179青崎有吾『地雷グリコ』
謎解き要素のある作品は本当に紹介が難しいので、変な方向に話が飛んでいますがあまり気にしないでください。
「なんか読書すると凄いリラックスできる気がするっいう研究結果アメリカのどっかの大学が出したの知ってる?」
「出来る気がするというか、ストレス発散の力が凄いっていう話ですね」
模試が終わって、ストレスフルな生活から解放され、なんとなく聞いたことのある話を栞にふってみた。
「読書をすると海馬が大きくなったり色々と健康にいいらしいですよ?」
「かいば?」
「ほら、脳の中に入っている記憶とか感情のコントロールとかを司る部分ですよ。酸欠になると一番最初に壊れたり、睡眠不足、飲酒なんかでも縮んでいく器官なんですけれど、脳の中で唯一縮んでもまた回復することが出来る部位だそうですよ」
「あー海馬ね、流石に知っているわ。ってか回復するんだ」
「読書は健康にいいですよ!」
「なんかさ、たまには娯楽超大作ーみたいな本オススメしてよ! 今だったら集中して読める気がするし」
「そうですね、一週間の内に日本推理作家協会賞と本格ミステリ大賞小説部門と山本周五郎賞を取った『地雷グリコ』という作品はどうでしょうか? 実はお勧めしようと思って丁度今持ってますよ」
「へーミステリなんだ、あんまり読んだ事ないかも」
「ミステリというか頭脳バトルゲームですよね。漫画で昔やってた『嘘喰い』の人が死なないバージョン見たいってよく言われているそうです」
「へーそういうのでもミステリ扱いなんだ」
「SFもファンタジーも広義のってつけると何でもありになりますからね……」
「で、どんな話なの?」
「構成の話をすると、五つの短編から出来ています。まず表題作の「地雷グリコ」それから「坊主衰弱」それから「自由律ジャンケン」次が「だるまさんがかぞえた」そして「フォールーム・ポーカー」この五つの話から出来ているんですが段々戦う相手が強くなっていったり、賭けるモノが凄くなっていくという賭け事頭脳バトルです」
「もうタイトル聞いても全然分からないんだけれど「地雷グリコ」ってそもそも何?」
「ジャンケンしてグーで勝ったら「グリコ」で三段階段を上がってチョキだと「チヨコレイト」で六段、パーで「パイナツプル」で六段です。それに階段にお互い三つ隠し地雷を設置して踏むと十段下がるというゲームです」
「あれ? チョキは五段でパーは六段じゃなかったっけ?」
「まあローカルルールはいっぱいありますよね。因みに詩織さんの言った条件の場合だと相手がランダムに手を出すと仮定した場合チョキを出し続ければ必ず勝てるという必勝法があるんですが、まあそれはネットででも探してみてください」
「えー気になる言い方ヤメテ……」
栞は無視して続ける。
「で、ですねこのゲームを学園祭で一番集客が見込める屋上の使用権を巡って戦うわけですね、戦うのはゆるふわギャルの射守矢真兎、相手は椚先輩という冷静な無敵の勝負師なんですが、どの手で勝っても三の倍数というのがこのゲームのキモなんですよね。勝ち筋については私でもなんとなく読めちゃったんですが、その後の勝負はイカサマあり、裏駆け引きありでついて行けなくなります。あ、もちろん意味が分からないという意味ではないですよ。凄い駆け引きがあるんですね」
「へー何か面白そう」
「重版何度かかかっているみたいなんですがあっという間に売り切れになっている状態ですね、ネット書店なんかだとすぐに売り切れになっているようです」
「いいねぇ今流行のって感じがしてとてもいい!」
「勝ち方が気持ちいいんですよね。圧倒的劣勢に陥った後で全てをひっくり返すっていう勝ち方なんですよ。どう戦うかではなくてどう勝負にのせるかっていうのが重要なんですよね、いちど勝負に乗っちゃえばイカサマされてても気づかない方が悪いで処理されるので、嵌め殺しに出来るわけですね。もちろん相手もそれを狙っているんですが真兎がその上をゆくという訳です」
「へーいいねぇそういう頭いい人バトル楽しそう」
「メイン視点は鉱田という人で、この人が真兎の介添人をやってて全部の勝負に立場はまちその時によりけりですが立ち会う訳なんですよね。そしてこの鉱田という人と真兎そして最後の敵との関係性が物語のバックボーンとして描かれていて、こちらも見物で、そういう意味では頭脳バトル賭博小説というだけではなくて青春物としても上手いことやっているなあという感じですね。実際受賞した時に青春物としてもよく出来ているという評価がありましたしね」
「へーなかなか面白そうじゃないの! 早速貸してよ! わたしも読んで町中で頭脳バトル仕掛けられた時に戦えるようにするから!」
「何言ってるんですか、町中で頭脳バトル仕掛けられるってどんな状況ですか!」
「んー……思い浮かびません……」
そらそうだという表情を浮かべて栞がアホの子を見る目で視線を投げかけてくる。
頭脳派バトルの主人公になるはずなのに……!
頭脳派から最も遠いアホの子という評価が下されようとしている今なにかひっくり返す発言をしなければ……!
「よし! 頭脳派バトルしましょう……!」
「……はい!?」
「ゲームは野球拳ねジャンケンして勝ったら脱いでいくの」
「負けたら脱ぐんじゃないんですか……?」
「ああ、まあどっちでもいいや! 勝っても負けても脱いでいって最後の一枚まで剥かれたら負けね! よし始めましょう頭脳派バトルの始まりです!」
「全然頭脳派じゃないし、そもそもルールがあやふや過ぎる……ただ単に脱ぎたい人の言い訳としか聞こえませんよ!」
「わたしは栞なら全部見られてもいいし、栞の裸なら丼ご飯もって観察する意気込みはあります。意気込みを買ってください!」
「何いってるんですかこの人は……ただの痴女じゃないですか!」
「痴女! まるで人が痴女のような言い分じゃない!」
「のようなではなくてそういっているんですよ!」
「頭脳派バトルは奥が深い……」
「まあ実際本の中で出てくるゲームは普通のゲームにプラスアルファの要素をつけたゲームが多いわけなんですよね。それでゲームがばっと複雑化して戦略性に富むわけ何ですからゲームの幅が広がってそう言うのを見るのも一つの楽しみな訳なんですよ」
「なるほど、地雷野球拳とかにすれば戦略性が……」
「出ません」
栞がぴしゃりと強くいい放つので思わず、しょんぼりーんとなってしまう。
「何ですか! まるで私が悪いみたいじゃないですか! そう言うのは本当によくないと思いますよ!」
「やだ、栞の肌が見たい……肌の露出が多いほどいいと古来よりいわれている……」
「出典を示してください」
栞のもっともな言い分を無視してブツブツ言っていると栞は「しょうがないですね……夏休みになったらプールか海にでも行ってみましょうか? プールだったら近くにあったはずですよ」
「水着……栞の水着……」
じゅるりと涎をすすると、ニッコニコの表情で「水着一緒に選びにいこ?」と誘う。
「しょうがないですねえ……いいですよ。その代わり期末テストで今より上の成績がとれればお付き合いしますよ」
「なんでそういう残酷な条件を入れるかなあ……今でも割と頑張っている成績だと思うんだけどなあ……」
「頭脳派バトルのまえに基礎学力つけなければ何にも役に立たないですよ。頭脳派バトルに町中で挑まれる確率よりは小テストに遭遇する確率の方が高いですからね?」
「分かったよしょうがないにゃあ……そのかわりわたしが選んだ水着を無条件で着てよ?」
「なんでそうなるんですか?」
「そうなることは明確に明らか……」
「話の通じない人ですねえ……」
わたしたちは頭脳派とはおおよそ遠い話をキャッキャとしながら初夏に入り、やがてくる夏に向けての楽しみを探してわいわいと話あっていた。
ドストエフスキーの『地下室の手記』と『地雷グリコ』どっちご紹介するか迷った末にこんな為体二成りましたが許してください。
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