149ディーリア・オーエンズ『ザリガニの鳴くところ』
ネタバレには注意していますがミステリですのでどうやって表現するか悩みました。
配慮はしてありますがこれから読みたいという方は読み終わるか映画を見終わってからの方がいいかもしれません。
あと短めになってます。
雨、雨、雨。
梅雨入りしたせいで毎日雨ばかり降っている。しかも今年は猛暑が予想されるとかなんとか地獄みたいな話が出ている。
助けて! 誰か助けて!
「栞えもーん! ジメジメいやー! ムシムシするのもいやぁー!」
「その栞えもんってなんですか。まあいいですけれど……じゃあ先生に内緒でちょっとだけ冷房入れちゃいますか」
「おっ! 話が分かりますな!」
栞は「私も暑いのは大嫌いですからねー」等といいながらピッピッとコントロールパネルを弄っている。
「高原に吹く一陣の風……!」
「まあ高原の早朝を思わせる風かどうかは分かりませんが、快適にはなりましたね」
「なんかこんな日にちょうどいい本とかないの?」
珍しくこちらからご機嫌伺いでオススメの本を聞いてみる。
「おっ! やる気があっていいですね! 実は最近古典的作品ばかり読んでいてバランス悪いなと思っていたので、普段読まないジャンルの作品読んでみようと思っていたんですね。で、以前から気になっていた流行の本読んでみたんですがこれが中々面白かったのでオススメです!」
そういって鞄からピンク色の本を取り出す。
「じゃじゃーん! ディーリア・オーウェンズ『ザリガニの鳴くところ』でーす!」
「じゃじゃーんて……あれ? なんかタイトル聞いたことあるな」
「わりと最近映画化されましたからね、有料ですけれどネット配信ともしているようですよ」
「へぇー珍しく普通に流行の本だったわ。じゃあ映画のタイトルで聞いたことあったかな? ってかザリガニって鳴くの……?」
「まあザリガニが鳴くというのは比喩的表現のようですが、作品についてよく表していると思いますよ」
「どんな内容なのか全く想像つかない……」
「まあこの本はミステリでもありネイチャーライティングでもありみたいな最近流行のジャンル縦断型の作品なので一言で単純にミステリともいえないんですが、ミステリには間違いないので、作品の面白さを損なわない程度にお薦めしてみましょうか」
「お願いします」
「珍しい構成をしていて一九五〇年代と六〇年代の話が交互に出てきて最後は七〇年代に収束し、物語自体は二〇〇九年頃までを取り扱っていますね」
「ふーん。過去の話と未来の話が出てくると?」
「正確にどうとはいえないのですがまあそんなところですかね。五〇年代に誰も寄りつかない湿地帯に住む大酒飲みで暴力を振るう父親の元に住んでいた末娘の通称カイアは、母親が家を出て行き、大人に近い年齢をした兄や姉がどんどん家を去るのを見守るしかなく、父親の元でビクビクしながら広大な湿地帯でボロボロの小屋に住んで極貧生活を送ります。このカイアは誰か来ると湿地帯に逃げ込み姿をくらますのですが、学校から送り込まれた指導員なんかからも逃げだして、結局一日だけ学校に通い、そこで差別にあって人生で学校に通ったのはその一日だけとなります。なので文字の読み書きも出来ません」
「極貧生活あるあるみたいなやつなのね」
「話は前後しますが六〇年代の話から始まります。湿地帯にある火の見櫓から転落して死んでいるチェイス・アンドルースという村の裕福で人気者の青年が沈みかけている所が見つかるわけですよ、この軸に向かって話が進んでいきます」
「おーミステリしてるじゃん!」
「物語中盤まではとにかく父親の暴力におびえつつも一時平和な暮らしが出来たり、テイトという少年との交流で文字や科学の知識を学んだりとしていくんですが、ここら辺も微妙にネタバレになってくるのでさらーっとながします」
「さらーっと流すんだ」
「物語のテーマはカイアの孤独です。様々な差別を向けられながらも、よくしてくれる人たちに出会いカイアは成長していきます。父親は蒸発してしまい本当に一人だけになったカイアを支えるのがテイト少年なんですが、すれ違いや心変わりなどで更に孤独は強まります。でも文字を覚えたことにより湿地に住む生物の研究を自己流で行っていくんですが、驚異的な勢いで研究は爆発しこのことが後になって身を助けることになります」
「話は全体にいい方向に向かっていくわけだ」
「はい。ここら辺はなかなか爽快感があるのと物語の根幹に関わる部分なのでご自分で読んでいただければと思うのですが、段々とプロローグで描かれていたチェイス・アンドルースの事件が近づいてきます。ここら辺の構成はとても見事ですね」
「うーん面白そうじゃん」
「面白いですね。カイアの孤独は次第に慰められたり深まったりと感情が左右に振られます。後に湿地の少女といわれて差別されていたカイアは美しく成長します。王道ですね」
「王道ですな」
「まあこの頃から恋の物語が展開されたり運命が開かれていき、湿地の中だけで生きていたカイアの世界は開かれていきます。ここにチェィスが関わってくるのですがここから後半にかけて一気に話は進んでいきます。カイアの成功と呼応するように悪いものもやってくるんですねぇーサスペンスというほどではないですが段々と不穏な動きと成功が綯い交ぜになってきてどうなっていくのか分からなくなってきます」
「いーじゃんいーじゃん! その後はどんな感じになるの?」
「チェイスの死亡事件が縦軸と横軸に絡まってきます。ここら辺は語っちゃうと面白みがなくなってしまうのでバッサリ行きますが、カイアが怪しいといって乏しい状況証拠から捕まってしまうわけなんですね。話はここから一気に加速していくわけで、息をのむ法廷劇なんかもあって存分にエンタメしてくれます。その後はまあエピローグ的な展開になりますがすっきりとした終わり方と、ちょっとした恐ろしさが共存する世界となります……ということで是非読んでみてください。一緒に語れたらいいんですが未読の人にネタバレしないようにお話語るのは中々難しいですね。そういう意味では私も勉強になりました」
「へぇー面白そう……ってか五〇〇ページある……!」
「流石に一日で読むのは無理ですが二日もあれば読み終わりますよ! とにかくぐいぐいと引き込まれる本力の強さがあります。カイアが湿地の生物の研究にのめり込むところなんかはネイチャーライティングの系譜なんですが、これは作者が動物学者で、動物やアフリカに関する著作や論文はあるのですが、小説は六十九歳にして初めて書いたらしく、アメリカでも七十三週にわたってベストセラーの地位を占め続けたそうです。もともと文章を書く仕事だったとはいえ長年の夢が叶って、こんな傑作を書き上げたのは正直凄いとしかいえませんね。物語の中で成長するカイアのように長年の研究が実を結んだ作者の盛夏ともシンクロしているのではないでしょうかね。作者も七十を超えて次の作品に取りかかっているそうですが人間やる気になれば何歳でも成功をつかみ取れることが出来るものなんですね」
「へーその作者なんだっけ?」
「ディーリア・オーウェンズです」
「そのディーリアさん凄いなあーわたしもなんか書いてみたら八十ぐらいで大ベストセラー書き上げられるんじゃないかなと思ってきた」
「最近私思うんですが高齢化社会といっても、いつまでも青春って続くんじゃないかと思うんですよね。中高年のなくした青春を取り戻す映画なんかって人気あるじゃないですか。だから詩織さんも書き続けていれば本当に何か一冊ものになるんじゃないかと思うんですよね。人間一冊なら傑作を書き上げることが出来るとよく言われますけれど、私は本気で応援してますよ!」
「いや……わたしのは冗談で言っただけでしてですね……」
「いえいえ、読んだらアウトプットも重要ですよ! 前から何度かいっていますけれど読書するだけじゃもったいないし二人だけの文芸部でも作ってみましょうよ!」
「やだーはずかしいー栞の書く作品とかに絶対に勝てないし!」
「勝ち負けの問題じゃないですよ! カイアも湿地で文字を覚えた後爆発的に成長するんです。詩織さんも秘められた才能が爆発するかも知れませんよ? まずは原稿用紙一枚分に読書感想文書いてみるとか……」
「えー恥ずかしいなあー」
わたしたちはそんな事を言い合いながらキャッキャとじゃれ合っていた。
このジトジトの湿地を思わせる雨もなんだか楽しめるようになってきたような気がしてきた。
ところでザリガニって本当に鳴くの?
2021年の翻訳小説部門の本屋大賞受賞作品です。
一気に読ませる力があります。
最近ずっと古典ばかり読んでいたので最近の同時代小説も読まないとと思い書いたわけですがミステリについては、誰でもオチを知っているというような作品ではない限り扱わない方が無難だと思いました。
次に繋げたいと思います。
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あと誤字報告ご協力頂いた方ありがとうございました。
今回はちゃんと誤字の修正できましたので、お前がちゃんと見直せというのはおいておくとして、ご協力頂ければと思います。
本当にありがとうございました。
次に書きたい物は決まっているので可能な限り早めに更新できたらと思っていますのでよろしくお願いいたします。
それではまた近いうちに、では!