


 三人での会話は終始、想像と期待の混じった話に傾いた。

 この世界の情報が少ない事と、自由な行動が制限されているせいで、やりたい事はあっても実行できるか分からないからだ。


 そんな話を続けていた三人だが、気付くと集合時間になっていた。

 三人はベンチを後にし、並んで時計塔の下まで移動した。

 時計塔の下まで来ると、既にグリーが待っていた。


『揃ったか。では移動する。俺達が乗る魔工列車は四番ゲートが搭乗口だ。はぐれずに付いて来い』


 そう言ってグリーが三人を先導するように歩き出す。

 元達は見失わないよう、後ろに付いて行く。

 駅構内は人でごった返し、其処彼処そこかしこから喧騒が聞こえてくる。

 四人は四番ゲートを目指し、せわしなく行き交う人々の間を歩いて行く。


 グリーがチケットを駅員に見せ、ゲートをくぐるとすぐにホームに出た。

 ホームには鉄色の無骨な塊とでも言うような、大きな車両が見えた。


「なにこれでっけー! 」


 柏木が車両を見て叫ぶ。

 日本で慣れ親しんだ電車の車両は、大体縦二・五メートル、横三メートルくらいの箱型だ。

 車輪を入れた高さでも五メートルは無いだろう。

 しかし目の前にある車両は箱型の部分だけで縦に七メートルはありそうだ。

 横幅も同じくらいあり、中の広さを想像させる。


 元達の搭乗する列車は、一車両に四部屋。

 元達の部屋は三部屋とも同じ車両で、隣り合っていた。

 乗客用の車両全てが寝台車で、長距離移動専用車両のようだ。

 一部食堂車、軽食堂車が連なり、十八両編成。

 車両一つ一つが大きいので、先頭車両がかすんで見える程だ。


 おそらく先頭車両は最後尾の車両と同じ形をしてるのだろう。

 ゲートをくぐった時に見た最後尾の車両は、流線型の車体に船底のような形の大きなバンパーが付いていた。

 船の上に新幹線が載っているとでも言えば良いのか、尖った下半身と丸い上半身のチグハグな印象を受けた。

 グリーが言うには魔物が線路内にいた場合に備えてバンパーを取り付けているらしい。


 自分たちの乗る車両まで移動し、グリーが車両前に待機している駅員にチケットを再度見せてから、乗車する。

 車両に入ると階段になっており、反対の壁側まで低い段差が連なっている。

 通路は壁側に沿って続いていて、天井までの高さは二・五メートル程になっていた。


「この下って何があるんだ? エンジン? 」


 柏木の言葉にグリーが返答した。


『各車両の下には格納庫がある。食料や材木、鋼材などを運ぶ為の空間だ。後方の車両は雑魚寝の一般用車両があるから、その下には家畜がいるだろうな。一度に沢山の荷物や人を運ぶため、このような大きさになってるんだ』


 グリーが大きさや二階構造になってる理由を教えてくれる。

 この大陸で今のところ、大量の物資を陸路で運ぶにはこの魔工列車を使うしか無いと言う。

 物質転送の魔道具はあるにはあるが、重量などに制限がある為、一般的では無いと言う。

 そんな話を聞きながら歩き、元達は部屋の前にたどり着く。


『発車するまではもう暫く時間がある。乗車後は下車駅まで降りることはできないから、気を付けろよ。時間があるからといって一旦降りる、なんて事するなよ。食事の時間は特に決まってないが、食堂車は二十一時迄。朝は七時からだ。トイレは各車両の後方にある。

 お前達はまだ言葉が片言だ。疎通の魔道具を持ってるのは俺だけだから、何かあったら俺の部屋に来い。食堂車ではメニューがあるが、読めないなら適当に指差してこれ()ください(プキュエ)と言えばいい。大概食える。それじゃ解散』


 そう言ってグリーは自分の部屋に入っていった。


「前から思ってたけど、グリーのおっさんは適当すぎるだろ」


 柏木が呆れ半分にそう口に言った。


「とりあえず荷物を置こう。荒岩さんも。暇ならこっちの部屋に後で来ればいいよ」

「あ、はい。そうします」


 元の言葉に荒岩はそう答え、荷物を置きに自分の客室に入っていった。

 元達も客室に入ると、両壁面にベッドが其々(それぞれ)置かれていて、正面には横に細長い窓があった。

 ベッドとベッドの間には小さな机が絨毯の上に置かれ、ちょっとしたホテルのようだった。


「なんか豪華だな、この部屋」


 元が思った事をそのまま口にすると、柏木が反応する。


「雑魚寝の車両もあるって言ってたから、この部屋は高いんじゃねーの?召喚者は特別って言ってたし、誰かが」

「ファルマンって人だろ。この街まで護衛として来てた」

「そうそう、その人」


 思い出したとばかりにパチリと指を鳴らす柏木。

 話しながら荷物を置いていると、荒岩がやって来た。


「部屋にベッドが二つもあって、落ち着かないです… 」


 どうやらこの車両にある部屋は、全て二人用のようだ。

 男子高校生二人でもそこそこ広いと思う部屋だ。

 小柄な荒岩にとっては広すぎて寂しく感じるのかもしれない。


 キイィィィィィィィィ…


 三人が話していると、甲高い音が聞こえて来た。

 窓から外を見ると、等間隔に離れて並んでいる駅員達が赤い小さな旗を振っている。

 ガチャンッ!っという扉が閉まる音と共に車体が揺れ、ゆっくりと動き出した事が分かった。


「出発したみたいだな」


 元の言葉に応えるように、徐々に車体の速度が上がっていく。

 窓の外を流れていく景色を見ながら、元は魔工都市を後にしたのだった。


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