第十話 巨樹
「俺が書いた願いは『この世界からステータスの概念を破棄する』だ」
膝をついたままのアクリミナに対して、元は見下ろしながらそう言った。
「…ステータスの破棄、ですって…?」
元の言葉を理解するに従って、アクリミナは愕然とする。
確かに、元には自分の能力についてある程度説明した。
世界の創造への関与、世界を始めた事。
世界へ干渉する力、無機物の創り変え。
元への説明はしなかったが、アクリミナには世界の観察、調整、監視の役割もある。
この世界に限って言えば、アクリミナの神の位は高い。
位に準じてその力もまた、高かった。
万能ではなかったが。
アクリミナは元の質問に対して、真実を答えていた。
しかし自分の力の強さを明確には教えてはいない。
季節を変える事が出来る。
世界に干渉出来る。
元には立て続けにそう伝えた。
世界に干渉出来るから、季節を変える様な大きな力が使える。
そんな意味に捉えられる様に。
しかし、実際の意味合いは異なる。
宇宙全体の世界に対して干渉する事が出来るのだ。
元達が召喚されたクルセリアという星の季節を変える程度、どうということはない。
神と人では世界の認識が違う。
元に対して力の過多を誤認識させようとしたはずなのに、結果はこれだ。
星への干渉どころか、世界の改変である。
馬鹿げている。
アクリミナは心中でそう呻いていた。
元の願いが申請用紙に受理され、魔法陣が展開されている現実が目の前にあるのだ。
アクリミナの力の及ぶ範疇なのは確か。
しかしこんな事は想定していなかった。
力の放出は緩やかになり、魔法陣の構築も終わりに近づいている。
申請用紙に受理された願いは取り下げる事は出来ない。
中止することもできないので、アクリミナでさえ見ていることしか出来ないのだ。
アクリミナの力の殆どを使った魔法陣は、起動し始める。
「うぉ、眩しい!」
元の頭上にある球形の巨大な魔法陣は、文字や記号が白い光を放ち、徐々に光度を上げていく。
しかしアクリミナに見えている魔法陣の形は違った。
多次元展開されていると語った様に、3次元の世界しか見えない元には球形に見えているだけだ。
アクリミナに見えている魔法陣の形は巨大な大木。
根の様に張り巡らされた魔法陣の土台から、天を貫く様に真っ直ぐに伸びた術式で構成された本陣。
本陣を見上げた先には土台よりも広がっている枝状の陣様が見て取れる。
樹状構築型大規模魔術陣:世界樹
アクリミナでさえ世界創造時以外ではあまり見る事がない、大規模な術式だ。
アクリミナの目の前で世界樹は白く輝きだす。
根の先から幹を通り樹上へ広がり、その輝きは枝の先まで全てを覆う。
世界樹全体が白く発光し続け、眩しさが強くなっていく。
次第に樹上の枝に葉が生い茂っていく。
更に、紅い蕾が出来始める。
蕾はゆっくりと開花し始め、紅い花を咲かせていく。
白い巨樹は紅い花を満開に咲き誇らせた。
後半の文章を書いている時、私の頭の中では樹原涼子さんの「花」がBGMとして流れていました。