11/首を長くして待つ
スコップが地面を掘る乾いた音が続いている。
ネッサの死体を埋めるために、ケイトは永延とその作業を繰り返していた。
深夜の森の中である。周囲にはランタンのか細い灯が一つあるだけだった。
遠くで野犬の遠吠えが聞こえている。それはこの場所が非常に危険な事を示すサインだ。
「計画的じゃないわね」
と、アイノアは呟く。
最初から殺すつもりであったのなら、実行前に死体を簡単に処理できるようにしていただろう。欲求最優先で自分本位に人を殺していたリコとは違う。
「でも、場当たり的にしては頑張っている方かな」
この行いは、おそらく隠し通せるはずだ。
まあ、それが幸運かどうかは不明だが、彼女の破滅は少しだけ先延ばしにされたわけである。
結果、ケイトはこのあとさらに二人の人物を殺すことになった。
レクナとリコの二人だ。
死体は仲良く、先に死んだ女と同じ場所に埋められた。
「こちらは計画的ね」
殺人も屋敷内では行わなかったし、証拠となるものも綺麗に処分された。一月ほどの時間をかけただけの事はあるといえるだろう。
おかげで、屋敷の空気は過去最悪となっていた。
行方不明になった二人。手がかりの一つもない事件。
ただでさえその前に殺人事件やらなんやらで、人を失っているのだ。ここまで悪いことが続き、まだそれが終わらないかもしれないという不安に晒されたら、キリアでなくとも心を保つのは難しいだろう。
今、彼の中にあるのは手錠をかけられたような後悔だけだった。
都合の良過ぎる貰い物の力を、都合よく使った事。それが今、因果応報のように自分に返ってきているのではないか、と考えたのだ。
キリアはもう限界だった。
次、誰かを失えば、それこそ本当に壊れてしまいそうなほどに。
「でも、これだけでは終わらない」
「……そういえば、まだ一人いたな。だが、そいつはとっくに屋敷から出ている。彼女まで殺す必要はないはずだ」
苦しげにイーリスは言う。
相変わらず、彼女のピントはどこかズレているようだ。
「死ぬのは別の人間よ。貴女の言う通り、ルチには殺される理由がないのだから」
「……三人にはあって、ルチにはない理由、か」
「思い当った?」
「……」
沈黙は、残念ながら肯定ではなく困惑を示していた。
つまり、イーリスにとってケイトはリコと同じ人種に見えているという事だ。
だがそれは違う。ケイトは普通の少女だ。特別な力も、異質な価値観も持ち合わせてはいない。それこそ他の女たちに比べてあまりに凡庸な人種だ。
特筆するべき点があるとするのなら、それは凡庸であることが弱さとイコールではなかった事くらいだろうか。
「彼女の理由は、おそらく誰もが抱くものよ。……ええ、きっと貴女だって共感できるはず」
むしろ、それが出来ない者の方がよほど普通とは程遠いのかもしれない。
アイノアは微かに目を細めて、次の場面に備える。
「――」
薄暗い個室。
ぎしぎしと軋む天井の音。
そして、糞尿を垂れ流す、首の伸びた死体。
罪人は最後に自らを裁き、そしてそれを最初に発見してしまった彼は、絶叫をあげながら独りになったことを突きつけられる。
(……あぁ、ダメね。ずっと我慢してたのに、ついつい先を視てしまったわ)
アイノアはクスクスと嗤いながら、ちらりとイーリスに視線を向けて――




