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164ライマン・フランク・ボーム『オズの魔法使い』

読んだことあるようで読んだことのない本で上位に入りそうな『オズの魔法使い』です。

読んでみると割とショッキングです。

「突然ですが詩織さん! あなたは! ライマン・フランク・ボーム『オズの魔法使い』を読んだことがありクスか!」


「えっ! 何その喋り方……多分読んだことはないと思うけれど、確か頭の無いかかしと、心臓が無いブリキの木こりと、常にビビってるライオンお供に女の子が珍道中する話だったっけ?」


「なんで結構あってる割に細かいところが猟奇的なんですか……頭の無いかかしとかホラーというかすでになんなのかもう分かりませんよ……」


 外では秋の風が吹いており、肌寒くなってきたのでカーディガンを羽織っていたのでなんとなく癖というわけでもないのだけれど、袖を引っ張りながら栞の脚に目をやると、ようやく季節が追いついてきた感のある黒ストッキングがテラテラと輝いている。

 誘っているのかこの娘はとおもいじゅるりと唾を飲み込むと、栞は不審げな視線をこちらに投げてくる。


「読んだことないですか? 『オズの魔法使い』」


「うーん小さい頃絵本読んだことあるかも知れないけれど、全く記憶に無い。さっきの登場人物も映画化なんかで見たような記憶が薄ら……」


「いやあ、私も初めて『オズの魔法使い』読んだんですが、結構衝撃的な内容で驚いたんですよ」


「そんなショッキングな話あるのかなあ、子供向けの本でしょ?」


「登場人物はカンザスの田舎におじさんおばさん夫婦の元に住んでいるドロシーという孤児、そして飼い犬のトト。ある時凄い竜巻に巻き込まれて地下室に隠れたおじさん夫婦を残して逃げ遅れたドロシーがマンチキンの国という所に飛ばされます。で、マンチキン達と北の良い魔女が喜んでやってくるんですが、喜んでいる理由が、残酷な悪い東の魔女が空から落ちてた小屋にブチュッと潰されてマンチキン達が解放されたぜやった! という所から話が始まります」


「怖っ!」


「まあそれでカンザスに帰りたいと北の魔女にいったら、その潰れた魔女が履いている銀の靴は凄い逸品だからもってきな、あとこの黄色いレンガの道をずーっと進んでいくと偉大なオズ大王が支配するエメラルドの都があるから、あの人マジで偉大だから簡単に願いを叶えてくれるわとそそのかして旅立たせるわけです」


「ザックリとした説明ありがとう」


「で、脳味噌の無いかかしと、ハートのないブリキの木こりと臆病者の勇気の無いライオンがお供になるんですが、このブリキの木こりが中々衝撃的なんです……」


「そんなに……?」


「元々マンチキンだった木こりは将来を誓い合った女の子がいたのですが、邪悪な東の魔女がなんか気に入らなくて、木こりの斧に呪いをかけると、脚をすぱーっと切り落としてしまうわけです」


「しまうわけですって死んじゃうじゃんそれ!」


「いえ、たまたま通りかかったブリキ職人が脚を作ってくれます……これで大丈夫!」


「大丈夫違うそれ」


「で、まあ斧に呪いがかかっているので、右脚スパーッ、左脚スパーッ、左手、右手、頭スパーッ! と、行くわけですがそのたび親切なブリキ職人が足りない部分作ってくれるわけですよ」


「そんな超技術があるならバラバラにした方繋げた方が良かったんじゃないかな……そういうのなんだっけなんとかの船って……」


「テセウスの船ですね、部品を少しずつ入れ替えていって元の船のパーツがなくなった船は果たして元の船といえるか……みたいな話ですが、今はブリキの木こりの話です」


「はい」


「全身ブリキになった木こりはそのまま木こりの仕事を続けるのですが、ある時大雨が降って全身錆びてしまい、ドロシーたちが通りかかるまで一年間も体が錆びて木を切っている途中の姿で固まってしまう訳なんですな」


「なんですなって、どうなったの?」


「木こりの小屋においてあった油差しでキュポキュポ油を差してやって錆を落としたら動けるようになったのですね。で、心臓がなくなったから心がなくなってしまったので熱い思いを取り返すためにオズ大王に心をもらいに行きたいとついてくるわけです。君脳味噌はいいの? とか野暮なことはいっちゃいけません」


「はい」


「で、色々と冒険をくぐり抜けてオズの都、エメラルドの都について謁見がかなうわけですが、東の悪しき魔女をぶっ殺してきてくれたら願いを叶えようというわけです。さて東の魔女のところへ行き善良な南の魔女の所へ行き……といった感じの話です。ザックリというとこんな感じです。ザックリと」


「結構衝撃的な話だったわ」


「子供向けの話ってわりと残酷な話ありますよね。ボームもそこら辺意識していたらしいですが、子供を楽しませるのが何より好きで、自分の子供達語っていたお話を、義理の母にいわれて出版社に持ち込むわけです。そんなことを何度かやっている内に、デンスロウという挿絵画家と組んで『オズの魔法使い』を出版させるやいなやその年のクリスマスセールでぶっちぎりの一位、翌年もベストセラー一位というような事になるんです。アメリカ文学の研究家ではメルヴィル『白鯨』とマーク・トウェイン『ハックルベリー・フィン』と並んでアメリカ文学の始まりとする人もいるらしいです」


「へぇー『オズの魔法使い』って割と凄いんだ」


「最初は続き書くつもりなかったらしいんですが、続きを書いてという全米中のキッズからの手紙攻勢に負けて二作目を書きますが、黄金コンビといわれた挿絵画家デンスロウとのコンビはここで終わります。出版時に本の印刷にカラーインクを多用するためにインク代折半する条件として、物語の著作権をボーム、挿絵の著作権をデンスロウが持つことになるわけです。で、デンスロウが勝手に色んなオズの絵を描きまくっていたのですがボームには一言もいっていなかったらしくて関係がぎくしゃくとしてくるわけです。で、ブロードウェイでミュージカル化するのですが、デンスロウが衣装監修やるのですけれど、ホント何にもしなかったらしくて、それでも分け前は半分ということで、訴訟沙汰だけは止めようということで絶交して、以後亡くなるまでお互いのことについては何もコメントしなかったらしいです」


「知的財産権がガバガバすぎる……子供の読者が可哀想……」


「まあそれ以降は挿絵画家の著作権は認めなくなったらしいですがオズ・シリーズは十四巻を数え、ボーム亡き後も奥さんの許可を得た作家が何作かオズ・シリーズ書いていたようですね」


「へぇーぜんぶ翻訳してあるの?」


 栞はちょっと残念そうに首を振る。


「ボーム自身の書いた正伝は早川から十四巻全巻出ているそうなんですけれど、外伝的な作品は未訳のものがほとんどだそうです」


「大人の事情を感じる……」


「いやあただ単に売れる見込みがないからだと思いますが、ちよっと残念ですよね」


 カーディガンの裾を指でいじくり回しながら、ボンヤリと「なんか裏事情的なもの見ちゃうと萎える事ってあるよね」といった。


「まあ色々な事情があるのでしょうけれど、大人になってからちゃんとした全訳を読むのは中々面白いものがありますよ。大人になってからの童話の読み返しってヤツです」


「ああ、栞が好きなヤツね」


「あの頃聞いた昔話というヤツは、大人になってから読むと思ってたのと違うというのはありますね、因みに一巻が完成度高すぎて。続編はかなり暗い感じになるらしくて敵の国が攻めてきたりノーム王という悪の塊みたいなのが出てくるそうなんですが悪いキャラは全員男で女性達が立ち向かっていく話なんだそうですが、ボームの奥さんの母がフェミニズム運動の走りのような教育ママで、ボームの奥さんも嫌がらせを受けてやめるまで、カーネル大学に入っていたそうなんですが、アメリカ東部の女性は自立心が強いらしくてここら辺が関係しているようですね」


「へぇーいいじゃんかっくいー自立する女」


「まあボームの義理のお母さんボームの成功を目にする前に亡くなってしまったそうですけれど、一九〇〇年に最初の一冊が出版されてから百二十年以上にわたって読み継がれていますけれど、盛況との流れをくむアメリカの伝統で魔女がいい人というのが許されなかった部分もあったらしくて、一九六〇年代までは図書館から入荷を拒否されていて、ようやくその辺りから受け入れられるようになったそうですね」


「複雑な話ー」


「まあボームという人はかなり面白い経歴をしているんですがそこら辺までお話しするとながーくなるので、是非こちらを読んでください!」


「うわ、でた栞の読んでください!」


 栞がわたしに本を渡すと「面白いですよ」といって微笑んだ。

 わたしはこの笑顔にどうしようも無く弱いのだ……。

 そうして本の話題を語り合うのがとてもいい時間を過ごしている、青春を感じる。

 栞に出会うまで、まさか自分が本を読んで青春を感じるなんて思いもしなかった。

 秋空の柔らかく脆い光が窓から流れ込んでくる。

 私は「うん、読むよ」といって本を受け取った。

 その時栞の嬉しそうな表情は恥ずかしくて直視できなかった。

意外とあれげな話が多いですが、大人の童話読み返しという部分ではいい作品だと思います。

場外乱闘の方が複雑かつ面白い部分もありますがボームの子供を喜ばせたいという精神は本物です。


一言感想、雑談何でもあれば感想欄に放り込んで頂けると励みになります。

書き込むのが面倒だという向きの方は「いいね」ボタン押して頂けるとフフって成りますのでよろしくお願いいたします。


ではなるべく近いうちにまた!

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