入婿
翌朝、猛吹雪はおさまったが、依然として雪は降っていた。
辺りは一夜のうちに銀世界となっていた。
私は出立しようと霊獣に呼びかけた。
しかし、霊獣は私の呼びかけを無視する。
耳をたて、ときおり尻尾をふるが、立とうとしない。
しまいには、私に尻を向け、反応すらしなくなった。
私は根負けし、雪が止むまで逗留することにした。
そんなこんなをしているうちに、1日のつもりが3日となり、5日が10日となり、気がつくと春になっていた。
私はその家の娘と割りない仲になり、いつの間にか入婿のような存在になっていた。
妻は両親と3人で暮らしていた。
吹雪の晩に私が助けたのは、妻の父親だったのだ。
義父は木彫り職人で、あの日は特注品を街に納品した帰りだったらしい。
妻の家は木彫りと小さな畑と内職で、細々と生計を立てていた。
義父は寡黙な人で、いつも黙々と仕事をしていた。
義父の作品は繊細な中にもほっとするような柔らかな温かみがあった。
義母は穏やかで優しい雰囲気のある女性で、霊獣は彼女に一番懐いていた。
妻は明るく朗らかな性格で、いつもご機嫌に歌を口ずさみながら、家事や畑仕事をしていた。
私にとって一番ありがたかったのは、3人とも私の過去を一切詮索しないということだった。
名乗らない私に、義父は仮の名前までつけてくれていた。
時が経つにつれ、私の中に疑問がわいてきた。
妻も義父母も平気なのだろうか?
素性の全く分からない男を、何のためらいもなく、家族として受け入れることができるものなのだろうか?
ある晩、私は思い切って妻に尋ねてみた。
「気にならないと言ったら嘘になるけど……。でも、知ったとしても、あなたがあなたであることには変わりはないし」
妻はゆっくりと考えながら答えているようだった。
「それに、人間だもの。誰にも言いたくないことの一つや二つはあって当然じゃない?私だってあるのよ。あなたに言ってないこと……」
妻はフフフと笑った。
私はそんな妻を思わず抱きしめた。




