出立
私は夜風にあたりながら頭を冷やしていた。
情けなかった。
いくら頭にきたからとはいえ、妻に手をあげようとした自分が情けなかった。
未だに国への執着を手放せない自分が情けなかった。
それだけではない。
国に固執していることを、妻に見透かされていたのだ。
妻はどのような思いでいたのだろうか。
妻はどんな気持ちで、あのようなことを言ったのだろうか。
妻にあのようなことを言わせてしまった自分が情けなかった。
結局のところ、私は自分のことしか考えていなかったのだ。
自分だけが苦しんでいるつもりになっていた。
だがそれは大きな間違いだった。
私は妻をも苦しめていたのだ。
ふと、妻のことが心配になった。
私は、産み月が近い妻になんという負担をかけてしまったのだろうか。
私は家に戻った。私は愕然とした。
妻は泣いていた。
「大丈夫か?」
私は妻の肩に手をかけながら尋ねた。
妻は涙を拭きながら頷く。
「すまなかった。つい、感情的になってしまった」
妻は何度か首を左右に振ると顔をあげた。
私はさらに声をかけようとしたが、妻はあらたっまった様子で座り直した。
「どうかお行きください。私は大丈夫です。こうなることはわかっておりました。あなたはここに留まる方ではないって、あなたに初めてお会いした、あの吹雪の晩からずっと。覚悟はとうの昔にできております。どうかお気になさらずに、お行きください」
妻はそう言うと深々とお辞儀をした。
「ご心配なさらずに。娘もお子様も、わたくしどもがお守りいたします」
気がつくと、義父母が横にいた。
私は決心すると、妻の介添えで身支度を整えた。
私は玄関を出ると振り返った。
妻、義父、義母の顔をじっくりとみた。
これが見納めになるかもしれない。
もう二度と会うことができないかもしれない。
妻が私の名を呼び、駆け寄ってきた。
私は妻を抱きしめるといった。
「必ず帰ってる」
必ず帰ってる。
たとえ命を落としたとしても、私の魂は必ず戻ってくるだろう。
この場所に。
大切な家族の元に。
愛する妻の元に。
私は霊獣に乗ると出立した。
もう後ろは振り返らなかった。




