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女装王子  作者: 岸野果絵
宿命
28/30

出立

私は夜風にあたりながら頭を冷やしていた。


情けなかった。

いくら頭にきたからとはいえ、妻に手をあげようとした自分が情けなかった。

未だに国への執着を手放せない自分が情けなかった。

それだけではない。

国に固執していることを、妻に見透かされていたのだ。


妻はどのような思いでいたのだろうか。

妻はどんな気持ちで、あのようなことを言ったのだろうか。


妻にあのようなことを言わせてしまった自分が情けなかった。

結局のところ、私は自分のことしか考えていなかったのだ。

自分だけが苦しんでいるつもりになっていた。

だがそれは大きな間違いだった。

私は妻をも苦しめていたのだ。


ふと、妻のことが心配になった。

私は、産み月が近い妻になんという負担をかけてしまったのだろうか。


私は家に戻った。私は愕然とした。

妻は泣いていた。

「大丈夫か?」

私は妻の肩に手をかけながら尋ねた。

妻は涙を拭きながら頷く。

「すまなかった。つい、感情的になってしまった」

妻は何度か首を左右に振ると顔をあげた。

私はさらに声をかけようとしたが、妻はあらたっまった様子で座り直した。

「どうかお行きください。私は大丈夫です。こうなることはわかっておりました。あなたはここに留まる方ではないって、あなたに初めてお会いした、あの吹雪の晩からずっと。覚悟はとうの昔にできております。どうかお気になさらずに、お行きください」

妻はそう言うと深々とお辞儀をした。

「ご心配なさらずに。娘もお子様も、わたくしどもがお守りいたします」

気がつくと、義父母が横にいた。

私は決心すると、妻の介添えで身支度を整えた。


私は玄関を出ると振り返った。

妻、義父、義母の顔をじっくりとみた。


これが見納めになるかもしれない。

もう二度と会うことができないかもしれない。


妻が私の名を呼び、駆け寄ってきた。

私は妻を抱きしめるといった。

「必ず帰ってる」


必ず帰ってる。

たとえ命を落としたとしても、私の魂は必ず戻ってくるだろう。

この場所に。

大切な家族の元に。

愛する妻の元に。


私は霊獣に乗ると出立した。

もう後ろは振り返らなかった。

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