第十四話 大災害
光が眩しくて閉じていた瞼を開けると、元の周りは白い世界ではなく、地面と青空が存在していた。
「…お?地面がある。やっぱ地面があると安心するなぁ」
そう言いながら右足でトントンと地面を叩く。
「*<<々t:-€x!」
「*<<×°:xx!」
元が声の聞こえた方を見ると、銃口をこちらに向けた兵士らしき者達と、槍を構えた鎧姿の騎士らしき者達がいた。
「*<km°°○:#!!」
「何言ってるか分かんないんですけど!」
元は叫びながら両手を頭の横に上げ、抵抗の意思がないことを示す。
想定外過ぎてつい敬語になってしまう。
召喚されて早々、銃と槍の出迎えを受けるとは思っていなかった元。
言葉も通じないとあっては、相手の言うことに従うしかないと判断した。
(自称女神の奴、何が時間差が無いだ。俺一人じゃねーか!)
元は心の中で愚痴を言う。
アクリミナが言ったのはそれ程差がないと言ったのであって、同時だとは言っていない。
元の思い込みであった。
どうすればいいのかと助けを求めるように辺りを見回す。
すると少し離れた建物の近くに、見覚えのある制服を着た集団を見つけた。
「あいつら…。それ程の時間差は無かったみたいだな。こっちに気付いてくれれば助かるんだが」
そう言ってクラスメイト達がいる場所を見ていると、元の周りにいる者達と同じ服装の何人かが話しているのが見えた。
話していた内の2人が建物の中へと走っていき、一人が元の下へ歩いてくる。
元が歩いて来る男を見ていると、男は周りの兵士達に声をかけ武装を解除させる。
他にも白衣を着ている者達に指示らしきものをしながら、元の前まで歩み寄って来た。
「○*+°^::*?」
「いや、何言ってるか分からないんだが…」
口に出して言った後にこれでは伝わらないと思った元は、両手を上げたまま首を左右に振った。
否定の意味として通じればいいのだが、ここは異世界だ。
失礼な意味だったらどうしようかと思った元だが、どうやら通じたらしい。
目の前の男、ファルマンは頷き、左の手のひらをこちらに向け、右手の人差し指で地面を指している。
どうやらここで待てと言われているらしい。
元は無言で頷いて同意を示した。
(言葉が通じないのは想定してなかったな。考えてみれば当たり前か、日本じゃないんだし)
意思疎通がまともにできない状態なので、元は両手を上げたまま待った。
暫くすると建物から出て来た兵士が、何かを抱えながらこちらに走って来る。
走って来た兵士は掌に持った水晶玉のような物をファルマンに差し出した。
ファルマンが水晶玉を受け取りジッと見つめると、水晶玉は淡く光りだす。
『私の言葉が分かるか?』
「え、あ…?はい、分かります」
ファルマンから聞こえた言葉は、合成音声のように抑揚がなく平坦に聞こえるが、内容は分かるようになっていた。
元は戸惑いながらも返事を返した。
『そうか。想定外の事が立て続けに起こってこちらも混乱していてな。幾つか質問に答えてもらおう』
「…はい」
想定外の事と聞いて元が思いつくのは申請用紙の事。
元の願いが叶ったのなら、この世界からステータスとスキルは消えている。
この場が混乱しているのは当たり前だろう。
最も、この場どころか世界規模で大規模な混乱が起こっているのだが。
『見た所、君も彼らの仲間という事でいいのかな?』
ファルマンはクラスメイト達の方を見て聞いてくる。
元の服装も学生服だからだろう。
「そうです。あそこにいるのは俺のクラスメイト達です」
『そうか。なぜ君だけ遅れて召喚されたか分かるか?』
「えっと、多分ですけど。クラスメイト達に置いていかれて…」
『置いていかれた?』
元は、寝ていてる間にクラスメイト達が転送された事。
意識のない生物は転送出来ないから元だけがアクリミナの下に残った事。
クラスメイト達がスキルを全て持って行ってしまった事。
それを聞いて落ち込んでいた事。
落ち込みから回復するまでアクリミナが転送を待ってくれていた事。
それによって召喚される時間がズレた可能性がある事をファルマンに伝えた。
『成る程…』
ファルマンは元の説明を聞きある程度納得していた。
確かに転送の魔法は意識のない生物は対象に含まれない。
眠りから覚めたらクラスメイトはいない、スキルは無いとあれば落ち込むだろう。
それであれば召喚に時間差があったのも一応頷ける。
召喚された者達が女神に会ったと言うのが本当ならば、だが。
記録の上では召喚された者が女神に会ったといった記述は今の所無いのだ。
それにもう一つ、気掛かりがある。
『…もう一つ質問だ。君達の言う、その女神だが、君を転送する前にその…何かしていたかね?』
「何かですか?いや、特には思い当たらないですが…」
『そうか…』
ファルマンは元の答えを聞き、ため息を吐きながらそう返した。
聞きたかった事はステータスとスキルについてだ。
事が事だけに直接聞く事は躊躇われたし、元がステータスやスキルに何かをしたとは思っていない。
ステータスやスキルがない世界から来た元達が世界の根幹をなすステータスやスキルに何か、干渉するような事が出来るとも思っていない。
だからファルマンは元に対して、女神が何かしていなかったか問いかけた。
しかし望んだ答えは得られなかった。
元としてもステータスを消したのが自分だとは言えるわけもなく、申請用紙に関しての出来事はファルマンに伝えていない。
伝えた途端楽しくない出来事が待っているだろう事は容易に想像できた。
『分かった。では私について来てくれ。君の仲間達と合流後、待機室まで案内しよう』
「分かりました」
元は頷くとファルマンの後に続いてクラスメイト達が待つ場所へと歩き出す。
元達、異世界人を召喚したこの日、世界からステータス及びスキルが消失した。
この日の出来事は「大災害」と後の世で呼ばれるようになる。