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174森見登美彦『シャーロック・ホームズの凱旋』

珍しくエンタメに振り切った作品のご紹介です。

ネタバレになるような所は特にないと思いますが、気になる方は先に本を読んでから見て頂けたらなと思います。

「エンターテイメントの作品が読みたいです」


「突然どうしました、藪から棒に」


 図書室ではダルマストーブがガンガンに焚かれ、外でごうごうと唸る風に逆巻く雪に抵抗していた。


「いや、ほらさ。栞がオススメしてくる本って基本的に純文学? なのかな? もっと気軽にめて楽しいヤツ読みたいなと思ってさぁ」


「別に純文学ばかり推しているわけでもないですけれど、まあ確かに頭を使う読書をした後はデザート的に軽いエンタメ作品読みたくなったりはしますね」


「ほらほらでしょう? 栞センセでもそういうの読みたくなるんだからわたしだって読みたくなるわけですよ」


「うーんそうですねぇ……ここ最近『シャーロック・ホームズ』物が何冊か刊行されたのでシャーロキアンぶって、ホームズ物さらってみましょうか」


「あ、わたし小学校の頃に図書室のホームズものちょっと読んだだけだから元ネタとか全然知らない」


「大丈夫ですよ。私も『シャーロック・ホームズ』ほとんど読んだことないですからネタバレとか特に有名な物を何個か知ってるぐらいで、ほとんど内容知らないんです。昔からミステリって特に理由はないんですがあまり読んだことないんですよね。この機会にホームズものに触れるのもいいかなと思って買ってきた本があります」


「何々? おせーて」


「ジャジャーン! 森見登美彦『シャーロック・ホームズの凱旋』です! しかもサイン付きのものを手に入れました」


「ジャジャーンて……森見登美彦はわたしも好きだよー。映画で『ペンギン・ハイウエイ』とか見たけど面白かった。一時期ブログとかも見てたなあ……」


「そうですね。森見登美彦氏というのは非常に優れた作家で、京都を舞台にした作品を中心に色々な芸風を確立しています。今回ご紹介する『シャーロック・ホームズの凱旋』はヴィクトリア朝京都というトンチキな世界設定で展開されるホームズのパスティーシュなんですね」


「パスティーシュ? なんか聞いたことあるけれど意味はよく知らない」


「まあ作品模倣というかパロディっぽい感じの物と思っていただければ大体あってるんじゃないですかね」


「模倣ねぇ」


「『シャーロック・ホームズ』は人気の作品だし設定も魅力的なので模倣する人は一〇〇年以上たった今もなくなることはないんですね。そこで森見登美彦氏なりのパスティーシュとして出来たのが『シャーロック・ホームズの凱旋』というわけです」


「ほへーん。ミステリなの?」


「それがミステリ風ではあるけれどいつも通りのファンタジー要素が強い作品となっています。あまりネタバレになることは避けますがとりあえず先に進みましょう」


「よろしうおねがいします」


「天才ホームズの才能が消え去って空前絶後のスランプに陥っているという設定なんですね。原作ではホームズが解決したハズの事件が全部空振りに終わってたりするんですよ。新聞では面白おかしく取り上げられてはホームズの機嫌が悪くなるという悪循環です」


「森見登美彦も大スランプの時期あったよね……」


「その頃の体験が生きているんだと思います。とにかく絶不調で寺町通り221Bというホームズのねぐら……原作だとベーカー街なんですが、ここら辺にも京都の雰囲気が出てますね、とにかく引きこもっては何もしない日々が続きます」


「ワトソンはどうなっちゃたの?」


「ホームズと一緒に冒険をして解決してきた記事を雑誌社に載せてガッツリ稼いでいたので生活計画が破綻してしまっています。ワトソンの奥さんのメアリも、ホームズさん呼びからいつの間にかあの人呼ばわりになってしまい関係は最悪です。そしてハドソン婦人が管理人を務めるホームズの家の三階にはジェイムズ・モリアーティが引っ越ししてくるのですが、この人も大スランプでホームズのヴァイオリンがうるさいと殴り込んできたりもしたけれど、ホームズ達にたまたま助けられて一命を取り留めた後は、数学や物理の研究に取りかかっても何も出来ずにいるので、そのままスランプ仲間としてホームズと一日中空論を言い合い傷をなめ合うというどうしようもない関係に陥るのです」


「原作のホームズ知らないけれどそんな感じなの!? あとモリアーティって一番悪いやつじゃなかったっけ?」


「そこら辺は話の根幹に関わってくるのであえて言いませんが、ヴィクトリア朝京都のモリアーティ教授は少なくともいい人ではあります。まあ人物評はこのぐらいにしておきましょう。読む楽しみがなくなっちゃいますからね」


「あ、そうそう。たしかワトソンの奥さん裏で静かに死んじゃうんだよね? あれはどうなっているの?」


「哀しい別れがあったというヤツですね。基本的に森見登美彦という人はハッピーエンドが好きなようなので、みんないい感じの所に落ち着きます」


「ハッピーエンドで終わるならストレスなくていいかもー」


「それが中々読んでいてワクワクするというところに到達するまでには時間がかかって、ホームズ何をしているんだ! となっちゃうんですね。ストレスフルとはいわないけれど爽快な展開になるのは結構後の方です」


「でもいいところに落ち着くんでしょ?」


「それはもう、はい」


「だったら読んでみる! 森見登美彦って面白い作品ばっかり書いているっていうし、エンタメも読みたいし……」


「いいですよ。こちらのサイン入りの本お貸しします」


「サイン入りって汚したりしたら怖いな……」


「詩織さんのことは信用しているから大丈夫ですよ」


「その信頼感が怖い!」


「汚したりしたら私は詩織さんに対して何かよからぬ償いを提示するやも知れませんね。ウェヒヒ」


 栞がしたから覗き込むように奇矯な笑い声を上げるのでわたしは思わず背筋に寒いものが走った。

 犯される……!

 その時素直にそう思ってしまった。


「詩織さんなんか私に対してよからぬ印象を持ってやしませんか?」


 見抜かれとる……。


「栞はホームズ並だなあ……」


「いや、推理でも何でもなくて、その挙動不審さから導き出した結果ですよ……」


「おのれ栞め! 人の心を見抜いてみせるなど……」


「そんな大げさなもんでもないですが……ああ、そうそう『シャーロック・ホームズの凱旋』はファンタジー色強いといいましたけれど確かに推理パートはほぼ皆無といった感じなので、シャーロキアンといわれる人の評価を聞いてみたいですね。因みにアメリカなんかだとホームジアンなんて呼ばれたりするそうですね。お国によって様々な受容のされ方がある辺りは世界のシャーロック・ホームズ様といっていいようですね。それを象徴するようなサイトがあってですね、ちょっとお待ちを……」


 栞がスマートフォンを取り出しぽちぽちとやっている。


「これですこれ。「コンプリート・シャーロック・ホームズ」というサイトなんですが長編四作品、短編五六作品の全六十作品が全て日本語で、しかも無料で読めるという凄いサイトです。ストランド・マガジンに掲載された時の挿絵もほぼ全て網羅されているということで是非読んでみたいなと思っている所なんですよねー。熱意が本当に凄いですよね」


「ただでそういう作業してくれる人いるんだ……青空文庫みたいだね……」


「結局そこなんでしょうね。とにかく読んでくれーっていうパッションに満ち満ちているファンが一世紀後にもいるというところがアツいですね。とにかく詳しい事いっぱい書いてあるので暇な時にポチポチ読んでみるといいと思います」


「ふぅーん。オススメは何かある?」


「私もまだ読んでいないんですが、日本語でほとんど訳されていない作品の一つに「三人ガリデブ」という作品があってそれ読もうかなと思っています」


「ガリなの!? デブなの!?」


「ガリデブさんという人が出てくるお話らしいです」


「今日一番ためになったわ……」


「そんな……森見登美彦氏は……」


「あ、いやそっちも読むけれどもね。それにしても雪止みそうにないね……」


 外を見るとまだまだ雪が降ってくる。

 先週まで五月ぐらいの気温だったとは信じられない。


「そうですね……寒いですね」


 そういって両手にほぅと息を吹きかける。

 わたしはなんとなくその両手をがしっと握ってしまい「冷たいね」といった後自分が何をしているのか分からなくなってしまった。

 栞も気が動転して「わわわ」なんていっているけれどこの行動の裏に隠された秘密はおそらくホームズでも解けないだろうと思った。

レイナルド・アレナスにするか森見登美彦作品にするかで悩みましたが、たまにはエンタメも良かろうと思い書いてみた次第です。

気の触れた作家の作品はまた今度にするとしてみんな大好き森見登美彦ワールドへ飛び込んで頂けたらなと思います。


感想、突っ込み、雑談何でもあれば感想欄に放り込んで頂けると励みになります。

そこまでするのは面倒という向きの方には「いいね」ボタン押して頂けるとフフッ手成のでよろしくお願いいたします。

ではまたなるべく近いうちに……!

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