166澁澤龍彦『高岡親王航海記』
非常に面白い作品です。
『旅のラゴス』に似た感じの作品ですね。
旅物は物語の原点みたいなところがあるのでいつか自分でも書いてみたいなと思いながら、この作品の幻想に圧倒されました。
「文学の一つの魅力は、自分を知らない世界に誘ってくれることだと思うんですよね。だから自分は海外文学、いわゆるガイブンというジャンルが好きなんですが、日本にも凄い本があるのでした」
唐突な栞の語りかけに「お、おう……」と挙動不審な対応を示してしまった。
「詩織さんは文学というかもっと軽くて本に何を求めてますか?」
「うーん難しいなぁ。栞がオススメ召してくれる本ぐらいしか読まないし。まあそれいうなら栞とお話ししたいから共通の話題で盛り上がれる本を読みたいかなって所かな?」
栞は「んま!」と叫ぶと照れくさそうに「まあ私もそういう部分求めて詩織さんと読書体験共有しているわけですが」というと鞄から本を取り出す。
「これ一日で一気読みできる超オススメの一冊です」
なんかラノベっぽいような派手なイラストが表紙の『高丘親王航海記』という本を渡してきた。
「天才澁澤龍彦最後の作品です。タイトルの通り、高丘親王が海を駆け巡るお話です」
「高丘親王って誰だっけ?」
「藤原薬子の変で天皇の後嗣の権利を取り上げられて、それをに出家して空海の十代弟子にまでなった人で、六十七歳にして唐の都に学んで、そこからその年にして天竺、いわゆるインドですね、そこを目指してそこで伝記が途絶えた人です」
「へー日本史でやったかなそんなの?」
「まあやらないですよね。そんなに凄い目立つ人でも無いですし」
「じゃあその高丘親王が唐に留学してから天竺にたどり着くまでの話ってわけ? 歴史物とかあんまり読んだことないからなあ……」
「いえいえ、開始はいきなり六十七で天竺へと向かう所から始まります。安展、円覚の二人の僧侶と、奴隷生活から逃亡してきて出航寸前の船に飛び込んできた秋丸という子をお供にして航海出るお話です」
「ふぅん。巨編歴史ロマン?」
「それかSFでありファンタジーてでもあるんですよ!」
「へーいいじゃんいいじゃん。そう言うのなら読みやすそう」
「平安時代なのに登場人物が普通にチャンスとかエクゾティシズムとかカタカナ語バリバリに使いますし、海から船に上がってきたジュゴンに言葉を覚えさせて、ちゃんと言葉を覚えたりするので完全に創作だってわかりますね」
「ふぅん。違和感ないの?」
「飛び出してくるエピソードがどれもこれも強烈なのでそんなこと気にならなくなります」
「そんなに強烈?」
「全部で七部構成なんですが一章が三〇数ページなのですぐ読めちゃうので、ネタバレとか踏まない内にサクサクっと読んで貰った方がいいですね」
「そぉなの?」
「そぉなの」
「そもそも澁澤龍彦ってどんな人だったっけ? 名前は聞いたことある」
「天才ですよ。新一万円札の顔になる渋沢栄一が高祖父に当たる人なので華麗なる一族ですね。学生の頃から文学にどっぷりハマって吉行淳之介や久生十蘭らなんかと繋がりがあったり、サド裁判というエピソードでは、マルキド・サドの『悪徳の栄え』を翻訳したらわいせつ文書販売および所持の容疑で出版社の社長と一緒に在宅起訴されたりして埴谷雄高
遠藤周作なんかが特別弁護人を引き受けたり、当時の大御所が余っています。弁護側証人にはノーベル文学賞を後に取る事になる大江健三郎までいたんだからおどろきですよ」
「うん。大江健三郎だけボンヤリ名前分かるけれど他の人は全然分からない……」
「んま!」
「で、裁判はどうなったの?」
「最初からマジメに裁判をする気がなくて、面白くしてやろうということで寝坊したといって裁判に遅刻して弁護士に滅茶苦茶怒られたりしたんですが最高裁まで争った結果が、罰金たったの七万円で、これには澁澤龍彦も人を馬鹿にしている、懲役の三年ぐらい食らわなければ七万円ぐらい何度でも払ってやるといったそうです」
「人を食った人だなあ」
「そんなでも才能は本物で、三島由紀夫に処女長編小説を絶賛させられて、澁澤龍彦がいるから、澁澤龍彦がいなかったら日本の小説はどんなにつまらないものになっていただろうかと手放しの大絶賛を受けるんですが、これが『犬狼都市』という本一冊だけに与えられた賛辞で三島由紀夫はこのあと澁澤龍彦夫妻が海外旅行に行くのを羽田宇高に見送るのが最初で最後の出会いで、この後すぐに割腹自殺してしまったので、その後の作品については読んでもいなかったので、生きていたらどうなっていたかというところですよね」
「大絶賛じゃないですか、わたしもそれ読んでみたい」
「まあまあ最初は順番的には最後の作品になりますが『高丘親王航海記』を雰囲気掴んでおくといいですよ」
「なるほど。その『高丘親王航海記』書いて死んじゃったのか……」
「はい、下咽頭癌だったのですが、これが藪医者に当たって発見が遅れてしまったために声帯を切除する羽目になり、その後ずっと入院生活にはいり、次回作の『玉蟲物語』を抗争中だったものの『高丘親王航海記』をなんとか書き切ったところで読書中に頚動脈瘤の破裂により没しました」
「えーもったいない……『玉蟲物語』っていのも面白そうなのに……」
「本当ですよね『高岡町親王』読んでいると余計その無念さがこみ上げてきます。でもこの作品を残してくれてありがとうというところですね」
「天才って何か早く死んじゃう人多いよね」
「まあ目立つだけで長生きしている人もいくらでもいるんですが、伝説を持っている人って目立つ分夭折の天才って感じで見ちゃいますよね五十九歳で亡くなっているので、早世というほどではないのですが、でもちょっと早いですよね」
「この本はどんな感じで話進んでいくの?」
「ネタバレにならない程度にいうと仏法を求めて、また天竺に対する単純な憧れが一番の動機ですがあちこちの海を彷徨い一年間の間ほとんど天竺まで近づくことなく海の上を彷徨うのですが、幻想と驚きに満ちた旅を続けます。仏教国がメインですが、唐音つまり当時の中国語が出来る人があちこちにいてこの人達が案内をしてくれるのですが、夢を食べて良い夢だと薫り高い糞をし、悪夢だと臭い糞をする縛を買っている国や、犬の頭をもった人間がいる国や、薬にするため蜜だけを飲んでミイラになったバラモンを探し求めて空飛ぶ船に乗っていたりと、最後は哀しいけれどなんとなくいい感じで終わるラスト……これって筒井康隆の『旅のラゴス』にているなあって思うんですよね」
「あーはいはい『美のラゴス』は面白かった! へーあんな感じかあ。それだったら期待できるかなあ。それに今出てきたエピソードももっと深掘りされるんでしょ? だったら楽しめそう!」
「是非ともお薦めなんですよ……!」
「そういや栞は旅とかしたりしたいと思わないの? 文学に求めているのはどこか自分の知らないところに連れて行ってくれるからっていっていたけれど」
栞は眼鏡をはずして目頭に指を当ててしぱしぱと瞬いた後眼鏡をかけ直すと「私は物語の中だけでいいかなと思っています。何か外国って怖いですし」
「ふーん。てもさ百歳ぐらいの人たちにインタビューしたら心残りのある人が全員言っているのが冒険しなかったことだってテレビで見たよ。逆に満足していつでも死ねるっていった人は成功しても失敗しても挑戦したことのある人だって」
「うーんそう言われると確かに冒険した方がいいのかも知れませんね……命短し冒険せよ乙女というか……」
「じゃあさ、わたしと二人で冒険しようよ。大学行ってアルバイトして国内旅行した後に働き始めてお金に余裕が出来たら海外旅行とかさ! 高丘親王より凄いもの見つけられるかも知れないよ!」
「そうですか……そうですね、しちゃいましょうか冒険!」
その後は、栞と二人でどこへ行こうかという話で盛り上がりに盛り上がった。
人生はやっぱり挑戦なんだなあとおもった。
文学でどこかに連れて行ってもらったら次は自分たちの脚で歩いて行くのがいいに決まっている。
高丘親王もこんな感じの心持ちだったのではないかと、話しながらボンヤリと考えた。
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