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26 傾慕

※※※2021/3/21より、本作の大幅改稿版『最愛なる猛毒、致死量の慈愛。』を連載しております。大まかな展開は変わりませんが、【演出】【構成】【台詞】【一話あたりの文字量の改変】等、読みやすさを重視した改稿となっており、また、本作では描かれなかった【糸子と星史のはじまり】を書き下ろしております。読まれる際には改稿版のほうを強くお勧めいたします。※※※




 十七年間、他人だった。




 『一学年総合成績 一位 仲村星史』



「普通科の人らしいよ、このひと。」

「はー……特進の立場ねーな。」

「ま、どーせ百香も旭も、圏外だから関係ないけどねー。」

「ごもっとも。」

「あっ、でもさすが二位以下は特進多いね。ていうか、雨宮さん、仲村くんと僅差じゃん。惜しいなあ。」

「アメミヤ?」

「ほら、二位の。雨宮さん、百香たちと同じクラスじゃん。」

「いたっけ? そんな奴。」

「いるよー。ほら、眼鏡の。」



 彼らとは、十七年間他人だった。


 最後の一年間、名前だけは、知っていた。



 でも、もしかしたら、彼らからすれば、



 ――――親に自慢しようと思ってさ、――――



 そのころから、僕は、



 ――――……い、いいい粋がってんじゃないわよ、クソガキ! ――――



 彼らの中に、居たのかもしれない。








 雨宮の復学と入れ替わるように、星史は学校に来なくなった。

 明確な理由は、判らない。

 ただ、彼が『信者』である下級生の襲撃を受けた件と、前件の殺人未遂を起こした女子生徒が揃って模倣の供述をし、『信者』であると判明したのは、あまりにも最悪なタイミングだった。


 此度は被害者であるはずの、星史への風当たりが、以前に増して強くなった。

 すべての元凶だといわんばかりに、まるで、疫病神か死神みたいに。


 彼がふざけて口にしていた、机に『死ね』の落書きも実現したし、花瓶が置かれた日もあった。他にも、たぶん、色々。


 それまでのいじめ被害に平然を貫いていた星史が、信者の判明以降早々に登校拒否を始めた理由は、僕にあるのだと、雨宮は言う。


「あんたを、あたしの二の舞にさせたくないのよ。」


 怖いくらい冷静に雨宮は言った。絶対、僕を許しているはず、無いのに。




 星史の机に置かれた花瓶を目にした日、僕のなかで何かが切れた。

 なるほど。人間、本当に「キレる」ものなのだ。気づくと普通科クラスに乱入していた僕は、花瓶を思い切り黒板に投げつけていた。

 知らない人間ばかりの教室で、知らない悲鳴があがり、知らない視線を浴びながら、僕は知らない、クソみたいな人間たち顔を、一人一人、全員見た。

 そいつらがどんな顔をしていたかなんて、覚えてない。


「旭くん、」

 星史が、呼びかけてきたからだ。


 叫んで制止するでもなく、湿った涙声でもなく、いつもの、ちゃらけた声で。


「バイク、乗りたいな。」

 振り向いた先にあったのも、あの、むかつく笑顔だった。



 揃って教室を後にした。その足で、要望どおり本当にバイクに乗った。授業も学校も、どうでもよかった。



 俺にはおまえがわからない。

 彼に対して思うには、あまりにも今更過ぎる感情で、声にすることが、却って難だった。だけど声にした。言葉にしてちゃんと伝えた。


 なぜ俺を咎めないのか。なぜひのでを怨まないのか。なぜ、公になってしまった秘密に、嘘をつかないのか。ごまかさないのか。なぜ、度重なる陰湿で悪質な行為に、抵抗しないのか。やられっぱなしで笑うのか。怒りはないのか。悲しみはないのか。なぜ、助けを求めないのか。


 数え切れない「なぜ」を、一気にぶつけた。


「仕方ないじゃん。」

 手応えのない答えが、心臓を突き刺す。

 しかたない、って……疑うようにおうむ返しをすると、星史は、「そ。仕方ない」なんて、追い討ちをかけるみたいに、くりかえした。


「実子である俺自身が、名塚月乃を受け容れてないんだから、世間が俺を受け容れてくれないことに、文句なんて言えないよ。」


 だから歯向かわない。逆らわない。当然の罰を、ありのまま受ける。星史自身が納得して決めた身の置き方に、僕が納得できるはず、なかった。


「世の中、愛された者勝ちなんだよ。嫌われた人間は、仕方ないんだ。」


 納得、できるはずがない。

「仕方ないわけあるかよ、」

 すべてに歯向かわないと決めた彼に、僕は歯向かう。

 おまえは自分で言ったじゃないか、母親は一人だけだって。名塚月乃なんて、産んだだけの女だ。実子も親もあるか。巻き込まれる必要なんてあるもんか。おまえの人生を仕方ないで済ませていいものか。そんな自論、くそくらえだ。


 熱くなる僕を見据えて、星史は涼しげに目を細めた。


「ほんとう旭くんは、ひとを好きになるのが下手だね。」

 はにかむように笑う。真っ白で幼いそのしぐさに、僕は少しだけ、むかついた。


「おまえ、本気で言ってんの?」

 ゆっくり、問う。

 嘘つきな子どもを叱りつけるように、わからず屋な頑固者に、言い聞かせるみたいに。


「今の、俺に対して。」

 見据える瞳を、みつめかえした。


 尚も星史は涼しげな表情(かお)を崩さない。僕の、ちんけなお説教なんて物ともせず、ヘルメットを被りながら帰り支度を始めた。


「ひとを好きになるのが下手なのと、ひとを好きになれないのは、イコールじゃないよ。」


 最後にそう付け加えると、何事もなかったように「学校、サボっちゃったね」と笑った。

 僕は、おとなげなく、やっぱり少しむかついて、無視してヘルメットを被った。黙ってエンジンをかけ、無言で出発する。例によって両肩に置かれた星史の手が、きゅっと指を立てた。



 ねえ、旭くん、


 信号待ちのとき、呼びかけられたのには、気づいていた。


「おれさ、前に、言ったよね?」


 メットのなかで篭った声は、エンジンに負けていなかった。


「他に、何もいらないんだ。お金も、学校も、友達も、家族も、」


 星史は、僕が本当は気づいていることに、気づいているのだろうか。無反応を貫いてもなお、声を篭らせ続けた。


「……なまえも。」


 おとなげないのは、お互い様だ。子どもじみたまま、僕らは一歩も譲らなかった。



 ありがとう おれは今でも ちゃんと幸せだよ



 ヘルメットの硬い感触が、こつんと響いた。




 翌日から、星史は学校に来なくなった。


 正当な欠席ではないと早々察した僕は、途方に暮れるように、昼休みの屋上を避けて、映写室に足を運んだ。

 そこで復学したての雨宮と遭遇し、くだんの台詞を投げつけられた次第だ。

「あんたを、あたしの二の舞にさせたくないのよ。」

 ぐうの音も出ないくらい頷けてしまう理由と、あまりにも冷静な彼女に、最初は困惑した。ぶん殴られても仕方ないと、踏んでいたのに。


「あたしが、偉そうな口、利けることじゃないわね。」

 しかし雨宮が自然に接してくれることで、僕も冷静になれてきた。なればこそ、おそらく星史の登校拒否の原因となった、自分の行動を恥じた。花瓶……割らなきゃよかったな。


「皆口。あたし、あんたが嫌い。」


 後悔に塩を塗るように、雨宮は突然言った。


「本当に嫌い。」

 恨めしく、というより、淡々と。

 ……まあ、何で今になって? とは突っ込みたい所だけど、面と向かって言われるのは、一応傷ついた。反応に困り、噤んで視線を伏せる。


「でも、感謝は、してるの。……あんたと、あんたの、母親。」


 また反応に困った。今度は視線を上げる。

 ん? 感謝? は? 母親? 僕の? は? 疑問符がいくつも頭上に浮かぶ。


「彼から、話は聞いてたから。」

 雨宮はそこまで言うと、僕のほうを向くなり、眉を寄せた。どうやら、話をまったく理解していない僕に気づいたらしい。

「――――だからっ、」

 はがゆさからか、机にばしんと手のひらを乗せて、声をあげる。


「あんたは、セージさまの味方! 助けたい! 違う?」


 言葉の区切り区切りで、何度も机をばしばし叩きながら言ってくるものなので、圧倒されつつも、僕は「お、おう」と頷いた。

「つまり、セージさまの話が、あたしの聞いたとおりだとするなら、彼の味方は、あんただけじゃない、でしょ?」

 何度も頷く僕をみて、雨宮も冷静さを取り戻してゆく。


 僕も、しだいにちゃんと、理解してゆく。

 彼女の、言いたい事を。


「助けて……くれんるんじゃないの? あんたの、母親も。」


 ……言葉足らずな女だ。まず、それを思った。

 次に、自分の意見を探そうとしたその矢先、ノックの音が阻んだ。


「あ……やっぱりここだった。」


 百香だった。雨宮にも目を配り、「糸子ちゃんも居たんだね」なんて、静かに笑う。



 百香は、星史の転落以降、穏やかな学校生活を取り戻した。

 むしろ、以前より高待遇を受けているかもしれない。学校からも、教師からも、手のひらを返したクラスメイトたちからも。

 疑惑の生徒から一転、悲劇のヒロインとなった百香には、ご機嫌取りを目論む連中から、今回の件に関連する情報が次々と流れ込むようになっていた。


「……あのね、旭。……ちょっと、旭には、いやな(はなし)、聞いちゃったんだ、」



 そんな彼女が口にする「いやな噂」は、あまりに、残酷すぎた。



 僕よりも、彼と、彼女にとって。






「やっぱり退学らしいよ、仲村星史。」


 百香に情報を持ってきたのは、クラスメイトの女子だった。『仲村星史』という、悪意のあるフルネーム呼びも、この際どうでもいい。肝心なのはそこじゃない。

 退学。

 その噂だけでもあらぬ事だというのに、どういうことなんだ。

 「やっぱり退学」……やっぱり、って。


 いじめによる、自主退学を意味するのか?

 ……いいや、そんなはずはない。そんな、いじめ加害者の生徒が「やっぱり」だなんて、まるでいじめ行為を認めるような台詞を、堂々と口にするはず無い。

 だとしたら、考えられる理由は、ただ一つ。



「圧力、あったのか?」



 繋がるまで何度も何度も掛けなおした発信に、ようやく折れて出た星史へ、単刀直入に聞いた。

 僕の憶測はおそらく、当たっている。

 学校側が退学を強要したんだ。

 きっと、訴えられない程度に、遠回しに。


「んー。まあ、たぶん旭くんの想像より、十倍は遠回しだよ。」

 星史はあっさりと、圧力のあった事実を認めた。


「なッ――――」

「はーい。怒るのストップ。怒ったら切るからね、電話。」


 声を荒げようとした僕を制止するように、釘を刺す。「ほら、深呼吸深呼吸」と、ふざけた口調で促してきたけれど、本当に通話を切られるのも困るので、従った。

 深呼吸を確認してすぐ、星史はまた軽い口調で、話し始めた。


「だって、普通に困るでしょ。毎日毎日報道陣の対応、授業だって進まないし、悪評ばかり付いちゃうし。現に、俺が原因で傷害事件、多発しちゃったわけだしね。他の生徒にも悪影響ってやつでしょ。」


 学校側を擁護しているかのような説明は、おそらく、彼自身が遠回しに言われた内容の数々なのだろう。想像するだけで、はらわたが煮えくり返ってきた。


「うちの親もさ、今の旭くんみたいに、そうとう我慢してくれたよ。」


 怒りが頂点に達する直前で、星史が言った。


「ほんと、我慢して、学校側(あいつら)の話、聞いてくれてた。」

 僕の懲りない感情を鎮めるみたいに、穏やかに言う。



「おれ、めっちゃ愛されてるから。」



 スマホの向こうで、嘘じゃない笑顔を点す彼が容易に想像できて、また、自分を恥じた。そしてきまり悪くなった。

 彼に、何て言ってやればいいのかわからなくなって、口を噤む。


「てかさ、暗くなりすぎじゃない? 何? 死ぬの俺?」

 察してか、ふざけただけなのか、星史は軽口をたたいて笑う。

「学校辞めるだけなんだから。ね?」


「やめるだけ、って、それなりに大ごとだけどな。」

 僕もようやく、笑い返せた。


「あと……さ、」


 だけど、どうしても外せない気懸りは、まだ残っていた。


「口にはしてないけど、めちゃくちゃ心配してるよ、……あいつ、」


 向こう側で、星史がどんな顔をしているかなんて、想像もできない。


「……雨宮。」


 どんな顔をしていてもいい。何を感じようと星史の自由だ。でも、雨宮の、歯がゆくてもどかしい苦悩だけは、伝えたかった。


 ……、

 ……、

 ……。


「……わあかったよー。」


 無言に沈黙で対抗し続けたところ、ようやく星史が折れてくれた。


「明日、学校行くから。んで、ちゃんと話す。それでいい?」


「くんのかよ、学校。」

「行くよー。荷物回収しないとだし。」

「親同伴?」

「無理無理。超目立つじゃん、それ。」

「一人でもかなり目立つけどな。」

「まじで? おしゃれしてかなきゃ。」



 ふざけあって、笑い合った。言葉は、選ばなかった。

 雰囲気も、守らなかった。顔色も窺わないし、小さな嘘さえつく必要も無く、身も削らない。


 おんなじだな。雨宮と、同じだ。


 十七年間他人で、最後の一年間、名前だけ知っていた、仲村星史と雨宮糸子。

 彼らは、僕の日常をぶち壊して、ぶち侵して、狂わせやがって、僕のなかに浸み込んでしまった。

 馴染んでしまった。もう、なくてはならないほどに。






 雲のぶ厚い朝だった。


「今日、星史来るって。」

 薄暗い窓のほうを向いて、肘をつく雨宮に、僕はぽつりと伝えた。


 電源が入ったみたいに振り向いて、目をまるくする。抑え込んでいたはずの感情を、表情だけで露わにしてしまう彼女が、いじらしくもあり、少々、不憫でもあった。


 此度の騒動で明らかになったのだが、雨宮は星史の連絡先を知らない。住んでいる所も、最寄りの駅も。

 まったく、どこまでも理解できない二人だ。それは置いておいて、つまり雨宮にとって仲村星史の情報を得るには、噂話か、本人から直に聞く以外、方法が無かったということだ。


 もどかしかっただろうな。

 ずっとずっと理解できないままの、彼女の心中が一部分だけ、痛いほど理解できた。

 早くきやがれ。曇天を眺めながら、星史に向けた。

 早く来い。そんで、何か言ってやれ。



「最後くらい、他人、やめろよ。」


 星史に向けた思いを、目の前の雨宮にも告げた。


「言ってやりたいこと、いっぱいあんだろ。」

 窓の外を眺める彼女と、同じように外を向きながら言う。


「……余計なお世話よ。」


 素っ気ない返事がちいさく鳴る。窓ガラスに反射する彼女を、ばれないようにみつめていると、ぽつぽつと水滴が模様を作り始めた。雨だ。

 天気予報、当たったな。バイクでこなくて正解だった。思ううちに、だんだん雨は本降りになってきた。



 時間の経過と共に、強くなる。

 アスファルトを、侵食するように濡らしてゆく。

 地面が、ぐちゃぐちゃにぬかるんでゆく。


 彼が現れないまま、刻一刻と、一日が過ぎてゆく。


 雨音が、校内の喧騒に、まじる。

 教室から、廊下から、所在不明などこかから、絶えず溢れる生徒たちの、声、声、声。話し声。笑い声。噂話に相談。ふざけた話。まじめな話。誰かを愛する声、蔑む声……。


 混じっていたはずの雨音が、喧騒に(まさ)ったのは、彼の訪れを報せる合図だった。




「きたよ……」




 誰かが言った。

 自由に散らばっていた声が、視線が、一瞬で野次馬に変わる。


 終礼間近、全校生徒が残るほんの僅かな自由時間に、星史は現れた。


 黒のパンツに、丈のあるカーディガン。制服姿の群衆のなかで充分に目を惹く私服姿で、堂々と廊下のど真ん中を闊歩し、ためらいなく教室へ入る。

 手際よく私物を纏めている間に、彼を見物するギャラリーはどんどん増えていった。廊下、階段、はては玄関まで、彼の通るであろう場所に、群がってゆく。


 しかしあくまで遠巻きに。

 声なんて、かけるもんじゃない。相手は人殺しの息子だ。

 下手にいじるものじゃない。今後の進路にだって影響する。



 そんな思惑がありふれる群衆を掻き分けながら、僕と雨宮は彼を追った。



 教室でも、廊下でも、玄関でも、群衆に阻まれて星史は僕らに気づかない。


 声を投げれば振り向くだろうに、雨宮はためらっていた。ためらうまま、気づかれぬまま、彼を追った。

 僕はぎりぎりまで待つつもりだった。

 雨宮に、星史を呼んでほしかった。



 だけど、行ってしまう。



 靴を履き、傘をさした彼が、遠ざかってしまう。

 校門の前にタクシーが停まっている。きっとあれに乗るつもりだ。

 行ってしまう。



 ふざけんな大嘘つき



 雨に霞む彼の背へ、うったえた。


 ちゃんと話すって 言ってたじゃねーか

 おまえが来るって報せたときの 雨宮(こいつ)の顔 教えてやろうか?

 めちゃくちゃ嬉しいくせに無理して堪えてすまして


 すげえブスだったからな


 絶対笑うからな?

 だから 最後に 笑ってやってくれよ

 他人のふりなんてやめてくれ

 学校(ここ)で 雨宮糸子と向き合ってくれ


「……雨宮、」


 おまえもおまえだよ 雨宮

 何が自分の意思だよ

 ふざけんな


「欲望……まっとうしろよ、」

 僕は、星史の去るほうへ、雨宮を突き飛ばした。



 ……おまえたちは

 僕が おまえたちの中に現れる前から

 おまえたちが 僕の中に住みつく前から



 とっくに 他人なんかじゃなかったんだろ



「――――……セージさまっ……!」


 降りしきる雨のなかで、雨宮は叫んだ。


「―――……、」


 星史が振り向く。僕と雨宮、順番に視線を行き来して、雨宮に、おちつく。

 そして、おもむろに踵を返した。雨宮へ、歩み寄る。


 ずぶぬれの彼女を、同じ傘の下で、みおろす。


「せいじ……さま、」


 向かい合う彼女の額を、指で弾いた。



「ブース。」



 いたずらに笑う。


「地味に痛いだろ?」


 白くて白くて、むかつく、無垢な笑顔。

 目をぱちくりとしながら停止する雨宮に、星史は囁いた。



「          」



 デコピンして笑って、彼女に何かを言い残して、星史は今度こそ去ってしまった。

 彼を乗せたタクシーが遠ざかってゆく。



 停止していた雨宮が突然走り出した。

 せつなに、僕は彼女を追う。


 校門を抜け、道路に飛び出す彼女を、咄嗟に、摑まえた。

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