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127伊藤計劃『ハーモニー』

暫く文章からも読書からも離れていたら明らかに文章が下手になっているので、今後はしっかりとしたいです。

申し訳ないです。

「これなら詩織さんも満足してくれるはずですよ……」


 そういって栞が取り出した本は真っ白でイラストも何もなく、ただタイトルだけが書かれていた。


「伊藤けい……なに?」


「伊藤計劃で『ハーモニー』です。ほら詩織さん昨日エンタメ小説が読みたいっていっていたじゃないですか」


「あれ? そんなこといったっけ?」


 栞は悲しそうな顔をして「詩織さん……」と呟いた。


「昨日詩織さんがいってたじゃないですか。最近ブンガクブンガクばっかりだから何かエンタメ小説が読みたいといっていたのは……」


「あーはいはい! 思い出した思い出した! 最近栞はブンガクの本ばかり渡してくるから、たまにはぱーっと何も考えないで読めるヤツがいいなって言ったのは覚えています。はい。思い出しました。はい」


「まあいいでしょう。作者はイトウケイカクと読みます。伊藤計劃はSF作家なんですけれど、彗星のごとく現れて、一躍人気作家になったものの、病により三十四で亡くなってしまいました。この『ハーモニー』は当然SF小説なのですが、あまりエンタメ小説を読まない私が読んでも、大変優れた小説だと思います。ディストピア小説の系譜に上る小説ですが、それまでの小説とはまた違った切り口から書かれています」


「へーSFねぇ。いいんじゃないでしょうか。ディストピアもちょっと詳しくなるとツウって感じがしていいかもー」


「読書はファッションじゃないですよ」


「まあまあお堅いこといわずにー。で、どんな話なの?」


「そうですね。ちょっとミステリチックな所もあるので、あんまり詳しく話すと面白みが失せてしまうので、特徴をコンパクトに纏めてみましょうか」


「よろしうに」


「色々とディストピアって設定があると思うんですが、この作品は全ての人は健康であり、アルコールや煙草、カフェインなんかも摂取することをやめて、人間は社会のリソースとなって政府ならぬ生きる府の生府という細かく区画が分かれた行政機関に分かれているものに管理され、体にはナノマシンのようなものを入れられて、常に生命の状態を管理され、病気にも何にも罹らず、どんな人間でも百何歳まで健康に生きるという、柔らかく真綿に包まれたような緩く生暖かい、健康を強いられる世界なんですね」


「へーいいじゃん。健康で長生きできるってそんなの願ったり叶ったりじゃん!」


「まあ、それでですね。一方的に健康を強いられることによって、人間が均一化してしまい誰の顔を見ても見分けがつかないようななんともいえない世界になってしまうわけですね。そしてキリスト教でも禁止されている自殺に自分の光明を見いだす子供達なんかが出てくるわけです」


「へー。そんなもんなのかなあ」


「まあそうなった理由が「大災禍」と呼ばれる疫病や戦争が頻発して、核爆弾が世界各地で爆発した世界から数十年経っているので、そういう健康でみんな長生きする世界になってしまっているんですね」


「あーいかにもSFって感じしてきた」


「主人公はその体に埋め込み体調を監視するシステムの基礎論文を作り出した博士を父に持つ少女なんですが、高校の頃に友人となった天才少女ともう一人の友人達と、体内のそのシステムをまだ体内に入れられていない状態で、飲むと全ての栄養が体に取り込まれなくなるという薬を飲んで三人で自殺しようというところから始まりますね。なかなか衝撃的な始まり方です。自分の体はお腹もおっぱいも子宮もすべて自分の思い通りにできなければ厭だというわけです。他人に管理されて健康でいるなんて耐えられないと、まあそういうことで餓死する道を選ぶんですね」


「でも、そこで死んでたら話続かないわけだから、死ななかったんでしょ?」


「その通りです。主人公の女子高生は、世界中の紛争地帯で違法に改造された遺伝子なんかの取引を監視したり、停戦交渉をしたりする螺旋監察官という職業に就いています。この螺旋というのは遺伝子の螺旋のことらしいですね」


「へー世界中で健康な世界になっているっぽいのに、戦争とかはあるんだ」


「そうなんですね。そうしてそこで違法に改造したツールを地元の戦闘員なんかに渡してワインや煙草を貰うという裏取引をしているんですね。なぜかというと、禁止されているそれらで自分の体を痛めつけるのが目的だという、なかなかに歪んだ理由で。そのために危険な最前線にいってそういう取引をずっと続けていたそうです。で、これが上司にばれて日本に戻されるんですが、ここで例の友人の一人に会うわけです。そしてそのあと食事中に衝撃的な事件が起きて、さてどうなるというところで、色々とディストピアらしいからくりが出てくるんですねぇー」


「えー、その先どうなってるのよー?」


「その先どうなっているかは読みましょう。軽い感覚で読めるエンタメ小説ですよ! しかもちゃんとしっかりと話が作り込まれているので、軽い感覚では読めるけれども、話自体はしっかりと重厚な厚みを持っていますので、楽しんでよめると思います」


「うーん。まあミステリーの要素あるなら、自分で読んだ方がいいかあー。まあいいやありがと。なんか真っ白でよく分からない本だけれど読んでみますか」


 栞はそこでふふふと笑うと、スマホの画面を見せてきた。


「実は真っ白なのは昔の表紙でいまの表紙はこんな感じで登場人物のイラストが描かれていますね。ちょっとラノベっぽい感じになっちゃっていますが、アニメにもなっているのでそのキャラクターと一緒ですね」


「あらま! アニメになっているんだったら、アニメ見ちゃえば話すぐに分かるんじゃなくて?」


「分かるんじゃなくて? じゃありません。アニメ見たらネタバレもいいところだし、当然話もかなり簡略化されていますから、本読んでから見た方がいいですよ」


「ということは栞はアニメも見たのかね?」


「見ましたよ。当時の評価がどうだったのかはちょっと分からないですが、正直なところ話がぐっとカットされてて、話の細かいところがよく分からない感じでしたね。これは私の読解力が低いだけかも知れないですが、正直なところアニメだけみて原作読まないのはもったいないが過ぎると思いますね」


「あら。アニメだめだったのか……」


「伊藤計劃はゲームのノベライズの他には『虐殺器官』と『ハーモニー』そして最初の数枚だけ書いていて未完に終わった『屍者の帝国』という長編を書いています。因みに最後の『屍者の帝国』は盟友の円城塔が完成させていて、この三作品は全部アニメ化されていますね。私は他の原作はまだ読んでいないので、この『ハーモニー』とか読んでいませんが。『虐殺器官』と『ハーモニー』はなんとなくつながっているみたいですね」


「へぇーじゃあその三冊読めばこの作者はコンプリートできるわけだ!」


「そうですね。コンプリートしたといってしまっていいと思います」


「ディストピアかあー色々読んで詳しくなったら結構有識者ぶれるかな……」


 んもう! といって栞が怒ったような顔をする。


「そういう自慢するために本読むもんじゃないですよ。でもまあディストピアの系譜という意味では結構面白い話が合って、しばらく前にザミャーチンの『われら』って小説読みましたよね?」


 顎に指を当てて、一瞬うーんと唸った後、ああはいはい。と思い出した。


「百年ぐらい前の元祖ディストピア小説だっけ?」


 栞は満足げに頷き、そーですそーですといった。


「あのオチは覚えていますか?」


「えーと、想像力っていうのは病気の一種だからそれを手術してなくしてしまえば幸せになれる! だったっけ?」


「そうですねぇーまあこれ以上はいいませんが、ザミャーチンという人がどれだけ先見の明があったかというのが分かりますね。当時はまだザミャーチンって日本では凄いマイナーな存在だったから伊藤計劃が読んでいるとも思えなかったのですが、妙なハーモニーを奏でているんですよね。これから先の内容は是非本を読んでくださいな」


「うーん、まあエンタメならね。わたしも読みますよ詩織先生、へっへっへっ!」


「なに変な薄ら笑いしているんですか……」


「おっぱいもお腹も子宮も自分のものねぇー。なかなか過激なことを仰る」


「んま! 破廉恥!」


「はれんち!?」


 とりあえず久しぶりにエンタメの本を読んでみようということで、ディストピアの有識者になるぞと意気込んでいたら、なんかディストピア小説を何冊も鞄から取り出してきたのでさすがに読み切らないとうめいてしまった。

 読書による社会の支配のディストピア小説とか書けるんじゃなかろかとふと思ってしまった。

伊藤計劃『ハーモニー』は読んだことある方も多いのではないかと思いますが、私は初めて触れました。

逆にザミャーチン『われら』は読んだことある方少ないと思うので、是非比べてみてはいかがでしょうか?


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ではまた近いうちに。

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