夫婦喧嘩
村に戻ってからも、戦の件が頭を離れなかった。
大国の脅威は以前より指摘されていた。
父も弟も重臣たちも、その動向に細心の注意を払ってはずだ。
現状は一体どうなっているのだろうか。
いや。
もう私には全く関係のないことなのだ。
私は過去を捨て、新しい人生を歩んでいる。
大切な家族がいる。
もうすぐ私の子が生まれるのだ。
今の生活を守ることが、何よりも大切なのだ。
私は内職をしながら考え込んでいた。
「行けばいいじゃない」
突然妻が言った。
私は意味わからず、顔をあげた。
「気になるなら、行けばいいじゃない」
私は妻の顔をじっとみた。
「村は戦の噂でもちきりよ」
私は、何のことかわからないというように首をひねり、視線をそらした。
「気がつかないわけないでしょ」
「何のことだ?」
私は知らぬふりで内職を続けようとした。
妻は私から仕事道具を奪い取った。
「誤魔化さないで」
私は妻から道具を奪い返そうとしたが、妻はそれを床にたたきつけた。
「何をするんだ」
私は床に散らばった材料を拾い集めようとした。
妻は、私が拾おうとした材料を、私の目の前で蹴散らした。
そんなことを何度か続けているうちに、だんだん腹が立ってきた。
「気になるなら、気になるって言いなさいよ」
「ああ気になるよ。それがどうした。お前には関係ないだろ!」
私は思わず怒鳴った。
「気になるなら行けばいいじゃない!!」
妻の言葉に頭に血がのぼった。
行けるものならば、とっくの昔に行っている。
家族が、私には守らなければならない家族がいるからこそ、こうして我慢しているのだ。
いったい誰のために苦しんでると思うんだ。
それなのに妻は……。
「お前に俺の気持ちが分かるか!!」
私は立ち上がると大声で怒鳴った。
「分からないわよ!!」
妻は負けじと言い返してきた。
「なに?私のため?この子のためとでも言いたいわけ?冗談じゃないわよ。毎日毎日辛気臭い顔してため息つかれるほうが、よっぽど胎教に悪いわよ」
「うるさい!!」
私はカッとして拳を振り上げた。
「なによ。殴りたいなら、殴りなさいよ!!」
妻はそう言うと、一歩前に出た。
私は怒りで目の前が真っ赤になった。
このままでは、本当に妻を殴ってしまう。
私は家の外に出た。




