159テオフィル・ゴーティエ『死霊の恋・化身』
テオフィル・ゴーティエの恋愛単です。
岩波のゴーチエ作品集などで読まれた方も多いのではないかと思います。
変わったお話が好きな方はどうぞ。
「恋したい気分」
「んま!」
段々と昼間でも三十度を下回る日が増えてきて、まだ夏なんだけれど秋が近づいてきたないう感じもするそんな頃だった。
秋にもなれば読書の秋ということで栞はハッスルすることだろうと思うのだけれど、年々マッハで過ぎていく短い短い秋に向かって何かアンニュイな気持ちで、ちょっとした呟きが吐息と共にポロリとまろび出た訳だけれど栞はなんだか過剰に反応している。
「恋い……ですか……恋い」
「うによーわたしが恋いしちゃったらだめなの? っていうかわたしって恋できるの……かな?」
「詩織さんは顔がいいしスタイルもいいから、恋の一つや二つ出来ますよ。で悪い男にだまされて最終的に私の所へと戻ってくるわけですよ……そんなロマン……」
「何いってんスか栞センセ。こういうときにこそ何か恋愛ブックススメテくださいよ……なるべく薄いヤツで……」
栞は拳を作ってこめかみをぐりぐりとやりながら「うーん」と唸ると自分でセッティンクした新刊書籍コーナーにスタスタと歩いて行くと青っぽい一冊の本を掲げた。
「ジャジャーンティオフィル・ゴーティエ『死霊の恋/化身』他一本のたん゜んちゅうへん三本立てでございますー」
「ジャジャーンて」
「まあまあゴーティエ恋愛奇譚集というだけあって怪しい恋の物語が三本はいっててお得ですよー」
「まあわたしといえば短編ですからね、短編マスター詩織さんですよ」
「馬鹿いってないで本の解説なしにすぐ読みますか?」
「あ、いやレコメンドして……」
「まあ収録順に行くとですね「死霊の恋」ですが、私この作品むかーしどこかで読んだ気がすると思ったら、実際何回も翻訳されている作品らしいです。日本ではゴーティエってそこまで有名じゃないですが、フランスでは有名な作家らしいですね」
「あー有名だけれどメジャーじゃないみたいな?」
「みたいなです」
わたしは「ふーむ」とのけぞり顎に指を当てて「渋い……渋くて自慢できる……! いや、でも他のムチムチな連中に伝わらないか……悩ましい」等といっていたら「なに馬鹿なこといっているんですか」と直裁にダメ出しされた。
「まあネタバレにならない程度に行きますけれど、怪しい恋愛と売り文句になっているのですがその通り、怪しい恋愛なんですね。主人公は六十六歳のロミュアルド神父が自分の若い頃の恐ろしくも不思議な恋愛を語るところから始まります」
「おーけーおーー回想から始まる訳ね」
「まあ最後に現在の神父が一言二言いうだけなので全編過去の話と思って貰っていいです。とにかく禁欲に行き神を愛して俗世と離れて厳しく生きてきたロミュアルド修道僧がその宗教的熱心さが認められて異例の若さで司祭になるその儀式の日です。緊張しながら儀式を受けるのを待っていると記にふと視線を上げると豪華な服に身を包んだこの世離れした絶世の美女と視線が絡むんですね。その一瞬で恋に落ちたロミュアルド司祭は、神への愛を投げ捨てて俗世に下るか、神への愛を貫くかで迷うんですが、儀式の順番が来て強制的に神の元にとどまることになります」
「ロミュアルドそれでよかったんだろうけれどわたしだったら俗世間に落ち着いちゃうなあー。そもそも修行とか禁欲とかマジ訳訳からないしね」
「まあまあ。で、この女性なんですが、ロミュアルドの夢枕に立ちます。信仰をメッチャ試してきます。この人が高級娼婦のクラリモンドさんその人です」
「クラリモンド! ロミュアルドもだけれど割とインパクトのある名前! 夢枕に立つってそれロミュアルド君が熱に浮かされているだけじゃないの?」
「いえいえ、私のお屋敷に来てねとロミュアルドに手紙を黒人執事の手から渡される訳ですよ」
「んま! 大胆!」
「ロミュアルド神父を教導しているのがセラピオン神父というわけで、とにかく祈れ、祈って全てを忘れろ、といってこのままだと記みたい変なことになるよと導くわけです」
「一応ちゃんと見てくれる人はいるんだ」
「なんですがロミュアルド神父は昼間は司祭として禁欲的に暮らすのですが、夜には遠く離れたイタリアのリゾート地でクラリモンドとよろしくやっているという夢を見ます。その内昼の自分が本物なのか、夜の遊び人にして若い騎士の自分が本当の自分なのか分からなくなってしまいます」
「夢遊病みたいな?」
「まあそう一言で片付けるわけにも行かないんですが、美女としてちやほやされているんですがどことなく満たされていなくて寂しさの表れる女性なんですね。で、ロミュアルドから血を一滴一滴もらって生きていくわけですね。つまり吸血鬼なんですがロミュアルドはクラリモンドにやられているので、喜んで血を受け渡します」
「あれだ、生気を搾り取られて死ぬヤツだ」
栞は「フフフ」と不敵な笑みを浮かべ「さあどうでしょうか?」といってくる。
「セラピオン神父が最後に登場して、さてクラリモンドさんとロミュアルド君はどうなるのか……といった所で是非最後まで読んでくださいー」
「えーそこまで語って途中で切っちゃうの?」
「まあまあ短いお鼻ですから後は「アッリア・マルケッラ」というポンペイ旅行での一夜のお話と「化身」というお話があります」
「オーケーもうちょっとだけお話の内容聞かせて」
「仕方ないですねぇ……ポンペイの遺跡は知ってますよね、ヴェスビオス火山で埋もれた古代ローマの都市です。そこを旅行したフランス人三人組の内の一人が、大邸宅の地下のワインセラーで見つけた石膏で型取りされた古代ローマの貴婦人を見つけてあまりの美しさに惹かれるんですね、この女性が「アッリア・マルケッラ」さんです。この一人だけポンペイに強く惹かれた人が夜中のポンペイに迷い込むとそこは古代ローマの世界で……というお話です。幻想的ですねえ」
「まあ短い話みたいだからそこまででいいや、最後の「化身」ってのはどんなはなし?」
「まずはじめに「化身」の言語のタイトルは「アヴァタール」というらしいのですが、色々な意味があって「変わる・変身する」というのも一つらしいのですが一陣深いところまで遡ると狭義の意味ではヒンズー教の神様ヴィシュヌ神らしいんですよ。なものですのでこの作品も結構あちこちで日本語訳されているらしいんですが、タイトルは結構ぶれているようです。「アッリア・マルケッラ」も昔の訳だと「ポンペイ夜話」とかだったりするみたいです」
「へー豆知識……どっかで披露してクラスのヤツらの鼻あかしてやろう……」
「……詩織さん」
「いや、はい……続けて」
「フィレンツェ旅行に行った、アッパーミドルクラスの裕福なブルジョワである美青年オクターヴくん、ゴーティエが大好きなイタリアはフィレンツェに旅行に行ったときに夫を戦場に送り出した後、一人慎ましく待っているラビンスキー伯爵婦人に一目惚れ、それを悟ったラビンスキー伯爵夫人、いいお友達でいましょうとカウンターパンチを食らわせ一撃で沈めるとオクターヴくんフランスに帰り恋の病にかかり瀕死の状態。そしてそこに現れたのは学問を究めた後インドでヨギの修行して神秘的な力を手に入れた、真っ黒でしわだらけの痩せきったシェルボノー医師に会うと医師が解決してくれると約束。戦場から戻ってきたラビンスキー伯爵とオクターヴくんとシェルボノー医師が出会った時必殺のヨーガの秘術が炸裂! そして奇妙な生活が始まり始まり……といったところで読んでください」
「なにそれ! それ出だしじゃないの?」
「まあまあ、「アッリア・マルケッラ」もうなんですがラノベの異世界転生みたいなの好きだと結構ハマるかも知れませんね。オチは結構ビックリします」
「あーんもう、ストーリー以外で何か読みたくなる情報頂戴!」
「色んな人が訳しているといましたが「死霊の恋」は芥川龍之介とか岡本綺堂なんかが訳していたりします。それから夏目漱石は「アッリア・マルケッラ」何かが好みだったそうです」
「いいねいいね、そういうなんか頭よくなりそうな解説!」
「あとは……クラリモンドという名前ですが、クラリというのは光り輝くみたいな意味でモンドは世界なので、死霊なんだけれど光の世界から来たみたいな皮肉な意味合いらしいですね」
「あーいいねそういうの」
「あと最後に付け加えると、ゴーティエは若い頃画家を目指していて、かなりの腕前だったそうですが、フランスでは詩人として知られています。ボードレールやネルヴァルなんて有名な詩人や作家と仲良くて、短編中編長編詩作、美術評論に文芸批評ともう何でもやったそうです。そんなことなので作品の美術品に関する部分が実に写実的で視覚的なんですよね、今でいうと総合ゲイ儒家なのかも知れません。そんなゴーティエは大変愛されていたのでヴィクトル・ユゴーを筆頭にアナトール・フランスやステファヌ・マラルメなどといった蒼々たる面子の八十三人分の詩が添えられているそうです。あと佐久間象山と生まれ年が一緒」
「最後の情報いる!?」
「まあまあ、そんな感じで面白いので読んでくださいー。新刊コーナー折角作ったのにあんまり借りられていないのは寂しいので……」
「う、うん分かったって分かったから!」
泣く子と栞には勝てないということで折角なので読んで見ることにした。
だってしたいじゃない?
怪しげな恋愛。
時間旅行したり、魂がふわふわしたり、日の時代の作家にしてはウェヌもウェルズもまだいない時代にSF的な描写で楽しませてくれています。
ネタバレにならない程度に話を明かしましたが探検なのでお察しな部分はあります。
とにかく有名なんで先行して他の本で読んだことある方も多いかも知れませんが、光文社古典新訳版はかなり文章が平明で分かりやすいです。
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では可能な限り近いうちに……。
ではまた今度!