134ジュノ・ディアス『こうしてお前は彼女にフラれる』
本当はもっと早く更新する予定でしたが、年初のあれこれで体調を崩したりなど馬鹿なことをしていたので遅れてしまいました。
とりあえず年60回更新ペースは守るつもりで読書ストックはしています。
今年は分厚い本に挑戦していこうと思っていますのでご興味があればお付き合いください。
「ふふふ、栞さんよぉ……」
「何ですか唐突に……あとさんづけはやめてくださいと……」
「いやね、読み終わりましたよ。これ、この本」
「ああ、ジュノ・ディアス『こうしてお前は彼女にフラれる』ですか。この前半分まで読み終わってたといってましたね」
「新潮クレスト・ブック二冊も攻略してしまった……これは読書家といって過言でない気がする……」
「まあ時間が掛かったとはいえちゃんと読んだのはよいことだと思います。偉い偉い」
「えへへ、頭なでなでしてー」
「おーよしよし……って何やらせるんですか」
といいつつも栞の膝に乗っけた頭をなでなでしてくれているので、栞のそういう所大好きだ。
黒ストッキングを引っ張ってパッツンパッツンさせながら「あれって『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』の最終章とかの語り部だったユニオールの一代記みたいな感じなんでしょ?」と、頭を膝の上にのっけたまま聞く。
「そうですねー。一話だけユニオールが出てこない話はありますけれど、あれは蒸発したユニオールの父親の昔話らしいですね。こういった話もっと大量に書いて九〇〇ページぐらいの一大サーガにするみたいなことインタビューでいっていたらしいですが、一ページ書くのに二十枚原稿用意してから書くという、恐ろしく効率の悪い書き方をしているので何年先になるか分からないですね。件の『オスカー・ワオ』も書き始めてから書き終わるまでに十一年掛かったそうですし、一体いつになることやらというのが感想ですが、読みたくはありますね」
「そうそう。手を変え品を変えてフラれる話をずっと書き続けているの凄いよね。フラれる話とは違う話も入っていたけれど、まあそれはそれとして凄い。最終話のなんだっけか、えーと……」
「「浮気者のための恋愛入門」ですか?」
「そうそう、それそれ。アレが一番面白かったなあ……栞はどれが好きだった?」
「私も最後の話が一番好きでしたねぇーまるでジュノ・ディアスの実体験みたいな感じで、変なリアリティーがありましたよね」
わたしは栞の黒ストッキングをぱっつんぱっつんさせながら、飛び出してくる匂いくんかくんかとかぎつつ頭の位置を移動して、鼻先を栞のおまたの方に向けてすーはーすーはーと喫栞する。
なんか変態チックな感じがしてなかなかいける……「ぐあっ!」なでなでして貰っていた部分に拳骨を食らう「なんて所をかいでいるんですか!」と栞が震えながらいうので、一瞬「お……」とだけいって頭を浮かしたら机の天板に頭をゴンとぶち当ててしまい、栞の股ぐらの中で「ぐうう」といいながら悶えた。
「詩織さん! やめっ……やめて……」
栞の息づかいもなんだか湿り気を帯びてわたわたとなっている。
わたしの方は天国と地獄がいっぺんに襲ってきて、無駄に悶えている。
暫くして。
「ごめんってばーもうやらないからさぁー」
「信じられません! 女の子の股間の匂いをかぎたがる女子高生とか酷すぎます!」
「ホント! マジでやらないからさ!」
「ホント、ホント! なんかに誓うから!」
「まあ今回だけは許しますけれども……」
「本当だよ、もうやらないよー」
隙があればまたやるけれども。
と内心強く思いながら、黄緑色の本に手を伸ばす。
「『オスカー・ワオ』でも女たらしだったけれど、こっちの『フラれる』に出てくるユニオールはマジで最低男でちょっと笑っちゃった。時々凄い深く沈み込む事もあるけれど、基本は馬鹿やっているよね。最後の「浮気者のための恋愛入門」も馬鹿な部分と暗い部分があって色々と感情が揺さぶられる感じだった」
「いいですね。感情を揺さぶられる読書体験ってなかなかできないものですからそういう所読み取れると本当に読書に慣れてきて、ちょうどその時に読むのにいいタイミングでちょうどいい本に出会ったという幸せな体験だと思います!」
そういって栞は手を細かくパチパチと叩く。
「でへへー、やっぱりわたしも読書家として一枚……いや、三枚ぐらい皮がべろりと剥けたのかな? 褒めて褒めてー」
そういって栞の太股に頭を乗っけようとしたらいきなり栞が椅子を引いたので、虚空に頭を投げ出す羽目になった。
「あれーあれー? おかしいな……あの暖かくて柔らかくて香しいわたしだけのエル・ドラドがない」
腹筋に力を入れて体制を整えると「頭なでなでは……?」と栞に訴えかけるも「その手にはのりません」とピシャリとはねつけられた……。
おかしい……。
いつもならご褒美のなでなでしてくれるはずなのに……。
「詩織さんのそういう、下心があるというかえっちな所は本当にユニオールみたいですね……」
なんかそんなことをいって呆れておられる。
あれれーおかしいなあ……?
「おかしいのは詩織さんの頭ですよ……」
「たはーこれこれはキツいご冗談を!」
「別にご冗談ではないんですが……」
「ご冗談を……!」
「あっはい……」
栞は椅子をまた戻して本をパラパラとめくり出す。
「この本は『オスカー・ワオ』のような注釈が凄まじい数載っているということもなく、ましてや注釈の中でストーリーが進むみたいな話もないので読みやすさは断然こちらというか、普通の本ではあるのですが、詩織さんもいったように手を変え品を変えてユニオールの子供時代から中年の時代……おそらく作者のジュノ・ディアスと同年代までの話を描ききっているのは見事ですよねぇ。前作の『オスカー・ワオ』に見られるポップに変化したマジック・リアリズム風の作風もなりを抑えていて、ただひたすら淡々と語りかけてくるような作品が多いですね。読む順番としては間違いなく『オスカー・ワオ』を読んでからの方が楽しめると思うのですが、読みやすさだけ取り上げるのなら、こちらの『こうしてお前は彼女にフラれる』の方が読みやすいですよね。ネタ的な意味でも刊行順に読んだ方がいいとは思いますが、前作の『オスカー・ワオ』はポップで軽妙な文体に隠されて気づきづらいですが、アレでいて癖のある読みづらい文体なので、読書としては割と上級者向けな所ありますよね。ピンチョンとかの系譜に近いものがありますね!」
「えーじゃあ『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』読み切ったわたしは偉い……?」
「まあそれなりに本読みとしての経験値は着実に積み上がっていると思いますよ、これは本当にそう思っています。エラい!」
「でへへーじゃあまたいい子いい子してー」
「駄目です」
ピシャリといわれる。
「そんな殺生な……」
「まあ読書に慣れてきたところで、難しい本に挑戦してみるのもいいかもしれませんね。そろそろ『カラマーゾフの兄弟』とか読んでみてもいいかもしれません。あと『カラマーゾフの兄弟』というかドストエフスキー……だけではなくて、ラテンアメリカの文学や西洋の古典的作品、それから日本の作品でも明治の文豪達の作品にも影響を与えている『聖書』とかも一度ちゃんと読んだ方がいいかもしれませんね。私『聖書』だけでなくてゾロアスター教の『アヴェスタ』とか原始仏教の『スッタニパータ』とかイスラムの『クルアーン』とか読める環境にあるんですが、唯一読み切ったのが『スッタニパータ』だけなんで、そういう古代聖典みたいなのもちゃんと抑えておきたいですね。特に『聖書』は世界文学と呼ばれるものをちゃんと理解するためには読んだ方がいいといわれたことがありまして、確かに高校生の内にチャレンジしてもいいかなと思っているんです」
「『聖書』ってあれでしょ? 人の名前が延々と続くという噂の……」
「まあ確かにそういう部分は多いですよね」
そういって栞は苦笑いしつつも「今年は『聖書』にこだわらずとも、分厚い本にちゃんと挑戦してみたいなと思っています! 詩織さんも一緒にこの挑戦にお付き合いいただければ嬉しいかな……って……」
「うーん……分厚い本かあ……まあ、うん。わたしも読書に慣れてきたからお付き合いします! 栞とお付き合いします!」
「言い方!」
「でへへーいいじゃんいいじゃん! こうして彼女にフラれないってハッピーエンド欲しいじゃん!」
そういって栞の太股に手を置いてさすさすと触っていると「んまっ! 破廉恥!」といって怒られた。
今年はわたしも読書上級者になりたいなと思い、今まで面倒くさがっていた本達ともちゃんとお付き合いしていけたらいいなと、栞の太股をさすりながらぼんやりと考えていた。
ジュノ・ディアスという作家は本当に遅筆で、1ページ完成させるために原稿用紙20枚以上のメモを作成するそうです。
自分も拙いながら創作するにあたっては真似することは出来なくても、そのような心持ちで行きたいなと思う次第です。
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次のネタは決まっているのですが、一年以上前に読んでそのまま上手く消化(昇華)出来なかった難しめの本なので予定は未定ですが、お付き合い頂けるとありがたいです。
ではまた近いうちに!