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亡くした記憶

今回、ある事件をモデルにした事故が出てきますがフィクションです。



(月光………)


 朝の学校からメロディーが、校門を抜けてすぐに聞こえてきた。

 愛花だ。

 滑らかに動く指、的確に再現される音。

 だがいつもと違う。

 その異変はすぐにわかった。


 将斗に気付いて手を止めた愛花は、優しく笑っていた。


「愛花。具合悪いのか?」


「え?」


 驚いたように愛花は目を細めた。


「わかる?」


「お前は普段が明るすぎるからな。落ち込んでるとわかりやすい」


「そうかな?」


 不思議そうに自身の口や頬を触る。だが将斗が気付いた要因は表情だけではない。


「ピアノ、いつもと弾き方が違う」


 愛花はもっと楽しそうに弾く。もっと軽やかに、もっと鮮やかに曲を奏でるのだ。

 だがそれが今日は見られなかった。愛花はピアノと将斗を交互に見た。その目は丸く見開かれ、彼女の驚きの心情を表していた。


「……将斗って、ピアノ弾けたっけ」


「弾けない。弾いたこともない」


 だが将斗にはこれまでの仕事で鍛えられた眼がある。

 これまで学校で愛花と話し、過ごした時間がある。 


「でも、お前が落ち込んでいるくらいならわかる」


 愛花は椅子に座ったまま将斗を見上げていたが、やがて人差し指で鍵盤を叩いた。ポーン、と軽い音がこだまする。


「凄いね、将斗は」


「だからお前がわかりやすいだけだって」


 なにより、愛花には落ち込んでほしくない。

 いつものはじけた笑顔でいてほしかった。


「ねえ、将斗」


「ん?」


 相談事かな?そう思って首をかしげてみる。愛花はあの屈託のない笑顔を作って将斗を見上げた。 


「今日学校終わったらさ、遊びに行こうよ」


 いたずらっ子のような笑顔。

 たとえそれが作り物だとわかっても、限りなく普段の彼女の笑顔に近い。

 将斗は黙ってうなずいた。







「アロー、イヴァン」


『アロー、ティーナ。学校の生活はどうかな』


「楽しい。クレムリンの時と違って、広い分野を学べる」


『なによりだ。昨日君が話していた、吉高淳一の秘書だが……確かに怪しい』


「………聞いてもいい?」


『出生不明。日本での戸籍も、闇ブローカーから仕入れたものだった。学歴、職歴も不明』


 千晶は眼を細めた。イヴァンは続ける。


『今のポストも、吉高と親に接点があったから就けているようなものらしいが…だが写真を見る限り彼は純粋な日本人にも見える』


 香龍会の危険性を受け、中国へ旅行に行く日本人はめっきり減っている。その上、テロ国家への共鳴を危惧して日本政府は規制を設けているのだ。

 日本人がテロ国家に直々に参加するなど、希少なのだ。


「でもイヴァン。この人は危険」


 写真のコピーを見ながら千晶は告げた。

 危険を見つけることのできる、訓練された軍用犬のような鼻。千晶にはそれがあるのだ。


『今はデータが足りない。私もこの人物について、もう少し調べてみよう』


「スパシーバ、イヴァン」


『そうだ、レーナから連絡がきてた。高校に入ったのにティーナが写真をくれないとぼやいていたぞ。写真集にするにはまだ足りないと』


 無条件で重たすぎる愛。

 それを日本(昴)、そしてロシア(エレーナ)からも受けていることを実感し、千晶は思わず眉間に皺を寄せてしまった。





『スバル?いま良いかしら?』


「キャシー………悪いが学校のカフェでゆっくりしてるんだ。今、そういった話は控えてもらえないかな」


 昴の前にはコーヒーカップとノートパソコンがある。


――お兄ちゃん………どうして私を見捨てたの?――


 ナイフを持って返り血を浴びた少女が虚ろな眼をこちらに向けていた。


『あら。学校は学ぶところでしょう?』


「これも学問さ。弟妹限定の心理学。僕らの家庭事情は複雑だろう?そんな複雑な家庭でうまくやっていくために、これは必要な知識なんだよ」


『本当に口だけは達者なのね』


――ああああああああああああ‼――


――どうして‼どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして‼――


 数秒後、画面は暗くなりバッドエンド特有の悲しげなBGMが流れ始めた………


『………敢えて聞くけど、貴方の弟妹はそんなに危険な子なのかしら?それを参考にしないと生き残れないほどの状態なの?』


「危険だけど、もっとスリリングな弟妹だね」


『病んでる以上の危険性?さすがに気の毒だわ………』


「それより用件はなんだい?」


『………そうね。まだ詳しいことはわからないのだけど、先代が浜トンネル崩落事故の件を調べていた節があるの』


 その事故は知らない。詳しく聞いてみると、昴達がテロで散り散りになった後の事件だった。

 だがその事件と今回の任務に、何の関係が?


 上司はその事件の概要、続いて場所、被害者。最後に、先代がこの情報を保管していた場所を述べた。






「日下部さん………」


 昼休みが始まってすぐ、クラスメートが声をかけてきたが表情は暗い。その理由を重々承知している紫音は仕方なく席を立った。


「廊下で待ってるって………」


 やっぱり。

 もうこのやり取りには慣れたようなもので、最近はため息を吐くことも少なくなったくらい。

 クラスメート達の心配そうな、でも関わりたくないのは見え見えな視線を一身に受け、廊下に出ると案の定、呼び出してきた本人はいた。


 端整な顔立ち。カールさせた長髪。きちんと制服を着こなし、腕には緑色の腕章、この学校の生徒会長の目印がある。

 背後には長身で凛々しく鋭さを感じさせる、ポニーテールの子を従えるかのように連れている。


「日下部さん。屋上まで良いかしら」


 このやり取りはいつものことだ。

 いつもみたいに受け流して最後に逃げれば済むのだから。






―――何で一人なの?お父さん、お母さんは?―――


 母が男の子に声をかける。この公園で私と同い年くらい(当時の私は5歳くらいであったが)の男の子が一人でいたのだ。今考えれば不自然にもほどがある。母が心配して声をかけるのも無理はなかった。


―――………母さんはしごとに………―――


―――お父さんは?―――


―――……アメリカで………―――


―――っ‼―――


 母の肩が強張る。

 この時既に理解していたのだ。第二次世界同時多発テロがあってまだ一ヶ月。亡くなった日本人は数知れず、目の前の男の子の家族もそうなのだと。


―――ごめんね、坊や………―――

―――………………―――


 男の子はなにも言わずに、母から目をそらした。不貞腐れてるようにも、泣くのを我慢しているようにも見えた。

 母が心配しても、この男の子は笑ってくれない。そう本能でわかった私は、男の子に歩み寄った。


―――じゃあさ、いっしょにあそぼ‼―――


 いくら本能でとはいえ、なぜ友達になりたいと考えたのかはわからなかった。

 案の定、男の子は驚いて私を見る目に疑いの色を見せた。


―――あそんでるワケじゃ………それになんで………―――


 お前と遊ばなきゃいけない?

 そう言いたげな目を向けられ、私は幼いながらに理由を考えた。


―――一人であそんでもつまんない!わたしもあそんでくれるひといないから、ちょうどいいじゃん‼―――


 正直に言えば、この男の子をこのままにしておいたら取り返しのつかないことになる。そう察知していたのかもしれない。

 握る掌に力が込められるのを感じたが、私も負けじと握り返した。やがて男の子は観念したように。


―――………わかったよ―――


―――やった!―――


 素直に嬉しかった。なぜかはまだ知らなかったけど。

 そして私は母に見守られながら、その子とたくさん遊んだ。

 ただ、はしゃいで、遊んで………そうしていくうちに男の子が笑顔を見せてきて、私も嬉しくて笑っていた。やがて海の方が黄金色に染まる頃、母が腰を上げた。


―――そろそろ時間よ、愛花………―――


 本音を言えばまだ遊びたかったが、男の子も気を遣って距離を取り始めたのでおとなしく母についてゆく。が、その前に聞いておきたかった。


―――ねえ、また遊べる?―――


 すると男の子は迷った様子で私と母を見ていたが、ちゃんと返事をしてくれた。


―――もちろん‼―――


―――坊や、お家は?どのあたり?―――


 母が心配そうに尋ねる。


―――ここからすこし………お前は?―――


 そこで私に聞いてきた。母が代わりに答える。


―――積丹よ。すっごく遠いけど、いい場なの―――


―――積丹?どこ?―――


 首をかしげる男の子。


―――余市の方。海がとっても綺麗よ―――


―――………でもべつに、海なんて……―――

 

―――すごく青くて、宝石みたいよ。きっと見たら気に入ってくれると思うな―――


―――もしかしてあそびにきてくれるの?‼―――


 期待を籠めて手を握る。男の子は困りつつも何かを決めたように頷いた。


 この時の男の子と高校で再会したとき、そして彼が積丹ブルーを宝石と表現したときは心臓が止まるかというくらい驚いたのである。






『ティーナ。昨日のスバルの情報とお前の考えをまとめると、脅迫状は直に事務所に届けられ、届け出は出さない姿勢。それを仕切っているのが瀬良という側近であることから、お前は奴がヨシタカを狙っている、と考えているんだよな?』


「ダー」


 風の強い屋上で千晶はイゴールと電話していた。昼休みは始まったばかり。昼食のサンドイッチをつまみながらの通話である。


『その瀬良とかによる自作自演か………』


「そうすれば脅迫状の出所が不明な理由もわかるが………」


『………』


 千晶は唸った。

 自分が瀬良に目をつけたのは、写真越しにも自分と同じにおいを感じ取ったからだ。だがそれだけで、目的や理由はまったくわからないまま。

 すると人の気配を察知した。

 知らない上級生2名と、まさかの紫音であった。


「シトー?」






「最近の調子はどうですの?」


 ブルジョア。その単語が第一印象で浮かぶほど、生徒会長の佇まいは美しく造られたものだった。


「………まあ、悪くはないですよ」


「そうでしょう。最近のあなたは機嫌がよろしいとお聞きしますし。何か嬉しいことでもございましたか?」


 紫音が素直に理由を言わなかったのが気にくわないのか、生徒会長の目にわずかだが陰りが見えた。

 それを察した側近の女子生徒が踏み込んでくる。


「貴様……」


「いいのよ、和泉」


「伊織さま、しかし」


「そういえば日下部さん。最近噂を耳にしたのですが、仲の良い幼馴染みがこちらの学校にご入学されたそうですね」


 その嫌らしい笑みと口にした存在に、反射的に指先が反応してしまった。

 この生徒会長はそれを見逃さない。


「噂と名前は聞いておりますので、私これから、その方とお友だちになろうと思うのですが………よかったらご紹介していただけません?」


 この人はいつもこうだ。

 いや、それよりも関係のない千晶をまきこもうとするその考えの方が納得がいかなかった。


「お断り………します」


 それを聞いて反応したのは側近の女子だ。


「いい加減に………。?‼誰だ?」


 続いて紫音が、最後に生徒会長が振り向き、3人揃って口をポカーンと開けた。


 彼女たちより1学年下のバッジ。伸びかけの黒髪。瞳は大きく、幼さの残る顔立ち。

 そしてなぜか片手には弁当箱。もう片手にはカツサンドが………


「………千晶ちゃん………なにしてるの?」


 紫音が冷静に尋ねる。


「ランチ」


 いや、見ればわかりますから。

 生徒会長はすぐにこの人物がわかったらしい。しかし側近の女子生徒は生徒会長を肩で庇うように立ちはだかり、千晶を睨み付けていた。


「伊織さま、この1学年さっきまで気配を感じさせませんでした……」


 確かこの和泉という生徒、実家が道場とかで剣道の腕は一流とか………


 警戒するのも無理もない。

 プロですから。


「あなたの悪い癖よ。普通と違うからってすぐに威嚇するのはやめなさい」


 さすが生徒会長。

 その辺の器は大きかった。


「はじめまして、千晶さん、でよろしかったかしら?私は生徒会長の九条伊織と申します」


「橘千晶です。よろしくお願いします」


 サンドイッチを食べる口を止め、千晶は3人に近付いた。


「私、様々な生徒との交流を………」


「顔色良くない。お昼、食べた?」


「まだだけどそれは………モゴォッ?‼」


 千晶がつまんでいたサンドイッチを紫音の口に押し込んだ。


「それで橘さん。貴方も良かったら私達と……」


「ごはん食べてないなら、と思って」


「お弁当なら………ゴホッ………あるから………ケホッ」


「一緒に生徒会に………」


「お茶でも買いに行こっか」


「入って………話を聞きなさい‼」


 まったく動じることなく紫音の背中を押して屋上から立ち去ろうとする。


「ちょっとぉ‼」


 気品を投げ捨てた生徒会長の叫びを無視して紫音を連れていった。

 その後千晶に差し出された紙パックタイプのお茶を受け取りつつも、紫音は複雑な気持ちだった。


「千晶ちゃん………」


「シトー?」


「あの人たちに逆らうとね、学校での生活が苦しくなるの……」


「ふーん」


「……私に関わったせいで千晶ちゃんまでこの学校で暮らしづらくなったら嫌なのに……」


 なんて将斗や昴さんに謝ろう‼そう頭を抱えると千晶は納得した、と手を叩いた。


「だから紫音ちゃん、学校では関わるなっていつも言ってたんだ」


 はい、理解が早くて素晴らしい。


「なら平気。紫音ちゃんがいるし」


 そう平然と言う千晶はとても眩しく思えた。この子は本当に変わらない。


「シベリアの作戦で孤立させられたこともあるから、仲間がいない状況には慣れてるし。それと比べたら学校生活も平気」


 最後に関与してはよくわからないが。


「でも紫音ちゃん、苦労してるね」


「体質のせいで入学早々失敗したから……私の自業自得だよ」


「体質の………」


 ふと、千晶が目元を曇らせた。何かあったかと紫音がアイコンタクトで問うが、千晶が答えることはなかった。






 港駅近くのショッピングモールのゲームセンターに2人はいた。 

 クレーンゲームの中には小さなぬいぐるみがいくつもあり、愛花が目を輝かせた。

 口にはしていないが、きっとぬいぐるみに惹かれたのだろう。将斗は500円を1枚、台に入れた。

 愛花が驚いたように将斗を見る。

 さっきは遅れをとったが、今度はそうはいかない。

 クレーンゲームには慣れているのでな。


 先の敗北感から意味のない対抗意識を燃やしていたのかもしれない。


 500円でぬいぐるみを2つも取れれば上出来。アイスショップでアイスをつつきながら愛花はテーブルに置かれた獲得品、ぬいぐるみ×2を嬉しそうに携帯で撮っていた。



「すごい‼UFOキャッチャーが上手な人ってかっこいいよね‼」


「そりゃどうも」



 アイスをスプーンで食べながらすました表情で返す。

 ガンシューティングの遅れは返上したつもりだ。



「愛花にやるよ。俺がぬいぐるみ持っててもおかしいし」



 携帯から視線がこちらに向けられる。


「いいの?‼」


「ああ。こんなんでよければいくらでも取ってやるよ」


 黙って将斗とぬいぐるみを見たが、何を思ったかぬいぐるみのひとつを将斗の方に押しやり、もうひとつを受け取った。


「それじゃあ……ひとつもらうね‼」


「ん?別に両方……」


「いいの‼」


 笑顔で断られてしまった。


「それにこうして分ければお揃いになるしね」


 ぬいぐるみに視線を落として将斗は口を開けた。

 2人でお揃いのぬいぐるみ。


 慌てて否定しようとするが、嬉しそうにぬいぐるみを手に取る姿を見ると、否定することが彼女の笑顔を奪う最低な行為のように思えてきたのだ。


 家族とは違う関係。

 血の繋がりも長い付き合いもない。

 

 あくまでクラスメートなのに、こうして彼女の笑顔を見ていたいと。


 本能的に思ってしまうのはなぜだろうか。




 夕陽が海を黄金色に染める様を港公園で眺めながら二人は遊歩道を歩いていた。


「ん~っ‼よく遊んだ‼」


 両手を上に組んで伸びをする愛花のセーラー服が上に引っ張られ、少なくとも紫音以上はある胸のラインが制服越しに見えた。


「やっぱりストレス発散は大事だよな」


 ワルツを踏むように数歩先を歩く愛花を見る。

 少なくともいつもの彼女の笑顔に戻っていた。

 日だまりのように明るく、見ているこっちも心を照らされるような笑顔。


「そうだね‼楽しかった‼」


 その日だまりのような笑顔を見て、心を照らされて、将斗は正体不明の動揺に襲われる。

 だが同時に嬉しくも思ってしまうのだ。

 よかった。愛花が元気になってくれて。

 回るのをやめると将斗の方を向きそのまま歩きだし


「また、遊べるかな」


 と言ってきた。


「当たり前だろ」


 そう返して何か違和感を覚えた。最近感じる違和感だ。

 愛花の表情は笑顔で、それでもイタズラっぽさを残している。


「一緒に遊んでよ。って言ったら?」


「遊んだじゃねーか。なんだよそれ」


 また違和感。さっきよりも強い。

 愛花は電灯を見上げた。今度は笑顔はなく、何か想い出に浸っているような表情だった。


「積丹は海がとっても綺麗なの。宝石みたいに」


「それ、この前俺が………」


 そこまで言いかけて口を止めた。

 積丹の海を宝石にたとえたのは誰か?

 少なくとも最初に言ったのは将斗ではない。将斗はその表現を受け、積丹に興味を持つようになったのだから。


 では誰か?

 将斗に積丹を教えた人物。

 名前の知らない親子の顔がぼんやりと浮かんできた。


 今までの会話を思い出せばわかる。

 積丹で愛花はそう言った。

 ずっと前の記憶を忘れていたせいでそのときはわからなかったが。


 なにも出会った場所が学校だけとは限らない。


「そうだよ、将斗」


 何度もいうが愛花の笑顔は眩しい。

 だがその眩しさの中に今は儚さが垣間見える。








『千晶。今度僕を積丹に連れてってほしい』


『……最近、よく話題なる土地だね。何か掴んだ?』


『推測だけ。僕らの共有するものと関係している可能性がある。積丹に行ってそれを確かめたい』


『………それって』


『ああ』

 

 これらは電話でのやり取りである。


『ブラックボックスだ』


 ブラックボックスとは昴達が、とあるものを呼ぶさいの隠語。

 3兄妹のATCの動力媒介、パンドラと呼ばれるものであった。





「………いつから」


「入学式で見かけたとき。面影があったから」


 いくら面影が残っていても、数年前に一度だけ遊んだ相手の顔を明確に覚えているなんて。


「それと………お母さんが亡くなる前の思い出だから余計に覚えていたのかも」


「亡くなる、って………まさか」


 声をかけてきた優しげな女性を思い出した。

 愛花は静かに微笑み、将斗に一歩近づく。


「事故に巻き込まれたの。将斗と出会った後………将斗、積丹に来る途中に慰霊碑は見なかった?」


 言われてすぐに思い出した。

 老婆が花束を抱えて降りた場所だ。

 

 事故がは10年前。積丹の海岸沿いのトンネルで起きた。

―愛花の母は、たまたま仕事に行く途中で車を運転しており、その事故に巻き込まれたらしい。


「………………」


「なにも言わないんだね」


「当たり前だ。言えるもんか」

 

 将斗達の父は第二次世界同時多発テロの際に銃弾と瓦礫に飲み込まれ、命を落とした。


 残された将斗達を世間は可哀想だと称したがあの惨劇を可哀想の一言で済ませることなんて将斗には出来ない。


「愛花は………同情してほしいのか?」

 

 ピタリと愛花が止まった。表情からは感情が読めず、まるでこれからいう言葉を待っているようにも見える。

 だからって、気を遣った言葉を投げかけてやれるほど将斗は器用ではない。昴みたいな話術を身に付けていない。


「俺も親を失った。もしかしたらお前が欲しい言葉を出しやすい立場かもしれない……

 けど俺は父さんを失った時の気持ちを表現することが出来ないんだ」


 決して父が嫌いだったわけではない。

 だからこそ失った痛みを簡単な言葉で表すなんてしたくない。

 将斗が理解しているふりをして同情と慰めの言葉をなげかけるのは簡単だ。

 だが親を失った痛みを知っている以上、愛花の母への思いを言葉ひとつで片付けるなんて無理だ。


 ああ、愛花もこの痛みに苛まれていたのか。


 そう思うだけでいつもの元気な愛花の姿にばかり囚われて、彼女の抱える痛みに気付けなかった自分が恥ずかしくなる。


「悪いな…お前が欲しがってる言葉、かけてやれそうにない」


「……ううん、いいの」


 気づけば愛花はそんな将斗の胸に頭を預け、シャツの裾を掴んできた。


「………え」


「……ごめんね、将斗……」


 その声はかすかに震えていた。



「少しだけ……泣かせて」



 前置きをして、将斗の胸で泣き始めた。

 学校ではいつも天真爛漫だったからか、彼女が泣くこの様子はとても新鮮に思えた。

 家族を亡くした記憶は将斗にとっても辛いものだった。だからこそ愛しく、失った家族の思い出も、取り戻せた家族との絆も大切にしたいと思うことが出来た。

 愛花は母の死を受け入れ、明るい自分を保ちつつも、この痛みを訴えることが出来ずに苦しんできたのか。


 泣き止み、いつもの明るい笑顔に戻るまで将斗は待ち続けた。

今回、将斗は愛花の涙で聞く予定だった吉高の関係を聞くことが出来ませんでした。それが今後にどのような影響を与えるのか………?

また、昴はこの件で積丹に興味を持ち、千晶は愛花に対して勘ではありますがある可能性を疑っております。






おまけコーナー


五木「はい!これは作者が友人であり読者でもあるPN・グロックタワーさんからいただいた質問ですね‼」

山縣「えーと、『紫音は親から迫害されている設定ですが、具体的にはどんな扱いをされていたのですか?』」

五木「はい!説明させていただきますね~‼

まず紫音ちゃんですが、人の心を覗き見る体質です!不気味に思った両親は最初に紫音ちゃんを部屋に軟禁し、客人に会わせないなど、社会的交流すらさせませんでした‼もちろん、疑問を持った紫音ちゃんが質問してきたら暴力で黙らせてます‼」

山縣「軟禁に関しては地元では社交的で人気者だった幼かった将斗さんが遊びに誘うまで続いてますね」

五木「ですがこれだけでは終わりません‼食事は紫音ちゃんが一人だけで食べるように時間をずらしたり、さらには紫音ちゃんの分の食事を作らない、洗い物は別々にさせる、出掛ける際には紫音さんを外す、授業参観には行かない、紫音さんが怪我をしても無視など………」

山縣「育児放棄ですね。見かねた将斗さん達とご両親が紫音さんを夕飯に招くようになったことで紫音さんはようやく家族の温かさを知ったそうですよ」

五木「こんなの許せないです‼いくら違法なバイトとはいえ紫音ちゃんが自力でお金を貯めて親から自立して、私は感激です‼お姉さんは嬉しいです‼」

山縣「……そうだな。紫音さんは財力も男運もお前より上だもn………ぐはっ‼」(バキイイッ‼)

五木「以上、おまけコーナーでした‼」


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