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191ギュスターブ・フローベール『ボヴァリー夫人』.

大変更新の間隔が空いてしまい申し訳ありませんでした

体調不良と多忙が重なったのと面白い題材の本が見つからなかったことと

メインマシンが湿気で壊れてしまったためこの有様です

見に来てくださる皆様本当に申し訳ないです

とりあえず久々の更新ですので、気が向いたら何カメッージでも下さいな

 すっかり初夏の様相を呈してきたゴールデンウィーク明けの、放課後の図書室では窓を全開にし、吹き込む強い風に髪をなびかせている栞の姿があった。

 近所の雑木林から凄い濃い緑の匂いが流れてきて、噎せそうになる。

 密度の高い空気をかき分けて栞の隣に座ると、風がビュウビュウと吹き荒れてて、なんだか爽快であった。

 相変わらず難しそうな本を読んでいる栞の隣で、英語のテキストを広げると、栞はジトッとした目で「図書室は本を読むところですよ」と言ってきたので、アハハーと笑ってごまかし、次のテストがヤバいと訴えたら、本当に仕方ないなあといった表情で諦めてくれた。


「まあね、わたしもね、普段やらないだけで一生懸命集中すれば、英語なんてさくさくのサクーって覚えるのは火を見るのより明らかなんですよ」


 そう言って教科書をペラペラとめくり始めた。

 栞はなんだか、くつくつと笑いながら「フローベールみたいですね!」と知らない人の名前を挙げてきた。

 栞が言うのならおそらく作家なのだろう。


「フロベールって何?」


「ギュスターブ・フローベールです。フランスの写実派を代表する作家で、本人は嫌がってたらしいですけれど写実主義を極めているみたいな評価をされた人です」


「ふーん。そんなフランスの作家と私に何の共通点が?」


「フローベールは子供の頃から劇が好きで父親の勤める病院のビリヤード台をどかして、友人達と劇をしていたそうなんです」


「うーん? まだ特にわたしと共通点ないような……?」


「大人になってからセルバンテスの『ドン・キホーテ』を読んで、これは本の中の本だ! といったりゲーテの『ファウスト』や、もちろん劇が大好きなのでシェイクスピアを読んでいたそうです」


「ふーん、タイトルだけは知っているお話ね、とーぜんシェイクスピアも読んだことないけれど……」


「フローベールは尊敬するシェイクスピアに本格的に取りかかるため、英語を猛勉強します、そして友人宛に、あと一年も経てば、英語で簡単にシェイクスピアを読めるでしょうと書いた訳ですよ」


「あーわたしがこれからバリバリ英語攻略して英語ペラペラのペラになるという予言ね! 頑張っちゃうなあ~」


 そう言うと、栞はわたしに背を向け窓のサンに両手を乗っけて外の風を吸い込むと、詩織さん……実はフローベールは十年後にも全く同じ内容の手紙を送ったそうです」


「何それ、ちょっとウケるけれども……ってわたしと似ているというと言うことは相違事なの!?」


 栞はニッコリと眩しい笑顔をこちらに向けて「んーふっふっふ」と笑った。

 こいつ……時々辛辣なんだよなあ……と思いながら早くも英語の勉強をする気が起きなくなっていた。


「そんな適当な作家が凄い作品残してたのぉ~?」


「してますぅ~。じゃあ一番有名な作品をお出ししましょう」


 そういってテケテケと本棚の影に隠れると、すぐに「ありました」と言って戻ってきた。

 栞から手渡された本は『ボヴァバリー夫人』と書いてあった。


「てか、文庫本なのに分厚っ!」


「六〇〇ページはありますからねえ」


「一生かかっても読み切れない……」


「まあ松岡正剛が、読みたいと思っていても何年も読めない本とか、逆に読む気がなかったのに読むのは「読機」といってその時の自分に合った作品があるはずだ……と言う話なので今読まなくてもいつか読むかも知れないと思って、タイトルだけでも覚えてください」


「うーん……読書チャンス来るかなあ……?」


「じゃあ『ボヴァリー夫人』の読みたくなるトリビアでも行きますか?」


「是非お願いいたします……」


「『ボヴァリー夫人』に取りかかる前に、心底書きたかった作品で『聖アントワーヌの誘惑』という作品を書き上げ四日間にわたり二人の友人に朗読して見せたんですけれど、大分辛辣なことをい言われケチョンケチョンに貶されます」


「四日間も付き合った方も大概人がいいな……」


「で、君はドラマールの事を書かないの? と、言われ、なるほどと思ったそうです。ドラマール事件として田舎に語り伝えられたスキャンダルで、フローベールの父の知り合いだったらしいドラマールは若い女性と結婚するのですが、夫人は真面目な夫と対象に、つまらない田舎暮らしに耐えかねて自由に不倫を楽しみます。不倫だけならまだしも出入りの商人に騙されてあちこちで借金を重ね、ここからは言い伝えなんですが不倫相手に助けを求めたら殴られ、借金を返すめどもなく自殺してしまいます。これかドラマール事件です」


「好き勝手にやっているなあ」


「妻が亡くなった後も、膨大な借金は残り、破産してしまいます。そうしてこの世に未練のなくなったドラマールは、幼い娘を残して自ら幕を引きます……」


「メロドラマみたいな話」


「そうです、ありふれた話なんですよ。この話をほとんど変えずにありふれた不倫話を芸術に高めたのがフローベールなんですね」


「へぇそれがそんなに画期的だったの?」


「まあお話には続きがあって、フローベールを気に入らない人物が、猥褻、非道徳的、教会を侮辱していると言って訴えたため出版は差し止めになったんですね。フローベールの方も腹に据えかねて、自分で速記者を雇い裁判の一部始終を記録していたんですね。まあ和訳もあって我々でも読めるんですが、難癖ばかりつけていて、そりゃ負けますといった内容でした」


「何その巻き込まれ事故みたいな……」


「でもですね、この話のおかげで『ボヴァリー夫人』が爆発的に売れます、怪我の功名というやつですね」


「そういうこともあるんだねぇ、よかったよかった」


「で、この後は順調にいって、例の『聖アントワーヌの誘惑』をリライとして、更に改稿した『聖アントワーヌの誘惑』を出します。三パターン目ですね。ボロクソに言われた割には作家としてはどうしてもこだわりたい主題だったそうです」


「フローベール……ビッグなっちっゃて……」


 わたしも栞の横に立って外の空気を吸った。

 とても緑の濃い大気が胸を満たし、思わず噎せそうになる。


「『ボヴァリー夫人』は早い段階で日本も紹介されていたようで一九一六年に中村星湖という作家が翻訳しています。ただここでも検閲に引っかかり出たのは一九二一年に出されたのが最初です。これまた発禁が話題になってドカンと売れて中村星湖は入ってきた報酬でフランス留学をしたというからたいした物ですよね、この時のタイトルは『ボヴアリ夫人』と見づらいタイトルだったりします」


「ストイックすぎる……」


「まあその後で日本語訳も十五種類ぐらいあるようで、偉大な作品と捉えられているようです」


「他の外国ではどんな感じなの?」


「有名どころではつい最近なくなったペルーのノーベル文学賞作家、マリオ・バルガス・リョサがこの本にドハマりしていましたね。スペイン語訳だと思うのですが六回も連続して通読し、物語の医者の妻役のエマが亡くなるところで何度も泣いて「エマは私だ」とまで言っていたそうです」


「へーペルーにもノーベル賞作家いるんだ……それよりもそんなに感激してどうなったの?」


「フロベールのファンボーイと化したリョサは『果てしなき饗宴』というフローベールというか『ボヴァリー夫人論』を出していたり『若い小説家に宛てた手紙』という文通をしている作家志望の青年に、一冊丸ごと『ボヴァリー夫人』をテキストにハウトゥーを伝えます」


「ほへーん、脳味噌を灼かれたか……」


「後は自由間接話法という文章技術を広める一端になったことですね、どんなのかというと「私」の語りに名前や存在を出さず、地の文章に埋め込んだような語り口を言います。本当にザックリとしていて正確な物ではありませがそんな感じです」


「日本人なのに日本語の文法が分からない……」


 そう言うと栞は、あははと軽く笑い眩しそうにこちらを見つめてくる。

 私も栞の顔を見ると眼鏡が光って表情ははっきりと読み切れなかった。


「『ボヴァリー夫人』はそれだけ凄い作品なんですよ……」


「うーん、わたしにも「読機」が巡ってきたら読んでみようかなあ~」


「まあ本なんで娯楽ですから全然読まなくても大丈夫なんですよ。読むタイミングが来た時に読む、それでいいんです。権威のある作品だから読まなくてはなんてこともないんですよ」


 そう言って栞は図書室の指定席に戻ると、わたしに向かって「十年後まで勉強が終わらないのは嫌でしょうから、わたしに出来る範囲で教えてあげますよ」といって青リンゴの様に笑った。

 わたしは、わたしにもいつか本を読む機会があるのだろうかと強い風の吹き込む図書室の中でボンヤリ考えながら栞に身を寄せた。

 読書は娯楽、そういった栞の考え方が少し別った気がした。

『ボヴァリー夫人』はモームの『世界十代小説』でも取り上げられているほどの作品です

因みにモームはフローベールの『感情教育』については、これほど面白くないのも凄いとかなり下げています

とりあえず今後はもう少しコンスタンスに更新できればと思いますので付き合ってやってください

いつまでもだらだらと続けていく予定ですのでよしなに

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