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138ジョナサン・スウィフト『ガリバー旅行記』

お久しぶりです。

今現在分厚い本に集中しているので更新遅いですが久しぶりにお付き合い頂けたらと思います。

「遠くへ行きたい……いきたい遠くへ……」


 冬の寒さも底を打って暖かくなり始めた小春日和のある日、図書室の窓の外をぼんやりと眺め物思いにふけっていた。


「そうですねぇ……夏休みなんかに旅行とか友達と一緒に鉄道旅行なんていうのは憧れますねえ」


 栞が相づちを打ってくれる。


「そう。なんか映画でしか見られないようなのどかな自然とか溢れるところにいきたい……」


「でも詩織さんが遠くへ行きたいのは、旅行が目当てじゃなくてただ単に定期試験から逃げたいだけですよね?」


「……栞のそういう所ダメ」


 図星をガツンと疲れてまた憂鬱なため息を漏らす。


「なんか近場の温泉でもいいから行きたいなぁー」


「まあ温泉ぐらいなら私たちがいける範囲でもありそうですね」


 そうして栞と温泉に入ってあんな所やこんな所までみちゃって、ちょっとぐらいおっぱいとか触ってもいいよねとか考えてたら、まだ何もいっていないのに栞が制服の襟元をギュッと掴み「ダメです」といった。


「減るもんでも……」


「減ります」


 そんな鋭い攻防があったわけだけれど、勝者のいないむなしい戦いだった。


「まあでもアレですよ。私が本を読む理由の一つにここではないどこかへ連れて行って貰えるからというのはありますね」


「あー旅のエッセイとかそういう?」


「そうですね。今でも秘境や人跡未踏の地みたいなのってあるとは思うんですが、昔の人たちも、学術的な記録半面、体験記半面みたいな本を書いていて今でも売れている本はあるんですよね。古くはギリシャ・ローマ時代とかから大航海時代、江戸期の国内外と、現代でも体験記は色々とありますね」


「へぇ栞ってそういう本も読むんだ」


「そうですね。数が多すぎて絞りきれないんですが、例えば架空の体験記なんかも実際にあった事という体で書かれていたりした本もありますね」


「わたしでも知ってそう名のある?」


「うーんそうですね。架空の体験記というと時代が近いところで『ロビンソン・クルーソー』と『ガリバー旅行記』は当時からよく比較されてたそうですね。そういえば『ロビンソン・クルーソー』って一言で言ってますけれど有名な本の中だと世界一タイトルの長い本だったりするんですよね。知ってました?」


「知ってない」


「まあ本当に長いんで私も覚えきれてないんですが、検索してみればすぐでますね。今日は折角なので『ガリバー旅行記』をお勧めしてみましょうか」


「おーけーおーけー。聞こうじゃないの」


「所で詩織さんは『ガリバー旅行記』と聞いて内容思いつきますか?」


「えーと、確か遭難したときに小人の国に流されて気づいたら字面に貼り付けにされていたとか……あと「天空の城ラピュタ」の元ネタになっていたとか聞いた覚えがあるけど、小人のくにでその後どうなったとか、ラピュタ見つけてその後どうなったとかは知らない……」


「まあ子供の絵本に書かれているのって小人の国ところつまみ食いした様な内容とがほとんどでしょうからそこだけ印象強いのも仕方ないですね。実際に一冊の本にすると全部で四部構成になっています。その内第三部はその章の中だけであちこち巡っているんですが、日本にもちょっとだけ立ち寄っていたりしますね。現実とフィクションのつなぎ目として日本が題材に選ばれたみたいです」


「えー日本出てくるの? ちょっと興味出てきたかも」


「順を追って説明していきましょうか。第一部はみんなが知っている小人の国。リリパットの国で、貿易船の船医だったガリバーが遭難して流れ着いたところですね。で、気がついたら縛られていたというあの有名な場面になるわけですが、その後の話は知らない人も多いとおもうので軽くながめてみましょうか」


「要約助かる」


「ガリバーは語学に堪能で数カ国語が操れますが、この後出てくるどの国でも比較的短期間に言葉を覚えます。で、縛られたままリリパットの偉大な国王に接見して大きな客人として迎え入れられるんですね。このリリパットはガリバーの体長の十二分の一しかないそうです。リリパットの国では植物も動物もその他の全てが我々の人間国の十二分の一サイズなんですね。で、リリパットの国と海峡を挟んだ隣の国も小人の国なんですが、戦争になりかけたときにガリバーが海を泳いで敵方の船を一網打尽にする大活躍をします。リリパットの王は大変気を良くして相手の国に攻撃を仕掛けろと命令するわけですが、ガリバーはそんなに欲深くしてはいけませんと諫めるわけです。これが後々の不興につながるわけですが、決定的なのは王宮で火事が起こった際に、消し止めるために、王宮の庭で小便をしたものは死罪という法律に違反して、おしっこで王妃の宮殿の火事を消し止めるのですが、ガリバーの事が気に入らない大臣達に死罪にするよう訴えられ、その場は収まったものの、リリパットの国での貴族の称号まで貰っていたガリバーの事を敵視した敵側の陣営にどうしても罰を与えろと王様に訴えかけて、仕方ないから弓矢で目潰しをして盲目の状態にして命は助けようという、彼らとしては寛大な処置を施されるのですけれど、その会議に出席していた一人の大臣がガリバーに夜中こそり伝えて、ガリバーは例の敵国の国王と面会したいと伝え、帰ってきてから目を潰せばいいと考えていた国王はこれを許します。で敵国に渡りほどほどの所で手打ちにしてくれた恩もあるので歓待を受け、数日後に国外退去したいという事を伝えこれが許されます。まあどちらの国でもガリバーの食事や排泄物の処理に苦しんでいたので内心ほっとしていたようですが、筏を作って海に乗り出し船に拾われてイギリスに帰るまでが第一部です」


「割とイベント盛りだくさんなのね」


「どこの国でも自国の状況を話せといわれて、イギリスがいかに素晴らしく科学が発達しているかということを力説するのですが割としょうもない国扱いされます。小人の国であった対立みたいなものもその後ちょくちょくモチーフとして現れるのですが、これはスウィフトの時代にあったトーリー派とホイッグ派という二大派閥の抗争を風刺しているんですね。スウィフトはトーリー派だったのですが、当時の国王ジョージ一世は英語もろくに話せないドイツ出身の国王で、法律でイングランド王は勝手によそに行っちゃダメというのを無視してしょっちゅうドイツに帰っていたらしく、また親ホイッグ党だったためガリバー達は冷遇されていたこともあって、この二大派閥の争いがベースになっている説話がかなり出てきます」


「自分の作品で鬱憤晴らしていたってこと?」


「まあそうですね。あまり風刺が強すぎると投獄される恐れもあったため、婉曲に遠回しに書いているそうですが、当時の人から見たら割と分かりやすい構図だったようです」


「命がけ過ぎる……」


「リリパット国の話が長くなりすぎたので、飛ばしていきますよ。今度はいつも通り遭難してたどり着いたのが、リリパットとガリバーの縮尺をそのまま反転させた、ガリバーの十二倍の背丈の巨人国で、動植物も十二倍というなかなかサバイバルな環境に取り残されました」


「小人の次は巨人ってなんか安直っぽいなあー」


「まあそれは当時からいわれていたようですが、話を巻いていきましょう。畑の地主に捕まったガリバーはとりあえず言葉を覚えて、地主の娘に世話をして貰います。地主はこの小さな動物に芸を仕込み村を回ってみんなに見せて金儲けをすることを思いつき、槍の訓練なんかを朝から晩まで居酒屋なんかで披露するため、ガリバーは衰弱しきってしまうのですが、巨人国の王妃の耳にその話が舞い込み、ガリバーを買い上げ、娘を引き続きお世話役にするため宮廷の侍女として引き受けるという話に飛びついてガリバーは一命を取り留めます。で、ここでまた国王に政治の話なんかを尋ねられるものの、お前のような地を這う虫けらのような存在が政治をしたり戦争をしたりするなんて滑稽だと小馬鹿にされます。イングランドの栄光を傷つけないためにガリバーは頑張るのですがまあ一笑に付されます。で、王妃からは気に入られ、腕利きの職人にガリバーの持ち運びできるガリバーの部屋を作らせます。のちのちこの部屋にいたところを海岸で鷹かなんかに襲われて、鷹が亀の裏を割るために高いところから落とすという習性のおかげで滅茶苦茶にされてしまうのですが、海に投げ出され漂流している間に、普通サイズの人間に拾われて、イングランドに帰ります」


「ガリバーってさあ、そんな目に遭ってまだ海に出るの?」


「まあそうなんですよね。冒険心といろいろな報酬なんかに連れられて稼がなくちゃというわけで船医として海原に出たり、あるときは船長としてでたりするんですが、ことごとく知らない国に流され続けます」


「懲りないなあ……」


「で、第三部がラピュタですね。今回は日本人の海賊に襲われるんですが、解放される寸前で、オランダ人の海賊に何もしていないのに目の敵にされて小さなボートに僅かな食料だけのっけて流されるという憂き目に遭います。オランダ語にも堪能であったガリバーですが、この後出てくるオランダ人はみんな邪悪な存在として描かれます。スウィフト自身がオランダのライデン大学で二年ほど医学の勉強をしていたそうなんですが、このとき色々あったっぽいです。で、今回は空飛ぶ島ですが飛行石の元ネタになった巨大磁石を詰んだ空中の支配者です。考え事に没頭するあまり自分の頭を叩いて正気に戻させる召使いを雇っている人々がいるんですが、ここでも国王との会話では政治や哲学の話をするのだけれどそんなものは何の役にも立たないし、考え事で行動が止まらないということで、深石作画できないヤツとして下に見られ、うんざりしたガリバーは比較的短期間でラピュタの下にある島に移動します。ここでは発案家というのがいて、屋根から家を作る方法や大便から食べ物を再生させようとする発明や、数学の定理の書かれた板を飲み込むだけで定理が覚えられるという発案を実行するために何十年と研究している人々がいるんですが、ここらへんは当時の英国王立科学アカデミーにのっていた論文が元になっているそうですね。当時スウィフトは滑稽話として取り上げていましたけれど、いまじゃ排泄物から食べ物を取り出す方法は宇宙船で必須の技術として研究されていますし、屋根から先に家を建てる工法も存在してたりするので時代が巡ると意外と受け取られ方変わってきますね」


「うんちは食べたくないなあ……第三部はそこまで?」


「いえ、このあとその島から出ていって幽霊を自在に呼び出せる島の王に招待され過去の偉人達と会話を楽しむなんてことをやった後日本に渡り、オランダ人のふりをしてイングランドに帰ります。ここでもオランダ人が色々とアイツはオランダ人じゃないぞと役人に言いつけたりするというオランダ人を強烈に下げる描写が入ります。でまあなんだかんだで家族の元へと帰ります」


「バラエティに富んでるね第三部は」


「その分薄味なんですけれどね。だから最初の小人と巨人だけ思いついたら後は勢いだけみたいにいわれたりしたわけなんですね」


「でもまた漂流するんでしょ?」


「次で最後ですが検索エンジンでヤフーってあるじゃないですか、ヤフーニュースとかのヤフー」


「ありますねぇ」


「あれの元ネタになったヤフーが出てくる国に流れ着きます。この国ではフウイヌムと呼ばれる賢い馬が理性だけを真なるものとして生活の基準にしている、ある意味理想的な国として描かれています。で、ヤフーというのは人間と猿の中間みたいな見た目で不潔でキイキイ鳴き、食べ物を奪い合い、大便を投げて攻撃してくる不快極まりない生き物として描写されています。最初ガリバーもヤフーだと思われていたのですが、なんとか言葉を覚えたりしていくうちに、まあまあいいヤフー扱いされます。この国も色々と薄味なので飛ばしていきますが、理性に則って生きている馬たちは悪いことや嘘、戦争などという概念がなく「ないこと」としかいいあらわせられないのでガリバーはかなり苦労します。言葉を覚えるまでに掛かった期間も五ヶ月と最長の期間が掛かっています。この理性の国にすっかり見せられてしまい、自国人や、政治家や弁護士、医者などの説明をするときそこまで下げるのかという恐ろしい勢いで罵りながらフウイヌムに説明します。そして自分は理性のかけらを持ったヤフーとしてこの国に骨を埋める決意をするのですが、増えすぎたヤフーを減らすために去勢させようという案が会議で通り、理性のかけらを持ったヤフーであるところのガリバーもほぼ死ぬような航海にだされ追放と決まります。ガリバーは泣き崩れこの理想郷からでてヤフー達の支配する国に戻るなど考えたくないというのですけれど、この国のフウイヌムたちも毛並みの色によって知識で劣った労働者・奴隷階級と知的支配層と分けていたり結構ディストピア感溢れる国なんで読んでてそんなにいい国にも思えないのですが、ガリバーは流されてまたたまたま通りがかった船に拾われてイングランドに帰るわけですが、馬を二頭飼い一日中賢さはないものの高潔な馬と一日中会話しているという隠遁生活を送ることになり、旅行記を出して見聞をみんなに広めようとはするものの絶対に自分を訪ねに来ないでくれと言い捨てて最後の旅が終わります」


「なんか最後やっつけ感が凄い」


「まあ楽しめる範囲内ではありますけれど、実際の所書き飛ばしているなあという感じは受けます。でも面白いには面白いので架空の話ではありますが遠い国に行きたい詩織さんにはお勧めかも知れないですね。短い挿話で区切ってあるので読みやすいですし、有名な作品の原典に当たるというのもいいものですよ」


「ふぅん風刺が効いている作品ねえ」


「ガリバー自身はイングランド人でイングランドの栄光を様々な国で語って聞かせるのですけれど、スウィフト自身はアイルランドで生活していた時期の方が長くて、夏目漱石なんかは、祖国、つまりアイルランドのために殉じることが出来る烈士であるみたいなことをいって褒めています。それと散々色んな職業馬鹿にしていたわけですが、なぜか聖職者はそのターゲットにされていないんですよね。スウィフト自身の生き方からすると聖職者も馬鹿呼ばわりしていてもおかしくないんですが、実際の所はスウィフト自身敬虔なキリスト教徒でイングランドの大きな教会での高位の聖職者の職をずっと熱望していたそうです。結局はそこそこ大きいもののアイルランドの地方の教会勤めに落ち着いてがっくりきたらしいですが、そこら辺も踏まえて読んでみると面白いですよ」


「単純なびっくり仰天旅行物語かとおもったら意外と教養が必要なヤツだったわ」


「まあちゃんと注釈入っているから何も知らなくても読めちゃいますよ。ガリバーは子供達のために稼ぐといって、冒険の旅にでて十六年七ヶ月を漂流して過ごしましたけれど、奥さんはその間ずっと子供達の面倒を見て教育を与えていたのに、ガリバーが稼いだお金は当時の法律では家長であるガリバー個人のものとして扱われており、そんな実質働いていないようなガリバーと対比させた『ガリバーの妻』という作品も出ているそうです」


「まあ大変な目に遭っているけれども最後隠遁生活しちゃうし、自分の趣味で海に出て行方不明になっているんだからそのぐらいいわれても仕方ない気がする……」


「というわけで冒険の旅にでてみましょう!」


「うーんまあ読むのはいいんだけれど、こんどリアルで旅行行こうよ! 二人でどこか景色のいいところ自転車で行ったり、田舎のローカル路線乗り継いでみたりしてさ。バイトとかしてお金貯めて温泉旅行とか!」


「そうですねぇお金の問題はありますけれど、旅先で読む本っていうのも乙なもんですからね……」


「旅行中は読書禁止だよ! はい、わたしの方を見て!」


 そういって栞の肩をガッと掴んで視線を強制的に合わせると、栞はなんとなくポッと赤くなったような気がする。


「とりあえずお風呂一緒に入って裸の付き合いしようか! 洗いっことかしたりしてさ、スキンシップ取るの!」


「減るからダメです!」


 栞はぷいと視線をそらせるとどこか遠くに視線を投げやった。

 ぜつてー一緒に温泉は行ってやるからな……と決心したのはいうまでもない。

『ガリバー旅行記』は何故か大便小便などの尾籠な話が多くて当時色々修正とか食らったりしたそうですけれど、実際読んでみると結構そういう話が多いです。

定本としたのは恐らく日本で一番英米文学に詳しい男、柴田元幸が訳した『ガリバー旅行記』です。

割とゆるい注釈が付いていてそこそこ分厚いですが楽しく読めます。


ご感想雑談何でもあれば感想欄に放り込んで頂けると励みになります。

一言感想でもありがたいので気が向いたら是非お願いいたします。

書き込みまでは面倒くさいなという向きの方は「いいね」ぼたん押して頂けると私がフフッてなるのでよろしくお願いいたします。

今月中もう一度ぐらい更新したいですね……。

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