151ジャネット・ウィンターソン『フランキスシュタイン』.
AI時代のトランス・ゴシック・ラブストーリーというよくわからない分野ですが、わりとサクサク読めてしまいます。
今回はほとんど内容に触れていないので未読の方も安心してご覧頂ければと思います。
「栞さんや」
「なんですか……あとさん付けは禁止です」
「いやね、なんか最近古典的作品ばかりお薦めされているからなんか最近の本で、例えばSFとかそう言うので何かいいのないかなぁーって。それにほらSFならエンタメだろうし、SF読みってなんか読書上級者みたいでカッコイイしなんかそんなわたしにオススメのいーかんじの本レコメンドしてよってそう思ったわけです」
「んま!」
「いーじゃん、本読むのなんて趣味だからっていつも言っているの栞じゃん」
わたしがそういうと眼鏡を外して、レンズを丁寧にキュキュキュと拭くと、眼鏡をかけ直し「まあ本を読みたいというその姿勢は嬉しいですが邪念が過ぎる……まあ趣味の話ですからいいですけれども!」といって眼鏡をギラつかせながらこちらの瞳を視線で射貫いてくる。
「そうですねぇ……そういえばこの前『フランケンシュタイン』読みましたよね。SFの元祖的な立ち位置の作品の一つというお話はしたと思いますが、あの『フランケンシュタイン』をマッシュアップしたような影響を強く受けた作品で、ジャネット・ウィンターソンの『フランキスシュタイン』をお薦めしましょうか」
「いえーい! ってか『フランキスシュタイン』ってに? 名前丸かぶりしているけれど……」
「時代や場所を行ったり来たりする独特な文体ですが、メアリ・シェリーが『フランケンシュタイン』を書くことになるところから物語が始まります。因みにメアリ・シェリーが『フランケンシュタイン』を書き始めたのが十八の頃で完成させたのは十九の頃なんですよね。私たちも何か書いてみませんか?」
わたしは栞の目の前に手のひらを広げ、目頭を押さえて深刻そうに俯くと「それは出来る人の理論なんですよ……!」といって話を遮った。
「自分の可能性に蓋をするもんじゃないと思いますけれどまあこの話はいいでしょう。メアリ・シェリーと夫のシェリーとの間柄がどのようなものであったか話を現代の話を挟みながら作品を書いていく描写がされていきます。そして現代パートではロボットが人間の肉体面や精神面にどのような影響を及ぼすかを研究している医師のライ・シェリーが主人公に据えられています。この方後に判明するのですが女性に生まれ、心は女性だけれど、肉体的には男性になりたいというトランス・ヒューマンというヤツなんですね。性器周り弄っていないものの胸の肉は摘出してしまっており、男性ホルモン持とうとしているので見た目は完全に男性なんですね」
「ジェンダー小説とか言うヤツ? 難しくない?」
「難しくないです。短い挿話の連続なのでさくさくーっと読み進められます」
「で、シェリーの名前が出てくるって事は……」
「はい。なんとなくヤヤコシイですがヴィクター・スタインという科学者が登場し、男女の仲になります」
「アレま、なんか理解がよく追いつかない」
「まあドクター・シェリーは精巧に人間をもしたセックス・ボット、つまりダッチワイフですね。その販売やレンタルを行う男性と色々と話し込むうちに色々と繋がりが出てきてあちこち研究して回るのにヴィクターとセックスボットの社長ライアンとあちこち行き来することになります。その内にヴィクターの恩師で実在した数学者の頭部から脳の内容をスキャンして電子上で永遠の命を得るための実験を行います。この死体をガラス化して冷凍保存しているアルコー財団というのも登場するのですが、こちらも実在する団体です。こうして虚実入り乱れて、フランケンシュタインのごとく人間からはみ出した存在を作っていく訳なんですね」
「メッチャSFですやん」
「だすにん」
「だすにん!?」
栞はわたしの突っ込みを無視して続ける。
「まあその実験の後いろいろな事が起こってアレで何する訳なんですが、そこら辺は読んでからのお楽しみというところですね。この本を読んでいて得られた無駄知識があるんですが聞きたいですか?」
「うーん……きいておく!」
栞はわたしにぐっと顔を近づけ、耳元に湿った吐息を吹きかけながら「男性のペニスには四千の神経が通っているそうなんですが、女性のそれに当たる部分には二倍の八千本の神経が通っているそうなんですね。短絡的な考え方をすると女の子同士の方が倍気持ちいい……ということになるのかも知れませんね……」そこまで言ってわたしの耳たぶを唐突に甘噛みしてきたので「ヒョッ!」と変な叫び声を上げ動けなくなってしまった。
そして最後にもう一度甘やかな香りのする吐息をフウと耳に吹きかけ顔を離した。
「あードキドキしたぁー! どうですか? ビックリしましたか!? うわぁはずかしぃー! 我ながら大胆過ぎちゃったかなあー! ね、詩織さん……詩織さん?」
わたしが俯いたまま顔を真っ赤にしてハアハアと熱い吐息を吐いているのを見て今度は栞が慌てだした。
「ちょっと詩織さん! そんなマジな感じで受け取らないでくださいよ! ちょっとした悪戯じゃないですか!」
わたしは俯いてドキドキしたまま鼻の奥が熱くなってさびた鉄の臭いが広がるのを感じた。ポタリ、ポタタと何滴かの鼻血が床を汚す。
栞はパニクって、ハンカチを取り出しわたしの鼻を慌てながらも優しくこする。
「こんなことになるならやらなければよかったー!」
とショックを受けているようだったが、わたしの頭の中は非常にクリアで冷静そのものだった。
本の話をしていただけでこんな栞の悪戯を、普段絶対にしないと思われる人物からやられるとは本当に思っていなかっただけに、心臓がショックを起こしている。
いつまでもこうして俯いていられないと思い、つとめて明るく振る舞い「いやぁー栞がエロエロのえちえち攻撃してくるからビックリしちゃった! 脳味噌の血管が何本か切れて鼻血でちゃったかなあー」なんていったが、栞は慌てながらわたしの鼻にハンカチを当てて抑えている。
「すいません! 本当にすいません!」
そう言って、あわあわと慌てに慌てている。
いつもとなんか立場が逆だなと思ったらなんとなくおかしくなって笑いが浮かび上がってきた。
「栞おーげさすぎ!」
「でも、私のせいで……」
「まあまあいいよいいいよ気にしない気にしない。それより本の話の続き聞かせてよ」
栞は深く胸に息を吸うと「分かりました」とキリっとした表情で話を続けた。
「本のスーリーはそこまで話しちゃうとその後はネタバレというかフィナーレになってしまうので、作者のジャネット・ウィンターソンの話をしてみましょう」そう言うとようやくいつもの雰囲気を取り戻してきた。
「ジャネット・ウィンターソンはイギリスのマンチェスターでペンテコステ派の夫婦が養子縁組で娘にした養女で、後々宣教師にしようという計画をたてて教会に奉公に出すのですが十六の頃に女性と関係を持って家を出たんですね」
「なんかジャネットって女の人っぽい名前だけれど……」
「作品にもそこら辺のジェンダー関係の話がよく出てくるのですが、レズビアンなんですね。地頭のよい人だったようで家出をした後オックスフォード大学で英文学を学びロンドンに渡った後『オレンジだけが果物じゃない』という自伝的作品で出世作になりこの後は世界的な作家として活躍していきます。身体性やジェンダー、性別のアイデンティティにスポットライトを当てた作品で色んな賞を取り、大英帝国勲章のオフィサーという中々高い勲章を受勲します。今でもビアンとして生きており、ガールフレンドは色々といるようですが今でも第一線で活躍しています」
「へーレズビアンの人が書いたんだ」
「そこだけ注目すると木を見て森を見ずになっちゃいますが、まあそんな感じですね。ジャネット・ウィンターソンがせいに対して割とオープンな作風だったので私もふざけて詩織さんに悪戯しちゃって本当にすいませんでした……」
そう言うと栞は眼鏡が地面に激突するんじゃないかという勢いで頭がもげそうなほどの圧力で頭を下げる。
「いいよいいよー栞にちょっとエッチなコトされて役得だったかなーなんておもったりして、ぐふふ……」
「んま! 破廉恥!」
栞は驚愕したままこちらをガン見してきて「あっ破廉恥なのは私でした……」と後頭部に頭に手をやり、たはーっと息をついた。
そんな栞の顔を見つめていたら、たらーっと鼻血がたれてきた。
「栞! 鼻血鼻血!」
「えっ! うそやだ!」
そういてパニクってきたのでわたしは栞から受け取っていたわたしの鼻血で真っ赤になったハンカチで栞の鼻血を拭いた。
「おーよしよし、大丈夫大丈夫……」
「ふわぁー恥ずかしい……」
そういって泣きそうな顔でふわーっと口を開く。
なんか鼻血が混ざるってえっちだなとなんとなく思ったけれど栞に言うとまたパニクりそうだから黙っていた。
帰りにトイレで鏡を見たら二人とも顔中血塗れでどちらからということもなく、あははと笑い合った。
ところで女の子同士だと二倍気持ちいいってあれマジ?
色々実験しましたが成功しているのか失敗しているのか自分では分かりません。
まあとにかく入院までに書いて起きたかったものはなんとか書き終わりましたが、お楽しみ頂けたら何よりです。
短いけれど。
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次回は恐らく日本の古典文学にナルト思います。
また近いうちにお会いしましょう。
では!