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178村田沙耶香『コンビニ人間』

SDカードリーダーが奇跡的に息を吹き返したので更新します。

多分取り上げたのは初めてのはずの芥川賞作品です。

海外のバイヤーに芥川賞作品売りやすくした一冊です。

英語翻訳はたしか2018年、鯛の醤油さしが表紙の本です、

「お金欲しい……」


「唐突ですね……お金が嫌いな人はあんまりいないとと思いますが……」


「いやね、遊ぶ金欲しさにバイトしたいなって思ったんだけれど、学校に申請するの面倒くさいし、親は勉強がおろそかになるの一点張りで、かといってお小遣い増額してくれるわけでもなく、貧困に喘いでいるわけですよ」


「んま! 遊ぶ金欲しさとは素直でいいですが、詩織さん多分バイトしたら今度は時間がないとかいって勉強をおろそかにするはずですよ……!」


 栞のド正論を右から左へと聞き流しつつ「それにつけても金の欲しさよ」と呟いてみたところで特に同意は得られなかった。


「栞はお小遣い足りてるの?」


「まあ詩織さんと遊ぶためのお金ぐらいは……まあ高い本欲しくなった時なんかは、我慢しないと何ですけれど、読みたい本は大抵すでに父が買っているので、そんなに困窮したことないですね。映画に行ったり、偶に何か軽く食事をするぐらいなら困らないと思います」


「はあー栞さんはいいですなぁブルジョワジーでいらっしゃる!」


「さんづけは……」


「はいはい。さん付けはヤメテでしょ? 分かっているって!」


「まあそうですね、一番お金がかかる趣味の部分が父の財力でどうにかなっているのは確かに助かっていますね」


「いーなぁー共通の趣味! 家から五分の所にあるコンビニでバイト募集してたから、一度そこに連絡取ってみるかなあー」


「コンビニのバイト舐めない方がいいですよ、昔と違ってやることだらけですからね。外国の方が片言でバイトしているの見掛けますけれど、片言とはいえ日本語使える分、二カ国語操れるわけですから、私たちより大分賢いし、日本に留学している人多いから国に帰ればエリートコースの人たちですよ」


「ふぅん……なんか落ち着いた喫茶店とかの方がオシャレだし暇そうでいいのかもねぇ……」


「それはそれで喫茶店舐めているようにも思えますけれど、コンビニほどやることは多くないんじゃないですかね?」


「でも近いのいいよね! 歩いて行かなくてもチャリンコだったら二分ぐらいだし……」


 栞は呆れたという視線をわたしに絡みつかせる。


「そんな詩織さんにお勧めの本がありますよ!」


「なになに? お金持ちになる方法?」


「違います。第百五十五回芥川賞受賞した村田沙耶香の『コンビニ人間』です!」


「あ、何か聞いたことある。でも芥川賞とかってジュンブンガクーってヤツで難しいんでしょ?」


「私も昔、芥川賞作品読んだ時にあまり面白くないなと思ってずっと手をつけていなかったんですが、これは面白いですよ! 純文学とはいうもののエンタメ的に面白くなければ賞を取れないというのはノーベル賞なんかと同じだと思います。まあそんなに数多く読んだわけではないんですが確かに振り幅大きいのでなんともいえないところはありますが、今ご紹介した『コンビニ人間』はちゃんと面白い方の芥川賞作品ですね」


「ふーん。わたしも名前聞いたことある気がする程度には有名だからそんなもんなのかなあ」


「日本の翻訳家が芥川賞作品を海外向けに翻訳して売り込みたい時に、特に米国の現地エージェントからは「短い作品は人気がないから売れない」っていわれて、中編小説が対象の芥川賞作品はなかなか売れなかったんですが、この『コンビニ人間』が売れてからは芥川賞作品も積極的に翻訳されるようになったようですね」


「へーやるじゃん『コンビニ人間』」


「因みに中国だと『人間便利店』英語だと『コンビニエンスストア・ウィメン』というタイトルになっているようです」


「『人間便利店』て……「ウィメン」ってことは女の人が主人公なの?」


「はい。三十六になる古倉さんという人が主人公です。大学一年の時にオープニングスタッフとしてオフィス街のスマイルマートにバイトとして入ったまま卒業後もバイトして残り、気づけば三十六。人間の中の水が二週間で入れ替わるように、オープニングスタッフとして入った人どころか、店長すらも何度か変わり、変わらないのは古倉さんだけとなった状態からスタートします」


「就職に失敗したの?」


「いえ、就職しろとはいわれたもののコンビニからどうにも離れられずにいたんですね。過去の話が出てくるんですが人の気持ちが今ひとつ分からない人で、書いてあるわけではないんですがどうにも軽い自閉症か発達障害の気がある人なんですね。人の気持ちが分からないからみんなが笑えば真似して笑い、話の内容に何の興味もないけれどなんとなく話を合わせている……そんな人です」


「なんかお辛くなってきたなあ」


「で、まあ人手不足で人を雇ったら白羽さんという、身長百八十センチ越えでガリガリにやせた男の人が入店してきたんですね。だけどこの人がもう滅茶苦茶で仕事はさぼるは、気になった女性客の荷物の宛先写真で撮って首にされちゃうんですね」


「いいとこなしじゃん!」


「で、他人のことは平気で見下して古倉さんにもコンビニみたいな底辺バイト十八年も続けてどうかしているみたいなこというんですよ。縄文時代から男女の間は変わらない。狩りが上手い強い男だけがいい女を選べて、その他は残り物同士慰め合うだけって縄文時代理論をみんなに言って回るんですよ。面接の時から態度悪くて、人手不足だし仕方なしって訳で採用されるんですが、まあそんなだから首にされる訳なんですけど、そんなに見下している底辺バイトに応募した理由は婚活だっていうから驚きですよね。みんなから白い目で見られてあっという間に首にされる訳ですけれど、人の心がよく分からない古倉さんだけは白羽さんの事を特に悪感情を持たずに接している訳なんですよ。そんな古倉さんのことも凄い見下しているんですが、ここで転機が訪れます」


「どーなんの?」


「いい年してバイトのままで結婚しない古倉さんに友人達はなんで結婚しないの? なんでバイトのままなの? とバーベキューパーティーで不審げな目で見つめるわけですね。それで首になった白羽さんを自宅のアパートで飼うことにするんですね」


「驚きの展開……」


「家族もコンビニの仲間も、白羽さんの性格の悪さを忘れたかのように古倉さんやるじゃんとワイワイいうんですね。家族もようやく真っ当になったと喜ぶわけです」


「手のひら返しが凄い……!」


 栞はそこまでいうとペットボトルの麦茶をごくごくと飲み始めた。

 喉が上下に揺れて薄らとした汗が喉元に光る。


「で、白羽さんは古倉さんのこと見下しているので、付き合うとかは絶対にないというようなことをいうんですが古倉さんは何を言われても気にする様子はなく白羽さんに怒る事もせず飼っているんですが、バイトの給料だけで白羽さんの面倒まで見切れないとなった時に白羽さんが仕事を見つけてきて面接を受けてこいとなるんですね。ここでちょっと面白いのが二週間で体内の水が入れ替わるといったように、白羽さんを飼い始めてから二週間でコンビニを辞めて、二週間後に面接の予定が入るわけです。ここら辺意識しているんでしょうね」


「考えて書いているんだねえ……」


「でまあ色々あって面接に行くんですが、さてどうなるかというところで古倉さんが目覚めて話は予想もしないところへと着地するんですよ。私はこれは壮大なギャグだと思うんですが一般的には人間の生きづらさと、モノ化する人間というテーマで捉えるそうですね」


「モノ化する人間ってどーいう話ん?」


「人間としてみられず社会の歯車にされてしまい、その役割を演じる事だけを求められるということでしょうか? 人間扱いされず便利ロボットとして扱われることですね。産業革命の時に人間は筋力だけを提供して、考えるのは上の人たちだけでいいという考え方が普及して、その結果フォード式の流れ作業が生まれたなんて壮大な話になってくるのですが、そこら辺は深く考えずにチグハグな人間のやりとりの面白さとかをまずは味わえばいいんじゃないですかね。人間の生きづらさとかは深く考えたい人向きのテーマですよ」


「へーモノ化する人間とかは正直よく分からないけれど、ダメ男飼っている人の話は面白そう……」


「そういう読み方でもいいと思いますよ。深刻になる必要はないわけで、読みたいように読んで楽しめれば勝ちですから!」


「でもジュンブンガクかあーエンタメしているといっても難しそう」


「先ほどもいいましたけれど芥川賞は中編小説が対象なので二時間もあれば読み終わっちゃいますよ!」


「それいいね! 読む気になってくる!」


「じゃあ明日持ってきますね」


「でも外国語に訳されて人気出るとか凄いね」


「英語版読んだ人によると、呼び方の敬称の「さん」がない上に丁寧語が英語だとないので、白羽さんはかなりぶっきらぼうというか、バイオレンスな強い言い方でみんなに話しかけているように見えるけれど、日本語版読み直すと丁寧語で話しているので面食らうそうですね」


「翻訳の限界か……」


「まあそういう所ですかね……詩織さんはまだコンビニバイトやりたいですか?」


「んーまあ今のお小遣いで我慢するか栞に勉強手伝って貰ってお小遣いアップ狙うするかなあー」


「バイトは諦めましたか」


「いや、栞と一緒にこうやってだべる時間がなくなるのがもったいないかなあって思って……」


「んま!」


「えへへ。これからも変わらないわたしをよろしくお願いします!」


「わ、わ、私もよろしくお願いします……!」


 そう言って栞はまたペットボトルの麦茶をごくごく飲み出して、汗を煌めかせながら、何か慌てたようなそぶりを見せた。

 そろそろ梅雨の季節がくるなあとボンヤリと頭の中で繋がらないイメージをかき回していた。

次は早い内にといってもう一月が経ちます。

見守っていただいた方々には本当に申し訳の無いことです。

読んだ本は何冊かあるので、今度こそリズミカルな更新を心がけたいと思いますがどうなるかはまだ分かりません。

これに懲りずお付き合い頂けたらなと思います。

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